2010年7月17日土曜日

第一話:被害者一家と伊達・久遠・あすか

伊達の回想と夢で伊達の子供時代の出来事がある程度明らかにされた。

両親を助けようとヤクザの男に包丁を向けた幼い伊達は「殺せるものなら殺してみろ」という男に怯んで立ちすくむ。男は薄ら笑いで伊達の両親を殺し「おまえが俺を殺さなかったからおまえの両親は死んだ。おまえのせいだ」「悪を倒すには悪になるしかない」と嘯く。
その後両親の遺体をコンクリート詰めにする男を包丁で刺し殺すシーンがあるが、それが現実か伊達の願望が見せた夢であるのかどうかは今のところわからない。

今回の被害者が7才の少年だったのは、伊達が少年時代の出来事を回想するのに合わせたものだろう。
子供時代に感じた怒りと悲しみが、無残に殺された少年とその両親の慟哭によって呼び戻される。「どうしても殺したい相手がいたらどうするか」、その問いに井筒は「殺したら人間でなくなる」と答える。
伊達の両親の事件を知る井筒の言葉と考えると、井筒は伊達の温厚な笑顔の下にある抑えがたい怒りと殺意を感じ取っているのかもしれない。

今回伊達は凶悪犯を殺さなかった。それは殺したい欲求をギリギリで抑えた結果なのか、それとも最初から殺さないで島送りにする予定だったのか。もし最初から島送りにするつもりだったのなら二面性も葛藤も大して必要ではないだろう。

凶悪犯を撃った後、伊達が遺族に何らか報告をしているのも謎だ。遺族が新しい一歩を踏み出そうと決意し、伊達によろしく伝えて欲しいと深々と頭を下げているところをみると、伊達は遺族が納得いく形で犯人が罰せられたことを伝えているはずだ。

もし犯人は殺しましたと担当刑事から連絡を受けて、殺してくれてありがとうと遺族が深く感謝したのだとすれば、その遺族もかなりおかしな感覚の持ち主である。それまでの慟哭を見ても、この遺族は子供を深く愛していた普通の両親だ。普通の両親が納得いく形の処罰であればそれは合法的なものだろう。

「犯人の父親が検察の偉い人なので表立っては裁けませんが、ここだけの話警察には裁判なしに処罰を与えることが出来る裏の組織があるんですよ。犯人はそっちに送っておきました。あ、この話は誰にも言わないで下さいね」なんて報告であれば遺族も受け入れられるかもしれない。
しかしもしそんなもんが警察にあったら恐ろしい話だ。法が人を裁くのではなく、まさに人が人を裁くことになる。いわば組織ぐるみの私刑だ。そこに正義などない。

そのことを伊達は重々承知していながらも凶悪犯への激しい怒りを押えきれず、結局組織ぐるみの私刑に加担してしまい思い悩む、というのであれば展開としてまあ理解出来なくもない。しかしそれであれば初回に登場すべきキャラクターがもっといる筈だ。

最初から伊達が凶悪犯を殺すダークヒーローだったなら、堺は伊達一義を二面性も狂気もそなえた底のしれない刑事として演じただろう。しかし第一話に登場した伊達は人としての等身大の感覚を持つ感性豊かな男だった。

正直初回にして無法の番人としての伊達一義というキャラクターがドン詰まった印象があるが、ここは謎の多い久遠に活躍してもらって活路を開くのが一番てっとり早い。


初回ではバックボーンについて全く触れられなかった久遠だが、錦戸はストーリーラインの邪魔にならない程度に上手に久遠の内に秘めた怒りと底知れなさを匂わせてみせた。

捜査一課で「凶器は改造銃だとわかったが銃の特定は難しい」と零している頃、すでに久遠は凶器と同程度の殺傷能力を持つ改造銃を作り上げ、威力の確認と犯人の心情にまで迫っていた。

「満くん的にされてたんだよ。改造銃の威力を試すためにね。頬に泣いた跡が残ってた。怖かったろうな。どんなに泣き叫んでも、誰も助けてくれなかったろうし。…殺してやりて」

どんなに泣き叫んでも誰にも助けてもらえずなぶり殺しにされる子供の光景が、久遠の中に潜む何かに触れたのだろう。まだ容疑者も現れていない捜査の初期段階、警察官であれば「絶対に捕まえて法の裁きを受けさせてやる」というべきシーンで、久遠は犯人を「殺してやりたい」と言った。

伊達やあすかに比べて出番の多くなかった久遠だが、この「…殺してやりて」の一言で彼の中に潜む冷酷さと凶暴さを垣間見ることができる。
もしかすると久遠自身、被害者の少年のようにどんなに泣き叫んでも誰も助けに来てくれなかった経験をしているのかもしれない。

伊達の秘密に関してもおそらく久遠は気づいてしまっただろう。
鑑識課のはみ出し者ではあるが恐ろしいほど優秀な鑑識官久遠が、最後の現場で伊達のボタンを見つけて何も気づかない訳がない。
今回の神隠しに伊達が関わっていることを知った久遠がどう出るか。
どうも伊達と同じように私刑を行うようになる気がしてならない。もしかすると久遠は伊達が越えなかった一線をも越えてしまうかもしれない。

もし久遠が伊達と同じ道を歩む決心をするのであれば、久遠の心の傷も伊達に劣らぬ悲惨なものであると想像出来る。久遠については回を進めるごとに少しづつ明らかにされていくことだろう。
久遠がどう動くのかがこのドラマの面白さのひとつになる筈なので、視聴者が感情移入できるようなリアリティを持った役に育てて欲しいものだ。


被害者の少年に何かを重ねる久遠に対し、あすかは遺族の心情に自分の過去を重ねていた。
刑事で伊達とコンビを組んでいた兄夏樹が殺害された後の壊れていく家族の苦しみと悲しみを思い出し、遺族のために早く犯人を捕まえたいと願うあすかは、非常に真っ当な感性を持った刑事だった。

夏樹はなぜ殺されたのか、それに伊達はどう絡んでいたのか、2人と同期の来栖や伊達の恋人だった冴子が夏樹の死にどのような感情を抱いたのか、まだ何もわかっていない。
もしかするとそこにも伊達や冴子達の心に深い傷を残したような何かがあるのかもしれない。

あすかが兄の死についてどれだけ知っているのかはわからないが、いずれにせよあすかは兄の遺志を継いで刑事として生きることを決めた。その夏樹によく似たまっすぐな性格を伊達も井筒も微笑ましく見守っている。

あすかのまっすぐさが伊達や久遠にどう響くのか、それもドラマの見所のひとつだろう。


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