2010年9月14日火曜日

第九話:感想

いよいよ次回が最終回。
今回は夏樹と冴子を殺した犯人やJOKERの姿が明らかになっていく展開を、リズム良く楽しませてくれたと思う。
警察費内訳に記載されてしまう80億近い裏金といった「とんでも展開」はあったが、むしろここまで突き抜けているとリアリティの欠片もないぶんマンガ的でいい。

謎解きに尺を割いたぶん事件のストーリーラインは穴だらけだったが、直前で無理にストーリーの穴を埋めようとせず、敢えて役者のパワーに頼った点は正解だったと思う。
どの役者にも出来るものではないが、佐野史郎と梅沢昌代は見事にその穴を演技力で埋めてみせた。特に佐野史郎の安定感は素晴らしい。

視聴者にしてみれば「その点は描かれてなかったけど、きっとこの犯人だったらこういうことをしたんだよ」「きっとこのお母さんはこうだったんだよ」と想像を膨らませることでストーリーが胸にストンと落ちれば、消化不良感なく物語を楽しめるというもの。
冴子の弔い合戦としての意味しかなかった殺人事件に、あれだけの存在感を持たせることが出来たのは、佐野と梅沢のおかげだろう。

演出も役の心情をじっくり見せるところは見せていたし、アクションシーンの撮り方もよかった。
第三話や第六話のように複雑で繊細な心情をじっくり演出する回は今ひとつだったが、今回のようにガンガン話が進んでいく回では悪くない。


さて、今回ラストに久遠が刺されてしまったが、久遠を刺したのは一体誰なのかを含めて、最終回に向けて予想をしてみようと思う。

現段階では怪しいのは三上の井筒の2人に絞られたと言っていい。
夏樹・冴子・久遠を刺したのが同一犯なら犯人は三上だろう。
しかし、もしかすると三上と井筒は実は繋がっているのかもしれない。

現在、夏樹と冴子を殺した犯人を知っているのは久遠だけである。
冴子殺害現場に残されたDNAを警官DNAデータベースと照合させた結果、現場にいた捜査員以外のDNAは検出されなかった。しかし久遠はその警官DNAデータベースにからくりがあることに気づき、あすかに「お兄さんと冴子さんを殺した犯人がわかるかもしれない」と伝えている。

井筒は現場に現れているのでデータベースを細工する必要はない。井筒の言うとおり「現場検証の時に警官が毛髪や唾液を残してもおかしくない」。つまり、現場検証にはいなかった誰かのDNAが、現場検証にいた捜査官の誰かのものとして認識されてしまったのだ。
ではデータベースに細工を施して誤魔化したのはいったい誰のDNAだったのか?
おそらくは三上のものだろう。

今回、急に「警視庁」の伏線が登場したが、「警視庁」というのは「東京都」を管轄する警察本部のことで、「神奈川県警察本部」が「神奈川県」を管轄するのと同列の組織である。
細かく言えば、管区下か直下かという違いはあるが、都道府県に属する警察組織であることに変わりはない。

このドラマでは今まで明確に警視庁の人間として登場したキャラクターはいなかった。
しかしながら三上は刑事時代に「井筒とは現場でよく顔を合わせた」と話しているだけで、神奈川県警とも何とも言っていない。
ドラマで刑事時代の三上が登場したシーン追って見ると、神奈川県警察本部で伊達と会ったときに応接室を使っているのがわかる。神奈川県警本部同士や所轄の人間であれば応接室は使わない。
つまり三上刑事は神奈川県警から見たら外部の人間ということだ。

東京都に属する「警視庁」と神奈川県に属する「神奈川県警」の警察官は、国家公務員であるキャリア組を除き、採用試験からして全く別である。
井筒は最初の設定でノンキャリアの叩き上げであることが判っている。つまり地方公務員だ。
三上がキャリアであれノンキャリアであれ「警視庁」もしくは「警察庁」所属の刑事なら、ノンキャリアの地方公務員である井筒とは、たとえ同じ年齢であっても研修所などで一緒になることはほぼない。
管轄の違う組織に属している井筒と三上が、現場で顔を合わせるとしたら、広域捜査しかない。

隣り合う東京都と神奈川県では都県をまたいだ犯罪がよく発生する。
伊達の両親が横須賀で殺された事件も、それまでに犯人の灘木が繰り返していた事件が既に広域捜査の対象となっていたのだろう。
広域捜査に参加していたのであれば、三上のDNA情報も、神奈川県警の警官DNAデータベースに登録されているはずだ。

久遠は「618932」という試料と、冴子殺害現場で採取された試料「2010/08/26 618933-20 毛髪」の、DNA型鑑定と一致判定を科捜研に依頼した。
DNAデータベースのからくりによって合致すべきでないDNAが合致してしまったのだとしたら、からくりを証明するためには「合致しない」ことを期待する試料を鑑定に出したはずだ。
それを証明するように同封されていた「DNA鑑定報告書」のDNA型は一致していない。
そして鑑定書の鑑定結果には「鑑定試料のDNA型の鑑定結果は、元警視庁」(以下不明)と記載されてある。久遠はその記載を見て言葉を失った。
DNAが登録されていて、元警視庁の可能性がある、久遠がよく知る人物。おそらくそこに書いてあったのは三上の名前だったのだろう。

闇の制裁人の仲間になってから、久遠は三上のことを慕っていた。
伊達に助けてもらうまで他人と距離を置いていた久遠にとって、慕っていた三上が旧知の冴子を殺したと知れば相当なショックだろう。
久遠はすぐに伊達に連絡を取ろうとしたが、直前でそれを思いとどまっている。
伊達が恩人と慕う三上が親友と元恋人を殺したと知ったら、伊達は久遠以上のショックを受けるに違いない。久遠は誰にも言わず三上を尾行して、三上の真意を聞くつもりだったのだろう。

久遠が尾行をするために車を停めていた場所は神奈川県警の近くである。
実際には万国橋だが、県警付近をイメージしているシーンと考えていいだろう。
しかし三上のバーが県警の近くにあるという可能性も十分にある。

久遠が尾行した男がもし井筒だったら、久遠はサバイバルナイフを拾うために背を向けたりはしなかっただろう。
捜査一課長としての井筒は知っていても、それ以外の井筒の顔を久遠が知っているとは思えない。そんな相手に久遠があれほど隙を見せるとは考えられない。
おそらく久遠は、サバイバルナイフを落として気を削がれたはずの相手が、更に本気で自分を殺しにかかるとは思っていなかったのだろう。
久遠がそんな風に思う相手は、伊達か三上かあすかくらいなものだ。
その時間伊達は「闇の制裁」に出掛けているから犯人ではない。現場にいたあすかも当然違う。

演じている役者が違う可能性はあるが、久遠を刺した男は久遠より背が高い。
男が久遠に覆いかぶさるようにして刺している姿を見て、第四話や第五話で久遠に覆いかぶさるようにして脅しを掛けていた三上にダブった。体格差はちょうどあの程度だ。


夏樹・冴子・久遠を刺したのが三上だとして、なぜ井筒と三上が繋がっていると思うのか?
最も気になったのは警視庁での井筒の態度だ。

井筒はあすかと自分の会話が他の誰かに見られていることを知っていた。屋上ではその者と視線を合わせさえしている。
夏樹のCD-ROMの情報を考えれば、警視庁が敵の本丸である可能性は高い。そんなところで「警察に裏切られた」だの何だの話すこと自体が不自然だ。
加えて井筒は、今CD-ROMを持っているのがあすかであることを、その場で確認している。誰が聞いているかわからない場所で、そんなことを聞くのはおかしい。

巨額の不明金が動き始めたのは2003年4月。UNDERGROUND Vの13人のうち最も退官が早かった者の退官年月は、その1ヶ月前の2003年3月。怪しい動きはこの頃から始まっている。(余談だが警視庁に地下5階があるという話は都市伝説となっている)
神隠しが始まったのは2005年の12月頃。当時の実行犯の三上は、日向光明と吉住武徳の父親も裁いている。

そして2007年頃から三上と井筒は会話をしなくなった。
その理由は「おまえ、定年前に俺が警察辞めたこと、根に持ってんのか?」「そんなに心の狭い男じゃないよ、俺は。…ただ今更パクられたくないだけだよ」という会話に隠されているような気がする。

2007年といえば伊達が灘木を裁いて「闇の制裁人」になった年だ。
そのとき三上はまだ刑事だったから、井筒と口をきかなくなったのはその後だろう。
口をきかなくなった訳は三上が定年前に警察を辞めたことに腹を立てたからだろうか?
もしかしたら何かを探られないようにあえて距離を置いたのではないだろうか?

夏樹のCD-ROMのSheet3には「闇の制裁」の島流しの場所らしきデータが打ち込まれていた。緯度34.633208、経度139.759827。大島沖東南東約40kmの地点である。
おそらくJOKERとは法に裁かれなかった者を秘密裏に裁く組織で、その資金として巨額の裏金が動いていたのだろう。

ここからは全くの想像だ。
妻子を殺された三上は組織の「実行犯」役として2005年には既にJOKERの仲間になっており、JOKERに辿りついてしまった井筒と夏樹に警告をした。命の危険を感じた井筒はJOKERに寝返り、夏樹にも追うのを止めさせると約束するが失敗し、夏樹は三上によって殺害され、井筒も罪を着せられそうになる。
三上は「法で裁けなかった者を裁く」というJOKERの活動に賛同はしているものの、裁くことに痛みを感じないJOKERの在り方は違うと感じていた。
井筒も三上もJOKERの駒として働くが、2007年に伊達を仲間に入れたことをきっかけに三上は警察を退職して「闇の制裁」に専念。警察内に残った井筒はいい加減な中間管理職を装いながら「情報屋」として活動、三上にも裏で情報を流していた。
というストーリーはどうだろうか?いかにもありそうではないか?

井筒が「情報屋」であれば、第四話で冴子が「椎名高弘も神隠しにあう可能性があります」と言った途端にどこかに消え、そのせいで冴子は椎名の神隠しに間に合わなかったことも、井筒が「CD-ROMを持っているのは冴子」と知った直後に冴子が殺されたことも、「CD-ROMを持っているのはあすか」と知った直後にあすかが狙われたことも、警視庁で誰かが見ているのを承知の上であんな話をしたのも、すべて納得がいく。

一方三上にとっては、人を裁く痛みを知っている伊達は、理想的な「闇の制裁人」だったろう。「法から逃れた者を裁く」という活動を絶やさないためには、阻害要因である冴子やあすかを始末することも止むを得ない。仲間として評価しつつあった久遠が真実に辿りついてしまったのは、三上にとっては計算外だった。というところではないだろうか?

最終回でJOKERの全貌が明らかになり結末を迎えるには、15分延長程度では足りないだろう。おそらく続篇かSPが予定されていると思われる。
海外のドラマのように衝撃的なシーンでクリフハンガーだけは勘弁だ。

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フジテレビ・オン・デマンドジョーカー許されざる捜査官
一話315円、全話1575円

2010年9月13日月曜日

第九話:伏線?セリフ集

(穀物倉庫。絶命している冴子に気づくあすか)

あすか「冴子さん?…冴子さんッ!」

伊達「もう息はない」

あすか「…伊達さんじゃ…ないですよね?」

伊達「もしそうなら、ここにはいないよ。君はどうして?」

あすか「9時に…ここで兄の事件の真相がわかるからって…」

(伊達、冴子の傷口を見る)

伊達「宮城が殺されたときと同じ手口だ」

***********************************************************

(冴子の遺体を前に現場鑑識を始めている鑑識班。来栖、堀田、轟が到着)

武本「亡くなったのは…」

来栖「わかってる。片桐冴子。ルポライターだろう?」

(久遠が現場に駆け込んでくる)

溝口「おまえ何やってたんだよ!」

久遠「(冴子の遺体を見て)…うそだろ」

堀田「どうなってんだよ?…この人、元警官だったんだろ?」

「しかも第一発見者は…」

捜査一課刑事「伊達さんは片桐さんからの電話を受けてここに来たんですよね」

(頷く伊達)

捜査一課刑事「その電話の時点でおそらく片桐さんは犯人に刺されていた」

(井筒、現場に到着)

来栖「課長」

(井筒、冴子の遺体の前にくる)

井筒「死亡推定時刻は?」

武本「午後9時頃です」

井筒「凶器は?」

溝口「サバイバルナイフだと思われます。腹部を刺してから突き上げるようにして上方へ」

井筒「(冴子の死に顔を見つめ)…バカが…」

(あすか、鋭い視線で井筒を見つめる)

***********************************************************

(捜査一課)

来栖「目撃情報はいまだゼロです。あのへんは昼でも一通りが少ないらしくて」

堀田「鑑識からも特に犯人に繋がる情報は得られてません」

井筒「3日たっても何も出てこないか」

「あれだけハデに殺しといて」

井筒「プロの犯行で間違いないだろうなぁ」

来栖「プロ?」

あすか「(静かな口調で)それは警察官の可能性もあるってことですか?」

(来栖たち、あすかを見る)

井筒「そうかもね」

***********************************************************

(捜査一課、小原節子との面会を終えた伊達が入ってくる)

伊達「課長」

井筒「ん?」

伊達「(横浜女子大生バラバラ殺人事件)のファイルを出して)この事件、追わせてください。新たな情報が入りました。もしかしたら真実がわかるかもしれません」

来栖「おまえ何いってんだよ!もう時効なんだぞ?」

(伊達、井筒を見つめる)

井筒「わかった。好きにしろ」

来栖「課長!」

井筒「(伊達を指さして)言っても聞かないもん」

伊達「ありがとうございます」

(納得がいかない表情のあすか、捜査一課から出て行く伊達を追いかける)

あすか「どうして冴子さんの事件追わないんですか」

伊達「時効が成立しているからと言って有力な手がかりを無視するわけにはいかない」

あすか「そうじゃなくて!…あなたは冴子さんの事件を追うべきなんです。冴子さんをあんな目に合わせた犯人を捕まえるべきなんです」

伊達「そうだねえ」

あすか「どうしてそんなに平気でいられるんですか?冴子さんはまだ伊達さんのことが好きだったんですよ?」

伊達「私情を挟むな。…操作の基本だよ?」

***********************************************************

(バーMikami、ビールをヤケ飲みするあすか)

あすか「あー、ムカつくっ!恋人だった人が亡くなったっていうのに…」

三上「伊達か?」

(あすか、無言)

三上「冷たいとか思ってる?」

あすか「っていうか、よくわかりません。あの人」

(三上、カウンターの外に出る)

三上「実は冴子ちゃんが亡くなった次の日、あいつはじめてイチゴミルク以外のものを注文したんだ。冴子ちゃんがいつも飲んでいたウイスキーだよ。何杯も飲み続けて、結局一時間も吐き続けた」

(回想シーン。洗面所に手をついている伊達。三上「大丈夫か?」伊達「ちょっと飲み過ぎちゃいました」)

三上「吐いた涙に見せかけて。バカなやつだよ。…でもそういう男なんだ。あいつは」

あすか「でも…だったらどうして時効事件なんか…」

三上「それ、20年前のバラバラ殺人じゃない?」

あすか「はい」

三上「やっぱり。その事件は冴子ちゃんが担当した最後の事件なんだ」

あすか「え?」

三上「最後にして唯一時効にしてしまった殺人事件。冴子ちゃん酔うといつもその事件のこと悔やんでた。伊達なりの弔い合戦なのかもしれないな」

***********************************************************

(小原家)

節子「冴子さん、毎年必ずお線香上げに来てくださったんです」

(伊達の脳裏に仏壇に線香を上げて祈る冴子の姿が浮かぶ)

節子「そんな人がまさか殺されるなんて。どうしていい人に限って早く逝ってしまうんでしょうね」

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(夜。捜査一課に戻ってきたあすか)

あすか「戻りました」

来栖「おい宮城」

あすか「はい」

来栖「科捜研からだ。(資料をあすかに渡す)片桐冴子が殺された現場で採取したDNAと警官のデータを照合した結果だ。現場にいた捜査員以外のDNAとは合致しなかった」

堀田「おまえが言ってた警察内部の犯行じゃないってことだ」

「読みが外れたな」

(あすか、悔しそうに席に着く。ふと夏樹のCD-ROMを思い出して鞄から取り出す)

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(回想)

あすか「冴子さん」

冴子「ごめんね、職務中に」

あすか「どうしたんですか?」

冴子「夏樹が殺された前日の足取りを追ってったら、信用金庫で夏樹が貸金庫を持っていたことがわかったの」

あすか「貸金庫?」

冴子「でも本人以外は遺族しか見られないらしくって」

あすか「わかりました。行きましょう」

(信用金庫の貸金庫室。夏樹の貸金庫を開けるあすか。そこには「Natsu」と書かれたCD-ROMが一枚入っていた)

あすか「CD-R?」

冴子「これを見れば夏樹が追ってたものがわかるかも」

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(あすか、夏樹のCD-ROMを自分のPCに挿入する。パスワードが要求される)

あすか「パスワード?」

(MIYAGIもNATSUKIもパスワードではなかった)

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(あすかと井筒、無人の会議室に入る)

井筒「何だよ、用ってのは」

(あすか、井筒の前に夏樹のCD-ROMを差し出す)

あすか「これに見覚えはありませんか?」

井筒「片桐が持っていたやつか」

あすか「やっぱり冴子さんが殺される前に会ってたんですね。でもこれはパスワードがないと内容がわからないです。何かご存知でしたら教えてください」

井筒「君は知らなくていい」

あすか「冴子さんの現場で採取したDNAは警官のDNAデータと照合した結果、現場にいた捜査員以外のものとは合致しなかったそうです」

井筒「それは来栖から聞いたよ」

あすか「でも裏をかえせば、現場にいた捜査員のDNAは残ってたってことですよね」

井筒「そりゃ現場検証の時に警官が毛髪や唾液を残してもおかしくないだろ?」

あすか「犯人はそれを知った上で現場に来たって考えられませんか?容疑から逃れるために」

井筒「俺を疑ってるのか?…くくっバカバカしい」

(井筒、部屋から出て行く)

***********************************************************

(久遠部屋、小原美咲の遺品を調べる伊達と久遠。そこへあすかが入ってくる)

久遠「どした?」

(あすか、伊達を睨みながら夏樹のCD-ROMを差し出す)

あすか「これ。5年前に兄が遺したものです。兄の事件に関係しているかも知れません。でもパスワードがないと見られないです。伊達さんなら何か知ってるかと思って」

久遠「お兄さんの事件に関係してるなら、同じ手口で殺された冴子さんの事件とも繋がりがあるかもね」

伊達「この中身を知ることで宮城や片桐くんのように君にも危険が及ぶかもしれない」

あすか「…それでも真実が知りたいです」

(伊達、夏樹殺害現場から井筒が夏樹の携帯を持っていったことを思い浮かべる)

伊達「宮城の携帯に何かヒントが隠されてるかもしれない」

久遠「5年前の事件ならここに保管されてるんじゃない?」

(久遠立ち上がって探しに行く)

久遠「あったあった。お兄さんの遺留品」

(遺留品保管箱を開けて中から携帯電話を取り出しあすかに渡す。携帯の中を確認するあすか)

久遠「どお?」

あすか「ないですね…」

伊達「削除された可能性もある。久遠くん。君の出番だ」

久遠「調べてみる。(あすかに向かって)何か出てきたらちゅーね」

あすか「しません。でもお願いします。私は冴子さんの事件に戻ります。(伊達に)時効事件、冴子さんの担当だったんですね。…冴子さんの無念を晴らしてください」

伊達「がんばります」

***********************************************************

(久遠部屋。ノックもしないであすかが入ってくる)

あすか「パスワードがわかったって本当ですか?」

久遠「ちゅーよろしくね」

あすか「しません」

久遠「(夏樹の携帯を開く)5年前の事件前日、お兄さん、こんなメールを井筒課長のもとに送ってる」

(携帯を覗き込むあすかと伊達。そこには「データをCD-Rに落としました パスワードは「JOKER」」の文字が)

あすか「JOKER…」

久遠「CD-Rいい?」

あすか「はい」

(PCにCD-Rを入れてパスワードJOKERを入力。表計算ソフトで作られたファイルが開く)

あすか「これは…」

伊達「JOKERという口座に毎月警察から振り込まれている」

久遠「口座名がパスワードになってたんだ」

あすか「その…JOKERって何なんですか?」

久遠「(画面をスクロール)18億…。他にもページある」

(久遠、Sheet2をクリック。UNDERGROUND Vと書かれたページが表示される)

久遠「なんだこれ?」

伊達「警察のトップクラスの人間ばかりだな」

久遠「ってことはさっきの…裏金?」

伊達「その可能性はある。だがそれにしても金額が大きすぎる」

あすか「このUNDERGROUND Vっていうのは…」

伊達「地下五階…。ここに並んでいるのは警視庁のOBばかりだ」

あすか「じゃあ警視庁の地下5階に何かがあるってことですか?」

久遠「でも確か警視庁って地下4階までだよね」

伊達「あるいは地下5階が実際に存在する」

(久遠、Sheet3をクリック。34.633208,139.759827という数字が現れる)

伊達「何だ、この数字」

久遠「このCD-Rも複製できないようにロックされてるし、君のお兄さんは相当ヤバイことに足突っ込んでたんだろうね」

***********************************************************

(捜査一課に戻ってきた伊達、あすかがいないことに気づく)

伊達「あれ?宮城くんは?」

滝川「いえ見てませんけど」

井筒「ん?どうかしたのか?」

伊達「いえ別に」

(伊達、部屋から出て行こうとして踵を返す)

伊達「課長。…警視庁の地下五階。聞いたことありませんか?」

***********************************************************

(警視庁の階段を降りていくあすか。地下4階で地下5階に行く道を探すあすか。目の前には観音開きの扉。背後から声がかかる)

井筒「探しても無駄だ」

(ふりかえるあすか。近づいてくる井筒。あすか、思わず後ずさる)

井筒「警視庁に地下5階はない。正確に言えば、誰も見たことがない。まさかパスワードを見つけるとはねえ」

あすか「課長は何を知ってるんですか?教えてください!私は真実が知りたいんです」

(2人の視線がぶつかる。井筒は軽く顎を振って「付いてこい」と背を向けて歩き出す)

あすか「課長?」

(追うあすか。その一部始終を防犯カメラが見ている)

***********************************************************

<5年前>

(捜査一課。井筒、夏樹に東京都の「平成17年度4月分警察費内訳」を見せる)

井筒「これを見てみろ。警察内に不透明な金が流れてる。機密費とあるがかなり莫大な額だ」

夏樹「たしかに額がでかいですね」

井筒「もしかしたら上層部の不正かもしれん。腐った奴らを一斉排除するチャンスだ」

夏樹「俺に追わせてください」

井筒「出来るか?」

***********************************************************

(警視庁の屋上)

井筒「あのころ俺は警察にまだ希望を持っていてね。人並みに正義感もあった。だから情報屋として使ってたチンピラに探りをいれさせた。1ヶ月がたった頃かなあ、あるネタを掴んだという知らせが入った。だがその直後、その西崎という情報屋は消された」

***********************************************************

<5年前>

(会議室。西崎の遺体の前で知らないふりをした井筒に対し)

夏樹「どうして知らない振りをしたんですか?」

井筒「殺された西崎は俺達が追っているネタを掴んでいた。おそらくそれが原因で殺されたんだ。この事件に深入りすんのは危険だな。これ以上追うな」

夏樹「そんなこと言われて納得出来るわけがないでしょう」

井筒「まだわからないか!これは警告だ。俺達も感づかれてるかもしれない」

夏樹「井筒さんは知りたくないんですか?あの裏金が何に使われてるのか!…俺は追いますよ」

***********************************************************

(警視庁の屋上)

井筒「俺があそこで無理にでも止めていれば宮城はあんなことにならなかったかもしれない。君の兄貴は俺が殺したようなもんだ。俺にやれることといえば宮城が掴んだ情報を守ることだけだった。だが俺もワケの分からないタレコミで容疑者にされる始末だ」

あすか「それを救ったのが…伊達さん」

井筒「ああ」

***********************************************************

<5年前>

(取調室)

伊達「あなたはコンビニ強盗殺人を私と一緒に追っていた。そうですね?」

(同意する井筒)

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(警視庁の屋上)

井筒「あいつの嘘の証言のおかげで俺はスケープゴートにならずに済んだ。警察に…裏切られた。信じていた警察に、裏切られた。いつの間にか俺は事なかれ主義のサラリーマン刑事になってしまった」

あすか「どうして捜査資料を一枚抜き取ったんですか?」

井筒「君や片桐が真実に辿りつかないようにするためだ。もともとは俺が招いたことだ。あれ以上犠牲者を出すわけには行かなかった。だが、片桐も殺された。もうこれ以上黙って見過ごすわけにはいかない。何としてもホシを上げる」

あすか「その言葉、信じていいんですね?」

井筒「…ああ。だけど、裏金を受け取っているJOKERが何なのか、警察OBがどう関与しているのか、わからねえんだよ。だからまだ今は動かないほうがいいと思う。そのうち向こうがアクションを起こすだろう」

あすか「わかりました」

井筒「CD-Rはどこにある?」

あすか「私が持ってます」

井筒「そうか。大事に持っとけよ」

あすか「はい!」

(そんな2人を物陰から見ている者が。井筒はその者と一瞬視線を合わせる。あすかは気づかない)

***********************************************************

(応接室)

伊達「鈴川孝太は書類送検されましたが、時効の完成が認められたため不起訴処分となりました」

節子「そうですか。…ありがとうございました。(無念を滲ませ)…時効制度の撤廃がもう少し早ければ、不起訴にならずに済んだんですよね?」

(拳を握りしめ悔し涙を堪える節子を見つめる伊達)

(応接室を出るとあすかが立っている)

あすか「お疲れ様でした」

(伊達、言葉を発することなく手かざすことであすかに応えて去っていく)

***********************************************************

(久遠部屋に入っていくあすか)

あすか「久遠さん、何ですか用って?」

久遠「もしかしたら、お兄さんや冴子さんを殺した犯人が分かるかも知れない」

あすか「どういうことですか?」

久遠「警官のDNAデータベースにからくりがあったんだ。もうすぐ科捜研の結果が出る」

***********************************************************

(捜査一課に戻るあすか。井筒も強行犯4班も誰もいない。あすかの携帯が鳴る。19:32、非通知での着信)

あすか「(電話に出る)はい」

謎の声「(ボイスチェンジャーを噛ませた声で)宮城あすかさんですね?」

あすか「誰ですか?」

謎の声「JOKER、といえば分かりますか?…これからお会いできませんか?CD-Rと引換えにお兄さんを殺した犯人をお教えします(電話が切れる)」

(部屋を飛び出すあすか)

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(科捜研の結果を開く久遠。DNA鑑定書を見て衝撃を受ける)

久遠「なんでだよ…」

(久遠、携帯を取って伊達に連絡しようとするが、何かを思い携帯を閉じる)

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(バーMikami。店の電話が鳴る。三上、電話に出る)

三上「はい」

久遠「久遠だけど、今日そっちに行けなくなった、急用が出来ちゃって。ごめん」

三上「わかった。伊達には俺から伝えておく」

***********************************************************

(横浜、神奈川県警付近の路上。誰かを尾行しようと車で待っている久遠。20:33)

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(夜。鈴川の画廊。鈴川は電話でヌード写真をネタに誰かを脅迫している。そこに伊達が現れ、鈴川に向けて麻酔銃の銃口を向ける)

鈴川「撃つな。待ってくれ頼む。俺には家族がいるんだ。俺がいなくなったら家族が悲しむ。いいのか?おまえのせいで周りの人間が傷つくんだぞ?」

(伊達の脳裏に冴子の「正義って何だろうね」という言葉が蘇る)

伊達「それでも。俺はおまえを裁く。おまえに明日は来ない」

(伊達、引き金を引く)

***********************************************************

(冴子が殺された根岸の穀物倉庫。フードを被った怪しい男が現れ、入り口である階段の下にタンク脇に潜む。尾行している久遠。そこにあすかが現れ、階段を登っていく。立ち上がる謎の男。久遠の表情が緊張する)

(穀物倉庫の中に入るあすか。そこには誰もいない)

(あすかを追って階段を登ろうとする男を久遠が掴んで投げ飛ばす。フェンスに身体をぶつける男)

久遠「彼女に何の用だよ」

(ゆっくり振り向く男)

久遠「(悲しそうな声で)あんたの後つけながら心の中でずっと祈ってたよ。全部嘘であってくれって。…あんたが宮城夏樹と冴子さん殺したのか?」

(男、ゆっくりとサバイバルナイフを持ち上げ、反転させて刃先を上に向ける。それを見下ろし、男の顔を見る久遠)

久遠「(悔しそうに)何でだよ」

(男、久遠に襲いかかる。男の背中を取って抑えこむ久遠)

久遠「なんでこんなこと」

(久遠、男の手を自分の膝に打ち付ける。男の手からサバイバルナイフが落ちる。久遠、男の体を思い切りフェンスに投げつける。その音に気づくあすか)

久遠「知りたくなかったよ。これが真実なのかよ」

(久遠、無防備に男に背を向けサバイバルナイフを拾う。男、折り畳みナイフを取り出し、躊躇いもせず振り返った久遠の左上腹部を刺す。そのまま上方にねじ上げようとする男の手を抑えて抵抗する久遠。朦朧としながら自分を殺そうとしている男を見る)

(倉庫から飛び出てくるあすか。階下を見ると久遠と謎の男がいる。男、あすかが出てきたことに気づき逃走。崩折れる久遠)

あすか「久遠さん?(久遠の上腹部から大量の血を流れているのを見て)久遠さんっ!」

(久遠、苦しそうに顔を歪ませるだけ)

あすか「(泣きそうな声で)久遠さんっ!久遠さんっ!!」

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(車を運転する伊達の携帯が鳴る。発信者はあすか)

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フジテレビ・オン・デマンドジョーカー許されざる捜査官
一話315円、全話1575円

2010年9月11日土曜日

第九話:あらすじ

伊達一義(堺雅人)は、片桐冴子(りょう)が5年前に刺殺された宮城夏樹(丸山智己)と同じ手口で殺害されていることに気づく。鑑識の捜査の結果、凶器も夏樹殺害と同じサバイバルナイフだったとわかった。

事件後3日が経っても、冴子を殺した犯人の目撃情報すら出てこない。井筒将明(鹿賀丈史)らは、プロの犯行だと断定。警察官の犯行の可能性もあると聞いた宮城あすか(杏)は、言葉を失う。

そんな折、5年前に時効が成立した事件の遺族が、新たな手がかりを見つけたと言ってやってくる。それは20年前、当時大学生の娘・美咲(森口彩乃)を殺害された母・小原節子(梅沢昌代)だった。節子が持参したのは、美咲が亡くなる1ヵ月前に20年後の自分に向けて書いた"未来郵便"で、そこには、「S先生と自分はどうなっているんだろう」と書かれていた。節子は、そんな人物を知らないが、その者が犯人に違いないと感じていると言う。時効直前、その事件を追っていたのは冴子だった。捜査資料に冴子の名前を見つけた伊達は、時効度外視で事件を追うことを決める。

その後、伊達と久遠健志(錦戸亮)が、「S先生」について調べていると、美術教師の鈴川孝太(佐野史郎)という人物に行き当たる。

同じ頃、あすかは夏樹が貸し金庫に預けていたCD-Rを開けずにいた。思いつくままにパスワードを入力するが、どれも合致しない。久遠に助けを求めると、一緒にいた伊達が、夏樹の携帯電話のメールにヒントがあるのではないかと言う。そして、削除されていたデータの復元を久遠に依頼する。

後日、鈴川が経営するギャラリーにやってきた伊達は、鈴川に美咲の件を切り出す。すると鈴川は、美咲と付き合っていたことは認めたが、殺害は否定した。そんななか伊達は、鈴川が自分の血液を使って描いたという絵を持ち帰り、久遠にDNA鑑定を頼む。その結果、美咲殺害現場に残されていたDNAと一致することがわかった。

さらに、久遠は、CD-Rのパスワードが「JOKER」であることも突き止めた。伊達、あすかが見守るなか、パスワードを入力すると、パソコンの画面に数字や記号が現れた。それは、警察の機密費が、JOKERという口座に振り込まれていることを示していた。また、次のページには、「UNDERGROUND  V(アンダーグラウンド ファイブ)」との表記があり、元警察官たちの名前が書かれた名簿があった。アンダーグラウンド ファイブとは、地下5階を意味する。名簿に名前がある人物が警視庁のOBであることから、警視庁の地下5階に何かあるのでは、とあすかが尋ねる。しかし、警視庁には地下4階までしかないのだ。

地下5階の謎が気になるあすかは、警視庁に行き、地下を調べ始める。とそこへ、井筒が現れた。真実が知りたい、と訴えるあすかに、井筒は重い口を開く――。

それは、5年前、警察内部に不透明な金が流れていることに気付いた井筒は、そのことを夏樹に告げた。正義感の強い夏樹はすぐに捜査を開始し、井筒も情報屋を使い内偵を進めた。ところが、1ヵ月後、情報屋が何者かにより殺害され、その後すぐに、夏樹も同じ手口で殺害されたのだ。井筒は自分たちが探ろうとしていたものが、非常に危険な真実だと確信し、夏樹に事件から手を引くようにと警告した。しかし、真実を追求したい夏樹はそれを聞かず、事件を追ったのだ。自分が無理にでも止めていれば、夏樹は死なずに済んだのかもしれないと、井筒は悔恨の表情を見せた。また、冴子とあすかの身を守るために、夏樹事件の捜査資料を抜き取り、真実から遠ざけようとしたことも明かした。しかし、冴子が殺害された今、必ず犯人を探し出す、とあすかに誓った。そんなふたりのやりとりを、身を潜めて見ている人物がいた。

その頃、伊達は美咲殺害を自供した鈴川を取り調べていた。容疑を全面的に認めた鈴川だったが、時効が成立しているため、不起訴処分となる。しかし、伊達はさらに鈴川の件を調べ、鈴川が複数の生徒にヌードモデルになるよう強制したうえ、裸体を隠し撮りし、脅迫のネタに使っていたことを掴む。美咲もそんな被害者のひとりだったが、卒業を機に鈴川を訴えると言い出したため、殺害されたのだ。しかも驚くべきことに、20年経った今も、鈴川は同じ手口で女性らを脅迫していたのだ。伊達がそのことに言及しても、反省の色すら見せない鈴川。伊達は、そんな鈴川に向かい麻酔銃を発砲した。

一方、あすかは、「JOKER」を名乗る人物からCD-Rと引き換えに、夏樹を殺した犯人を教えると言われ、冴子が殺害された倉庫へやってくる。と、そこへ久遠も現れる。久遠は、フードを被りナイフを持った男が、あすかを追おうとしているのを引きとめた。ふいをつかれ振り返った男に久遠は、「あんたが宮城夏樹と冴子さんを殺したのか」とにじり寄る。そして、こんな真実なら知りたくなかった、と言ったとき、男にナイフで腹を刺される。すると、物音を聞きつけたあすかが駆け下りてきた。あすかを認めた男は、逃走してしまう。

その頃、伊達は、眠らせた鈴川を乗せた車を走らせていた。あすかから、非常事態を告げる電話がかかっていることにも気付かずに…。 


(以上公式サイトhttp://www.fujitv.co.jp/JOKER/index.htmlより)


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一話315円、全話1575円

第九話:概要

放送日: 2010年9月7日
タイトル: 「CRIME9 時効…真実に怒りの裁き!」
演出: 都築淳一


<ゲスト>

鈴川孝太: 佐野史郎


小原美咲の母: 梅沢昌代

小原美咲: 森口彩乃



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第八話:感想

脚本がどうの、演出がどうの以前に、3週も引っ張った問いかけの答えが、あまりにも稚拙で思いっきり脱力してしまった。

制作側が言っているのはつまり「犯人がマジでムカつく悪党で、逮捕するだけの物証がなくて、裁くほうも苦しみを感じていて、終身監禁でも殺しさえしなければ、それを正義とは呼ばないまでも、第三者が自分勝手に他人を制裁したって仕方がないじゃん、そうさせる世の中がいけないんだからさ」ということだ。

それをやるんなら伊達をもっとしっかりダークヒーローにしとかないと。
これじゃあ単に私刑を推奨しているのと変わらなくなってしまう。
このドラマは舞台は実在の組織である神奈川県警察本部、ドラマの冒頭にはご丁寧にも事実に基づくことを仄めかすようなキャプション付きだ。
伊達にヒーロー性をもたせたい気持ちはわかるが、もう少し慎重に、充分に練り上げたものを出すべきだろう。

今回、前述のような「伊達の信じる正義」が示されることは容易に想像がついたが、実は楽しみにしていたことがもう一つあった。
日向と吉住という「初めて2話連続で登場する犯人」の内面がどのように描かれるのかということだ。
全10話で第七話と第八話に登場なら中ボスクラスの敵だろう、役者も悪くない。
しかし、こちらも残念なことに、始まって10分しないうちに「いつもの情状酌量の余地がない悪人」であることが読めて急速に萎えてしまった。

主人公の伊達も、前回はカッコよかったのに今回はいいとこなし。
吉住・日向兄弟と伊達・久遠コンビを年上と年下に分けて対決させていたが、吉住に対して「殺して全てが解決するのか?」と言わせたいだけなら、捕えられるのは伊達ではなく久遠で充分だった。
日向と久遠の精神面が危うい若造対決も面白かったが、この回は「伊達の正義」と「日向の正義」が正面からぶつかる回だ。何も知らない捜査一課の面々を前にした、伊達と日向の息詰まる攻防も見てみたかった。

結局、伊達と日向が対決したのは、前回のラストシーンと今回の闇の制裁シーンのみ。
前回は日向の言葉に激しく動揺した伊達が、今度は毅然と日向を制裁する。
こんな内容なら2週に分けず1週にまとめてしまってよかったと思う。


さきほど「ダークヒーロー」と書いたが、「ヒーロー」が人々の危機に現れて賞賛されるべき行為で人々を救うのに対し、法に反した手段を用いて自分の信じる正義を果たそうし、その正義のあり方が人々から共感を得ているのが「ダークヒーロー」と呼ばれるキャラクターである。
仇討を請け負う「必殺シリーズ」の中村主水や、個人の判断で犯罪を取り締まる「バットマン」のブルース・ウェイン、昼間は盲目の弁護士、夜は法から逃れた者を裁く「デアデビル」のマット・マードック、殺戮も躊躇わぬ私刑執行人「パニッシャー」のフランク・キャッスルなどがそれにあたる。

無法の番人である伊達たちは当然のことながらヒーローではありえない。
制作側も当初「このドラマはピカレスク(悪漢)ドラマ」だと話していた。
つまり伊達たち「闇の制裁人」は最初からヒーローではなくダークヒーローとして設定されていたわけだ。

通常「ダークヒーロー」は正規の警察組織には属さない。中村主水のように属している場合でも、その中で自分の正義を実現しようとはしない。
それはそうだ。警察官として正規の手段で正義を果たすのであれば、それはもはや「ダークヒーロー」ではなく「ヒーロー」側の人間になってしまう。

本来「ダークヒーロー」は権力の駒として活動はしない。
自分の信じる正義を果たすためには法に反した手段しかなかった、というのがダークヒーローがダークな道を選んだ理由だからだ。
だからダークヒーローは自分が信じた正義を厳密に守ろうとする。バットマンが悪人を殺さないのも、パニッシャーが躊躇わずに殺すのも、彼らの信念に基づくものだ。
権力の駒として権力の意向に従って活動するんじゃ、ダークな世界に身を投じてまで自分の信じる正義に殉じようとした意味がなくなってしまう。

そして「ダークヒーロー」の心のなかには、自分の信じる正義が本当に正義なのか、という問いが常にある。
自分の信じる正義を果たすために大量殺人を行ったり、他人の幸せを奪ったり、犯罪者を無罪にしようとしたり、傍から見たらとても正義とは思えない出来事は多々ある。
ダークヒーローのしていることも法から見ればただの犯罪者だ。
では、自分の信じる正義という名のもとに間違った行いを繰り返す者と、ダークヒーローの違いは何か?それは考え続ける努力を止めないということに尽きる。

もしダークヒーローが考えることを放棄して「自分の行っていること=正義」という短絡的な認識のもとに行動するようになったら、どこかでただの犯罪者に成り下がる。悪人の典型的なパターンだ。
自分の存在意義である「自分の信じる正義」を常に真摯に考え続けているからこそダークヒーローはダークヒーローとして成り立つのだ。


正義、正義と連発したが、日本人にとって「正義」という言葉は強すぎて拒否反応があるかもしれない。
正義とはつまり「人として正しくあろう」とすることだ。
立派な人間でも誉められた人間でも優しい人間でもないし、いざというときに逃げちゃうかもしれない駄目な人間だけど、出来るなら人として正しくありたい。そう思えるならその人の中にもちゃんと正義はある。

今回明らかになった伊達にとっての「闇の制裁」を行う理由は、「裁かれるべき悪人が裁かれないから裁く、それを正義とは言わないが、その現実がある以上仕方がない」というものだった。
正直なところ、伊達が「闇の制裁」をするには何か別の理由があると思っていたのだが、今回のストーリーでそれらの芽も消えてしまった。

この伊達の考えと行動に対し視聴者から共感を得る為にはまず、「伊達が”人として正しくあろう”とするには、法を無視した”闇の制裁”しかなかった」という背景が必要になる。
そのためには「法で裁けなかった犯人」が必要で、「優秀な刑事である伊達が、どうやっても法で裁くところまで持って行けなかった」というストーリーそのものが、伊達の行動に説得力を与える。
だから本当はそのストーリーに決して手を抜いてはならなかったのだ。

今回、伊達は日向を「闇の制裁」に処したが、日向は「美代子が偽証を証言しさえすれば逮捕出来る犯人」だったはずだ。前回、伊達自身がそういって美代子を説得している。
その美代子が「偽証を認めて出頭する」と言っているのだから、伊達は「法で裁ける者は法で裁く」の言葉通りに日向を法で裁くべきだった。

三上は「遺族の明日のため」に闇の制裁を行っていると言っていた。しかしたとえ遺族であっても罪は罪である。
制作側の価値基準では「相手のためを思うなら罪を揉み消してやるべき」なのかもしれないが、それは多くの共感が得られる考えかたではないだろう。
気性のはっきりした美代子にとってはむしろ、自分の罪を明らかにして裁きを受けることこそが、死んだ夫とお腹の子に恥じないためのけじめになったのではないだろうか。
そもそも罪と言っても日向に脅迫されての偽証だし、遺族感情を考慮されて不起訴になる可能性が高い。

自身の職務として正しい方法で裁けたのに、なぜ伊達は「闇の制裁」に処したのか?
ドラマを見ている限り「単に伊達が法ではなく自分の手で制裁したかったから」にしか見えない。
第六話で自ら久遠に言った「目撃証言が出たから逮捕出来る。”こんなクズはいなくなったほういい”なんて、そんなことは君が決めることじゃない。法で裁ける者は法で償わせる。俺達がやっていることは復讐じゃない」という言葉を、伊達はどのように思っているのだろうか。

第二話でも伊達は、春日の48時間拘束の切り札に使った折り鶴の件で「金庫」が「可愛らしい手提げバッグ」のことだと知りながらも、春日を闇の制裁に処する決め手にするために敢えて取調べではそのことを話さなかった。
もし伊達が「高原スズエさんは可愛らしい手提げバックを”金庫”と呼んでいました。その中に入っていたんですよ」と言えば、48時間拘束で冷静さを失いつつあった春日は観念して自白したかもしれない。

このドラマでは「証拠を掴むのは難しい」「物証がないから法では裁けない」というシーンも多いが、凶悪事件のしかもあんなに物証を取りやすいケースで「物証が取れませんでした」なんて言ったらそれこそ笑いものだろう。

こういった安易な展開が、「優秀な刑事である伊達が、どうやっても法で裁くところまで持って行けなかった」という印象を視聴者に与えず、闇の裁きを決断する伊達に説得力を与えなかった。
遡ってそれは「伊達が”人として正しくあろう”とするには、法を無視した”闇の制裁”しかなかった」という共感も減じさせた。

しかも、その「闇の制裁」の背後にあるものについて、伊達は全く興味を持っていない。
裁いた人間が殺されないまでもどのような人生を送ることになるのか、監獄を維持する資金がどこから流れているのか、三上の他に誰が関わっているのか。神隠しを追っていた冴子が殺されたというのに、神隠しの実行犯である自分の背後にある権力に疑問を抱く様子もない。
「俺の役目は法で裁けなかった人間をここに連れてくるところまでだ。そのあとどうなってるか知らないし知りたいとも思わない」と言い切っている。

「自分が信じる正義」についても、日向に「僕はあなたと同じだ」と言われて動揺はしたが、結局「俺は人を裁くことに痛みを感じてるし殺してる訳じゃないから日向とは違う」という、自己弁護でしかない短絡的な認識を得ることで、自分自身を肯定してしまった。
自分が裁いた相手が”本当のところ”どうなっているかなど、その点に全く興味を抱いていない伊達に知りようなどないのだが。

伊達が「闇の制裁人」になったきっかけは灘木だ。
子供だった伊達に刺されたものの一命を取り留めた灘木が、刑務所から出所した後も悪事を繰り返し被害者を出していることを知った伊達は、自分自身の正義感に則って闇の制裁を行った。

灘木も充分逮捕出来た犯罪者だと思うが、目の前で罪の無い人間を死に追いやった灘木を、伊達は、法の裁きを受けさせる努力もせずに「闇の制裁」に処した。
そこに重みや痛みを感じていたかどうかは、それが「正義」であるかどうかには全く関係がない。その痛みや重みが免罪符になる訳もない。
法で裁けただろう者を私刑にしておいて「法から逃れた者を裁きながら自分自身を裁いていた」とは随分と勝手な言い草だ。

様々な思わせぶりな伏線を散りばめたに関わらず、上手く回収して膨らませられなかったため、伊達一義というキャラクターは非常に薄っぺらくなってしまった。
伊達のしていることに説得力をもたせようと、「制作側がこう思って欲しいと考えていること」そのものを登場人物に喋らせたり、独りよがりなストーリー展開で伊達に正当性を与えようとしているが、稚拙すぎてどうにも入り込めない。
伊達が「闇の制裁」を行うことに、少しでも視聴者からの共感を得るために、犯人は毎回「情状酌量の余地がないムカつく悪人」。伊達の心情に同情してもらうために、女性受けしそうなウェットなシーンを散りばめてアピール。これでは視聴者の裾野を広げることはできないだろう。

そんな伊達一義に大きな魅力を与えているのは伊達を演じる堺雅人だ。
久遠役の錦戸亮、井筒役の鹿賀丈史もそうだが、これが下手な役者だったら、このドラマはとっくに終っていただろう。このドラマは本当に役者に救われたドラマだ。
堺の持つ「思索に耽っている雰囲気」や「真面目で善人で不器用そうな印象」、「役柄を良く読み込んだ上での繊細な演技」や「茶目っ気たっぷりの遊びの部分」が、脚本の中の薄っぺらい伊達一義を非常に魅力的なキャラクターに変えている。
もはや伊達一義は堺雅人以外の誰にも演じることは出来ない。

おそらくこのドラマは続篇かSPが予定されているだろう。
制作陣の新しい形の主人公を生み出そうとするチャレンジは評価できる。
今後の「ウェットでもマッチョでもない魅力的なダークヒーロー伊達一義」に期待したい。


役者に関して書き始めたので続けてみよう。

このドラマでは、堺、錦戸、鹿賀の3人が牽引役を果たしているのは、誰もが認めるところだろう。そこに、平山、土屋、永岡、佐伯、鈴木、井上ら同僚刑事たちが、しっかりと脇を固めている。
この同僚刑事たちの雰囲気が実に良く、細かいカットであっても手を抜かず、役を読み込んで1つ2つテイストを乗っけてくるから、見てるほうは楽しくて仕方がない。
別に闇の制裁がなくたって刑事モノとして十分面白い作品ができそうだ。

死にゆく冴子を演じたりょうも、このドラマで一番の演技を見せてきた。
伊達が最後に「冴子」と呼ぶのは誰しも予想していたことだと思うが、男勝りで強がっていた冴子の最後の甘えは予想外だったろう。これから伊達との関係でいい演技を沢山見せてくれると思っていただけに大変残念だ。

日向役の忍成修吾も、日向の「刑事としての顔」と「子供っぽくてキレやすい我儘な性格」を上手にモザイクにして、日向の精神異常性をリアルに表現していた。
尾野真千子も、夫を殺された怒りと、日向に対する恐怖と、それらに打ち勝とうとする気の強さを、説得力とリアリティをもって演じていた。非常に難しい役柄だが迫真の演技だった。
飯田基祐が演じる吉住武徳の真っ当さとそれ故の苦しみも、ダラダラしがちな展開にテンションを与えてくれた。
久しぶりの灘木役・斉藤歩も「悪事をフツーに楽しんでる悪党」を巧みに演じていた。伊達に再会したことを純粋に面白がっている灘木の悪党らしい悪党ぶりは、見ていてかえって気持ちが良かった。
宮前史人役の桜山優も、短いカットで「人殺しまでは出来ない男・宮前」を巧みに演じていた。

大杉漣は、第一話から続く三上の得体の知れなさを、最終話に向けてじわりじわりと詰めてきた。
三上が何をしたのか、もしくはしていないのか、大杉自身聞かされてはいないだろう。そんな中で忍耐強く三上を育てていくことは相当なストレスだったと思う。
いよいよ大杉が本領を発揮する見せ場がやってくるに違いない。待ってました!という気分だ。

杏はキャリアから考えると悪くはないのだが、まだ後ろに台本が透けて見える。こういう場面でこういうセリフだったらこういう演技という枠から出ていない。
ただ錦戸と一緒のシーンでは非常にいい演技をする。おそらく相性が良いのだろう。あすかと久遠の不器用な恋愛も見てみたいものだが残り話数では難しいか?
第一話からネタふりをしている「ちゅー」くらいはあるかもしれないが。


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2010年9月3日金曜日

第八話:伏線?セリフ集

(バーMikami。久遠を殴りつける三上)

三上「油断しやがって!なんのための見張りなんだ!」

(うつむく久遠)

三上「腕を撃たれたと言ったんだな」

久遠「ああ…、嘘かもしんねえけど」

三上「おそらく本当だろう。嘘なら殺されたって言えば済む話だからな。だが腕でも止血しなけりゃ、いずれは死ぬ」

久遠「やっぱ日向の仲間の仕業かな?」

三上「それは間違いないだろう」

久遠「だったら日向の後つければ?」

三上「無駄だ。それぐらい奴も読んでるはずだ」

久遠「じゃあどうすりゃいいんだよ」

三上「下手に警察を動かせば、俺達のやってることを何らかの形でバラすかもしれない。俺たちで探すしかない」

久遠「でも携帯の電源も切られてGPSでの追跡も出来ない。何の手がかりも…。あ。そういえば現場に血で”YT”って書かれてた」

三上「”YT”?」

久遠「伊達さんのメッセージかもしんない」

三上「わかった。それは俺が調べる。おまえはいつも通り本部へ行け」

久遠「何でだよ!俺のせいで伊達さんの命危ないのに」

三上「伊達の欠勤はそれなりに波紋を呼ぶ。おまえもいなかったら、それこそ騒ぎになんだろ!…伊達の居場所は俺が必ず探す。いいな」

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(日向、屋上から街を見下ろして)

日向「救世主は一人でいい」

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(捜査一課)

井筒「あれ?伊達は?」

来栖「それが連絡しても繋がらなくて」

滝川「無断欠勤が一度もないのが班長としての唯一褒められるところだったのにぃ」

井筒「しょうがねえなあ、じゃ、班長抜きでやるか」

来栖「わかりました」

(あすか、井筒を見つめる。昨夜、井筒の机から出てきた捜査資料の一部のことを思い出す)

来栖「じゃあ宮城。…おい!」

あすか「あ、はいっ」

来栖「何ボーっとしてんだよ」

あすか「すいません」

(あすか、昨夜の本牧スナック経営者殺人事件の説明を始める)

久遠「でも犯行現場には宮前の足跡があったんだよね?」

あすか「はい。地面にくっきりと残されていました。宮前の靴とも合致しています」

久遠「足跡は靴の種類を特定するだけじゃなくて、靴底の減り具合とかで犯人の割り出しにも有効だからね」

(轟、部外者の久遠が議事進行を取っているのを見てふくれっ面)

堀田「てか、何馴染んでんだよ」

久遠「(にっこり笑って)伊達さんの代わり」

(堀田、毒気を抜かれて負け)

井筒「となると動機のある宮前史人が怪しいか?」

「でも宮前には動機があります」

来栖「逆を言えばアリバイさえ崩せれば一発ってわけだ」

(日向がやってきて捜査資料を手にとる。それを見た久遠の表情が険しくなる)

日向「今度は本牧で殺人事件ですか。どう考えてもこの宮前史人という男の犯行でしょう」

来栖「決め手がねえんだよ。いくら限りなくクロでもな」

(久遠、険しい顔で日向の前まで歩み寄り、日向の手から捜査資料を奪いとる)

久遠「(馬鹿にした口調で)おまえに関係ねえだろ?」

(日向、怒りを込めた目で久遠を睨む。久遠、動じずに日向を睨みつけてから、元いた場所に戻る)

堀田「おまえもな」

(堀田、ごもっともなので勝ち)

日向「(井筒に資料を手渡しながら)江原殺しのその後の資料です」

井筒「はい、ごくろう。”悪人に制裁を”。神隠しって言われてる事件か。進展は?」

日向「いえ…特には。こんなこと言ったら不謹慎かもしれませんが、江原は会社の部下を殺害しています。正義の鉄槌が下ったんじゃないでしょうか?」

井筒「君は殺しを肯定するのか?ホシを捕まえるのが俺達の仕事だろう?」

日向「(少し慌てて)わかってます。失礼します」

(久遠、去っていく日向の後ろ姿をじっと睨みつける)

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<3年前>

(伊達の前に黒塗りの車が止まり、杖をついた灘木が降りてくる)

灘木「久しぶりだな、小僧。まさか刑事になってるとはな」

伊達「何の用だ?」

灘木「決まってるだろ、脅しに来たんだよ。人を刺して罪を逃れた奴が刑事をやってると知れたら世間はどう思うかな?…とりあえず1000万用意しろ」

(埠頭にて。伊達と三上)

三上「あのヤクザがおまえのところに来たということか」

伊達「三上さん、俺は、ずっとあの日から逃げ続けていたような気がするんです。あのときやっぱり罰を受けるべきだったんだ」

三上「…おまえの気持ちはわかった。少し時間をくれ」

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(車の中で久遠を待つ三上。久遠が助手席に入ってくる)

久遠「なんかわかった?」

三上「おまえが言ってた”YT”、イニシャルで調べてみたら、日向と同じ港北西署に吉住武徳という警官がいたよ。吉住と日向は腹違いの兄弟だ」

久遠「兄弟?」

三上「しかも2人とも幼い頃に母親を殺されてる。どちらも保険金殺人の可能性が高かったが立件は出来ていない。容疑者は2人の父親だ。…5年前に俺が裁いた」

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吉住「親父は他にも多くの連中を騙していた。俺達が警官になってやっと親父の居場所を突き止めたときにはもう神隠しにあっていた。俺達は親父に復讐するために今日まで生きてきたんだ。神隠しの真似事をしたのも、おまえらを誘き出して親父のことを聞くためだ。親父が死んでたらそれで踏ん切りをつけるはずだった。だが死んでないなら俺達が殺す。親父の居場所を教えろ」

(伊達の腕の傷をえぐる)

吉住「親父はどこだ!答えろ!」

伊達「おまえたちが裁いた容疑者は捕まえられるはずだった。殺す必要なんてなかった」

吉住「うるさい!俺だって本当はあんなことしたくなかったんだ!」

(伊達、どさくさにまぎれて携帯電話の電源を入れる)

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(バーmikami、冴子がいるところにあすかが入ってくる)

あすか「冴子さん、これ、兄の捜査資料から抜き取られていた1ページです。井筒課長のデスクにありました」

(冴子、資料を見る)

冴子「夏樹が殺害された前日からの足取り…」

あすか「けど、特に重要なことが書かれているとは思いません」

冴子「これ預かっててもいいかな」

あすか「はい。でもなぜ課長はこの1ページだけ抜き取ったんでしょうか?」

冴子「さあ。でもきっと何かある。ここからは慎重に動いたほうがいい」

あすか「はい」

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吉住「意地でも口を割らねえつもりか?それとも喋る気力もないか?…なんで殺さなかった?あんな親父死んで当然だ」

伊達「殺して全てが解決するのか?」

(吉住の携帯に電話が入る)

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(三上の車、伊達が監禁されている建築途中のビルの前で止まる)

久遠「どうやって助けるの?吉住いるんでしょ?」

三上「追い出せばいい」

久遠「そんな簡単に言うなよ」

(三上、久遠の左手を掴み上げて腕時計の時間を見る)

三上「そろそろだな」

久遠「何が?」

(吉住が建物から出て立ち去る)

久遠「吉住…まさかアンタが?」

三上「俺じゃない。吉住のいる所轄のトップだ」

久遠「どういうこと?」

三上「署長直々の呼び出しとあれば行かないわけにはいかねえからな」

久遠「あんた何モンだよ?」

三上「しがないバーのマスターだよ。ほら行くぞ小僧」

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(建物の中に入ると伊達が倒れている)

三上「伊達…」

久遠「伊達さん」

(三上、意識のない伊達の上体を起こす)

三上「伊達!しっかりしろ!伊達!死ぬんじゃねえぞ!おい!伊達!」

(久遠、携帯で救急車を呼ぼうとする)

三上「何してる?救急車呼ぶんじゃねえぞ?俺の知り合いの医者にみせる」

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(冴子、井筒に連絡を取り面会。井筒が隠していた捜査資料を突き出す)

冴子「夏樹の捜査資料で紛失していたページがあなたのデスクにありました」

井筒「忠告したはずだ。これ以上宮城夏樹の事件は追うなって」

冴子「あなたの言うとおり私はとんでもないところに足を踏み入れたのかもしれません」

(井筒、ため息をつく)

冴子「その捜査資料に書かれた夏樹の資料を追っていったら銀行で夏樹が貸し金庫を借りていたことがわかりました」

(井筒、顔を上げる。冴子、バッグから一枚のCD-ROMを取り出す)

冴子「その中にこんなものが」

(井筒の表情がいつになく苦いものに変わり、深く溜め息をつく)

冴子「この中身が何を意味するのか。教えてくれますか」

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日向「(美代子に向かって)もっと誇りに思ってほしいな!俺達がやってることは正義なんだ」

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(久遠部屋。日向を呼び出す久遠。宮前を殺したのはおまえだろうと言う久遠。その時間は美代子の家にいたという日向)

久遠「(日向の襟元を掴み上げて)どこまで遺族を利用すれば気が済むんだよ」

日向「離せよ。君たちがやってることバラしてもいいんだぞ」

久遠「(日向から手を離して)俺はおまえを許さない。絶対裁いてやる」

日向「言っとくけど、伊達さんにはもうムリだよ。迷ったら人を裁けない」

***********************************************************

吉住「おいどうなってるんだ!木本志保を殺したのはスナックのホステスだ!動機は怨恨、罪も認めた」

日向「そうみたいだね。まさか靴を盗んで宮前の犯行に仕立て上げようとしていたなんて」

吉住「よくそんな冷静でいられるな!おまえは何の罪もない人間を殺したんだぞ!」

日向「間違えて殺した宮前だって、たいした価値があったわけじゃない。社会のためにならない人間を殺して何が悪い?」

吉住「おまえ何いってんだ…?神隠しの正体は突き止めたんだ。後は親父の居場所を探せばいい」

日向「兄さん、僕たちは世の中に必要とされているんだよ」

吉住「いいかげんにしろ!俺は模倣犯を続ける気はない!」

日向「怒鳴らないでよ!…ちょっと落ち着こうよ」

(日向、吉住を毒入りミネラルウォーターを飲ませる)

日向「全部兄さんに被ってもらうから」

吉住「どうして…」

日向「アンタも僕の駒に過ぎないんだよ」

(吉住、絶命)

日向「僕は救世主だ」

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(伊達の病室で)

冴子「カズってさ、一度も私のこと名前で読んでくれたことないよね」

伊達「そうだっけ?」

冴子「そうだよ。”君”とか、”片桐くん”とか。そんなのばっか」

伊達「ああ~」

冴子「ああ~って、これだもん、上手く行くわけないよ。…後であすかちゃん来るんでしょ?これ渡しといてくれない?部屋掃除してたらさ、夏樹に借りてたCDが出てきて…」

伊達「なんかあった?」

冴子「ん?」

伊達「顔見ればわかるよ。一応元カレですから」

冴子「(一瞬迷った後おどけた風に)残念ながら単に化粧のノリが悪いだけ。じゃあそろそろ行くわ。またね」

***********************************************************

(伊達の病室。伊達、久遠、あすか)

久遠「仕事は?いいの?」

あすか「これから聞き込みです。お礼を言いに来ただけですから」

久遠「お礼?」

あすか「伊達一義病に感染させられたおかげでスナックの殺人事件の真相にたどり着いたんで」

(伊達、嬉しそうにうなづく)

あすか「それから”悪人に制裁を”…あの一連の事件も被疑者死亡でしたけど解決しましたし」

(伊達と久遠の表情が心持ち暗くなる)

あすか「でも本当に吉住巡査部長が神隠しの正体だったんでしょうか?私にはそうは思えなくて。神隠し…不思議な事件ですよね。いったい何のためにやってるんでしょうか?」

***********************************************************

<3年前>

(車の中。伊達、灘木の写真をめくる)

三上「奴の身辺を探ってみた。5年前に出所してから、おまえの親と同じように借金を背負った人を何人も始末してる。ムショに入っても何も変わらなかったって訳だ。だがパクろうにも証拠がない。死体を隠されちゃこっちも深くは突っ込めないからな」

伊達「そんな…」

三上「そこでだ。これから灘木に会いに行く」

(銃口を伊達に向ける)

三上「麻酔銃だ。こいつで奴を眠らせて、ある場所に連れて行く。そこに閉じ込めて一生自分の罪を償わせるんだ。世間には行方不明で片付けられる」

伊達「それって…」

三上「”神隠し”。警察の間ではそう呼ばれてるらしいな」

伊達「あなただったんですか」

三上「(薄く笑って)おまえなら判るはずだ。警察じゃ追い切れない現実があるってことを」

***********************************************************

(午後8時。誰もいない捜査一課。井筒が何かを決意したように振り返る)

***********************************************************

(青葉の第九倉庫、美代子を殺そうとする日向。そこに現れる伊達と久遠)

伊達「銃を下ろせ」

日向「(美代子に)あなたが呼んだんですか!」

伊達「これ以上罪を重ねるな」

日向「どうして邪魔ばかりするんです!僕はあなたの代わりにやってるだけじゃないですか。あなたは今迷っているはずだ。自分がやっている行いが正義なのかどうなのか」

伊達「俺がやっていることを正義だとは言わない。人は人を裁けない。だがそれでも裁かなきゃいけない現実がある。その重みを判らず人の命を奪うおまえのやり方は間違っている。それは罰することにはならない」

(伊達、日向に銃口を向ける)

伊達「おまえはただの人殺しだ」

日向「この女がどうなってもいいの?社会のクズを始末するのが僕たちの役目だろう!だったら片っ端から殺せばいい。多少の犠牲はしようがないよ」

久遠「俺も一歩間違えればおまえみたいになってた。でも伊達さん見て判ったよ。人の明日を奪うってことが、人を裁くってことが、どんだけ痛みを伴うものなのか。(軽蔑しきった口調で)おまえは伊達さんとは違う」

伊達「法から逃れた者を裁きながら俺はずっと自分自身を裁いていた。これからもそれは変わらない」

日向「そんな正義、僕は認めない!」

伊達「おまえに明日は来ない」

***********************************************************

(伊達に向かって両手を差し出す美代子)

美代子「捕まえてください」

伊達「あなたは今日ここには来なかった。日向とも知り合っていない。あなたには明日を生きてもらいたいんです。あなたが犠牲になることはない。元気な赤ちゃんを産んでください」

美代子「…ありがとうございます」

***********************************************************

(日向を車の後部に乗せて)

久遠「伊達さんの言ってたこと、やっと判った気がするよ。…俺はアンタにはなれない」

(複雑な表情の伊達)

久遠「早くマスターに引渡して、ラーメン食いにいこ」

***********************************************************

<3年前>

灘木「(老人の書いた遺書を見て)上出来だ」

老人「本当に、私が死ねば家族が助かるんですよね?保険金も」

灘木「ああ。だからはやくそれを飲んで楽になれ」

(老人、掌のカプセルを見つめる。そこへ三上と伊達が車で駆けつける)

灘木「サツが何の用だ?」

伊達「その人をどうするつもりだ」

灘木「俺は何もしちゃいない。ただのお付き合いさ。なあ?」

老人「私に構わないでください!」

(老人、カプセルを飲み込む)

三上「おい!」

(三上と伊達、老人に走り寄るが、老人は絶命)

灘木「ははは。そいつはな、自殺をしたんだ。あんたらが証人だ」

(伊達、灘木に麻酔銃の銃口を向ける)

三上「伊達、撃て」

(逡巡する伊達)

三上「おまえのやることは復讐じゃないんだ」

灘木「今度は包丁の代わりに銃か?撃てよ。撃ってみろよ」

三上「伊達!」

(伊達、灘木を撃つ)

***********************************************************

(午後9時。捜査一課にはあすかだけ。冴子から夏樹のものだと言って返されたCDを開くと、そこには「夏樹事件の真相が判るかもしれない。夜9時、根岸の穀物ビルに着て」というメッセージが。慌てて飛び出すあすか)

(一人穀物ビルであすかを待つ冴子。そこにゆっくりと靴音が)

(伊達の携帯に冴子から「ちょっと会えないか?」という電話が入る。様子がおかしいことに気づいた伊達は冴子の元に向う)

(久遠はいつもの待ち合わせの埠頭にいくと三上が待っていた。伊達がいないのは急用のためだと聞いた三上の表情が苦いものに変わる)

(穀物ビル。柱に寄りかかるようにして冴子が足を投げ出している。駆け寄る伊達)

伊達「どうした!」

(夏樹のときと同じように左脇腹を刺されている冴子)

冴子「あたしにしては軽率だったかなあ…」

伊達「何があった?誰にやられた?」

冴子「カズは知らない方がいい…。夏樹も、こうやって、殺されたんだね…」

伊達「(携帯を取り出し)救急車」

冴子「(それを止めて)いいよぉ、もうダメっぽいから」

伊達「何いってんだ。大丈夫だ。心配するな、必ず助かる。助けてみせる。だから…。だから、そんなこと言うなよ”冴子”」

冴子「はじめて名前で呼んでくれたね。カズ…正義ってなんだろね…」

(冴子、涙を零しながら伊達のほうを向いて微笑む)

冴子「(伊達に甘えるように)…カァズ…」

(冴子、絶命する)

伊達「(息絶えた冴子の顔に頬をよせる)冴子…。冴子…」

(あすか、到着)

あすか「冴子さん?」

(あすか、伊達と冴子に近づく)

あすか「伊達さん…?(冴子が絶命していることに気づく)…どうして…?」

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フジテレビ・オン・デマンドジョーカー許されざる捜査官
一話315円、全話1575円

第八話:あらすじ

伊達一義(堺雅人)は、法から逃れた者を殺害していた日向光明(忍成修吾)に撃たれ、負傷する。すると、そこに日向の兄・吉住武徳(飯田基祐)が現れ、伊達が落とした銃を拾い、それが麻酔銃である――つまり、これまで制裁を加えた人間が殺されていないことを知ってしまう。

一方、目を覚ました久遠健志(錦戸亮)は、付近で倒れている日向を見つけ、伊達の所在を尋ねる。しかし、日向は、自分も久遠と同じ男に襲われて倒れていたので知らないとウソをつく。

そんなとき、久遠は伊達のものと思われる血痕を見つけたどっていく――と、血文字で「YT」と書かれた段ボールに行き当たる。

捜査一課では、伊達不在のなか、前夜に起きた木本志保というスナック経営者殺害事件についての会議がはじまった。宮城あすか(杏)は、志保と店の常連客・宮前史人が口論をしていたという証言を報告。すると、宮前にアリバイがあるにもかかわらず、日向は宮前の犯行だろうと、決めつける。

その頃、久遠は三上国治(大杉漣)から、「YT」を指すと思われる吉住が、日向の腹違いの兄だと聞かされる。しかも、ふたりは幼い頃にそれぞれの母親を殺されていて、立件はされていないが、容疑者は父親だったという。そして、5年前、その父親を裁いたのが三上なのだという。

同じ頃、伊達は、吉住から父親の居場所を教えるように、と暴行を受けていた。吉住と日向は、父親を捜し復讐するために刑事になった。そして"神隠し"を模倣したのも、伊達らを誘い出して父親のことを聞くためだったという。父親が殺されていれば、それで納得するつもりだったが、"神隠し"に遭った後、どこかで生きているならば、自分たちの手で殺す――。そういって、吉住は執拗に伊達に父親の居場所を迫った。

そんなとき、吉住の携帯に所轄のトップから連絡が入り、吉住は伊達を残してその場を立ち去る。と、そこへ、やってきたのは久遠と三上だった。吉住に連絡が入ったのは、三上の手まわしだったのだ。ふたりは、倒れていた伊達を救助し、極秘入院させる。

宮城夏樹(丸山智己)殺害事件を追う片桐冴子(りょう)は、井筒将明(鹿賀丈史)を呼びだすと、夏樹が借りていた貸金庫に預けられていたCD-ROMを見つけたことを明かす。そして、その中身が何なのか教えてほしいと迫る。

同じ日の夜、「悪人に制裁を」と書かれたメッセージとともに、宮前が殺害された。犯人は、一連の事件と同様、日向だった。これにより、スナック経営者・志保殺害の件は、被疑者死亡で書類送検されてしまう。しかし、何かが引っ掛かるあすかは、久遠に現場で採取した宮前の足跡の鑑定を頼む。すると、歩数や足の重心のかけ方の違いから、何者かが宮前の靴を履き、足跡を残した上で志保の殺害に及んでいたことがわかった。再度、聞き込みをした結果、店に勤めるホステスが犯行を自供した。

この報告を聞いた吉住は、無実の宮前を殺害した日向を責める。しかし、日向は、世の中は自分たちを必要としている、とまるで悪びれる様子がない。そんな日向に吉住は激怒。すると、日向は吉住に落ち着くように言うと、飲み物を差し出す。そこには毒が入っていて、飲んだ吉住は絶命する。

翌日、冴子は入院中の伊達を訪ねると、あすかに渡して欲しいとCDを差し出す。そんな冴子の表情から何かを感じ取った伊達は、何かあったのか、と尋ねるが、冴子は答えることなく病室を後にする。

一方、死亡した吉住は、日向の工作により、一連の制裁事件の犯人に仕立て上げられたうえ、自殺した、とされてしまう。そんな様子を見ていた日向のもとに、根津美代子(尾野真千子)から連絡が入る。夫を殺害された美代子は、事件を担当した日向に「犯人を殺してやりたい」と言ったばかりに、日向のアリバイ工作に加担させられていた。しかし、思い悩んだ末に、警察に自首することを決めた、と日向に伝えたのだ。日向は美代子に思いなおすように言うが、美代子の決意は固かった。すると、日向はもう一度だけ話がしたいと言って、とある倉庫に美代子を呼び出す。

倉庫にやってきた美代子に、日向は銃口を向ける。と、そこに伊達と久遠が現れた。これ以上、罪を重ねるな、と制止する伊達に、日向は自分は伊達の代わりに制裁行為を行っているだけではないか、と言い放つ。そして、伊達自身が、自分の行いが正義といえるかどうか迷っているはずだ、とたたみかける。伊達は、自分のしていることが正義だとは言わないが、それでも裁かなければいけない現実があるのだ、と反論する。

そのとき、伊達の脳裏に、3年前、初めて制裁を行った日の記憶がよみがえる――。三上に渡された麻酔銃で狙いを定めたのは、伊達の両親のほかにも多くの人間を殺害しながら、法から逃れていた灘木剛士(斎藤歩)だった。"神隠し"に関わっていると知った三上から事情を聞いた伊達は、迷いながらも、ついに発砲した。

そして、伊達は、日向にも麻酔銃を撃つ――。

その頃、捜査一課にいたあすかは、冴子から渡されたCDのケースを開ける。と、中にはCD-ROMと、冴子からのメッセージがあった。

伊達と久遠が、眠らせた日向を車のトランクに積み込んだとき、伊達の携帯が鳴った。相手は冴子だったが、会えないか、というその声からは異変が感じ取れた。伊達は急いで現場に向かうが、冴子は腹部から大量の血を流し瀕死の状態だった。誰にやられた、と聞く伊達に、冴子は「夏樹もこうやって殺されたんだね」と力なく答える。そして、ほどなくして、動かなくなった。

と、そこに、あすかがやって来る――。


(以上公式サイトhttp://www.fujitv.co.jp/JOKER/index.htmlより)


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一話315円、全話1575円

第八話:概要

放送日: 2010年8月31日
タイトル: 「CRIME8 衝撃の死…伊達最大の危機」
演出: 土方政人


<ゲスト>

日向: 忍成修吾

根津美代子: 尾野真千子

吉住(日向の兄): 飯田基祐


宮前史人: 桜山優

木本志保: 佐野珠美


灘木剛士: 斉藤歩


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フジテレビ・オン・デマンドジョーカー許されざる捜査官
一話315円、全話1575円

2010年8月31日火曜日

第七話:感想

いつもとは違った展開だったが、テンポもよく悪くない出来だったと思う。

ゲストの忍成修吾の快楽殺人者としての狂気、尾野真千子の愚かにすら映る遺族の怒り、飯田基祐の二重人格ぶり、どれをとっても迫力・空気感とも素晴らしかった。
山中崇、水野智則も、忍成・尾野・飯田らに比べると「演技をしてる感」があったが、全体のバランスとしては悪くなかった。遠藤要もああいう役をやらせると本当に上手い。

りょうも「私そんなに強くないんだけどな」というセリフのあと、伊達に背中を向けて歩き出すときの表情が実に素晴らしく、冴子という女性と伊達との関係を見事に表現していた。りょうの本領発揮だ。
演出も役者の演技をしっかり見せてくれる上に、それをクドくなく活かすリズムとグルーヴ感があって、このドラマによく合っていた。

脚本は前回同様にやや帳尻合わせな説明セリフが目についた。
これまでの久遠を考えると「法の裁きに関係なく人を殺すなんて許せねえ」と憤るのはあまりにも唐突で無理があるし、久遠部屋で語ったあすかの思いも長セリフで一挙に片付けてしまうのは見せ方として稚拙だ。久遠の「俺はあんたに救われた」も座りの悪いセリフだった。

これは脚本のト書きではなく演出のせいかもしれないが、闇の制裁のシーンでの伊達が余裕がなさすぎるのにも違和感があった。
日向の言葉も美代子の言葉も伊達にとっては迫るものがある言葉だろうが、闇の制裁人という仕事をしてきた中で、考えて来なかった言葉という訳ではないだろう。むしろ幾度となく自分に問いかけ続けてきた言葉なのではないだろうか。
今回、それでいきなり伊達から余裕が奪われてしまうには、きっかけが弱すぎる。
であれば、これまで堺がポーカーフェイスの下の伊達の感情を丁寧に演じてきたように、今回もあくまでポーカーフェイスの下で大きく揺れる感情を演じさせたほうが伊達らしくて良かっただろう。

そうでなければ、前回の久遠の件が伊達の心に変化をもたらせたとして、久遠と伊達のシーンを追加し、伊達の感情を描くという手もあった。
伊達は、文弥を殺された怒りで我を失っている久遠に、「憶測で人を裁けばそれはただの犯罪者だ。君が憎んできた奴らと何も変わらない」「法で裁ける人間は法で償わせるんだ。俺達がやってるのは復讐じゃない」と窘めた。
しかし伊達自身は自分がしていることに迷いはなかったのだろうか?

偉そうに久遠に言ったものの自分はどうだ?犯罪者と同じじゃないのか?復讐じゃないと言ったが、じゃあ復讐とどこが違うんだ?と、伊達は内心自問自答していたとする。
一方その隣では、久遠が伊達の言葉をまっすぐ受け止めて、俺達がしてることは犯罪者とは違うんだ、文弥の父親を殺したいと思った俺は間違ってたんだ、と少しづつ自分の中で消化し始めている。
伊達は闇の仕事で久遠が何かを見失ってしまわないよう見守ろうとしている。なのにその自分が迷っている…。そのことがきっかけとなって、日向や美代子の言葉に大きく揺れてしまった、というのであれば話はわかりやすかった。


伊達のしていることと、日向のしていることだが、基本的には変わらない。

伊達は第三話で久遠に「法で裁けない者を裁く。もちろん決して許されることじゃない」と言っている。また日向は今回「立件出来ない容疑者を始末する。間違いなく犯罪者です」と言っている。
もちろんその通りである。

真面目に解説すると、日本は多くの欧米諸国同様に「自由民主主義国家」な訳で、ざっくり言ってしまうと、日本国民は「公共の福祉に反していない限り、どう生きるかという個人の自由は最大限尊重される」ということと、「国民全てが等しく主権者であり、国の政治は国民が行う」ということが憲法によって保障されている。

で、日本ではこの「自由民主主義国家」であることを根拠に、「罪刑法定主義」という形をとっている。
「罪刑法定主義」というのは、「”刑法上”何が犯罪」で「どんなときにどんな刑罰が科せられるのか」については、あらかじめ法律で定めておかなければならない、という考え方だ。

何が犯罪でどんなときにどんな刑罰を受けるのかを、誰かが好き勝手に決めてたら、とてもじゃないけど自由になんて生きられない。
日本の主権者は国民なんだから、国民の代表機関である国会を通じてちゃんと法律にしときましょうや、ということである。

現代日本では、その法律に則って「無罪」か「有罪」か「有罪ならどのような罪でどれくらいの刑罰か」を判断出来る(裁判権を持つ)のは、「国家」のみだ。話題の裁判員制度も「国家の裁判権の行使」に参加する制度とされている。

裁判で決まった刑罰を科すことが出来る(刑罰権を持つ)のも「国家」のみ。
国家によって刑罰権の行使を委ねられた刑務官など以外は、例え遺族であっても刑罰の執行は認められていない。

武士階級の仇討ち法があった江戸時代と違って、現代の刑罰は「復讐」ではない。
他人の「法益」(生命、身体、自由、名誉、財産、平穏、など)を奪った罪に対して、その罪の重さに応じた「法益」を、「償い」として「国家」が奪うことが刑罰であり、刑罰には「再犯予防」や「犯罪の抑止」という目的もある。

当然のことながら、伊達や日向のように裁判権も刑罰権もない人間が、何人もの人間を自分勝手に制裁するなんてのは、とんでもない重罪にあたる。
殺していようが殺さずに死ぬまで監禁だろうが、法を無視して残酷な私刑を繰り返していることに何ら変わりはない。もはやそれは「刑罰」でも「復讐」ですらない。
そのことを理解しているからこそ、伊達は日向の煽りに理路整然と言い返すことが出来なかった。

闇の制裁人という許されざる行為をしている伊達だが、しかし彼は真っ当な感覚を失ってはいない。

「たとえ法で裁けなくても真実を明らかにすることが俺達の仕事」と教えてくれた井筒に憧れ、刑事としての己の感覚を信じて粘り強く捜査を続け、凶悪犯人に対してもその中に残っているかもしれない良心に期待して自首を望む。
必死で助けを求める久遠を救ってやりたい一心で仲間にしたものの、こんな許されざる行為に久遠を巻き込んでしまったことに後悔もしている。

むしろ感覚が狂っているのは三上だ。

妻と10歳の息子を殺された三上は、両親を殺され犯人を刺してしまった10歳の伊達に、亡き息子への愛情のはけ口を見つけた。
状況から考えても幼い伊達に重い罰が科せられる可能性は殆どなかった。きちんと罪を明らかにして判決を受ければ、伊達も人を刺してしまったという罪の意識を自分なりに消化することも出来ただろう。
しかし三上は、どのような手を使ったのか、伊達の罪自体をないものにしてしまった。

伊達は両親を殺した灘木を「憎しみ」から「殺すつもりで」刺した。
結果的に灘木は一命を取り留めたが、確かに伊達は灘木に強い殺意を抱いていたのである。両親を助けたい一心で正当防衛として灘木を刺したのではない。
灘木の言った「正義なんて通用しない。悪を倒したかったら悪になるしかない」という呪詛の言葉通りに、伊達は灘木を殺そうとしたのだ。

伊達がもう少し愚かで、自分が灘木を刺した意味に気づかなければ、伊達は三上が望んだように自分の罪を忘れてしまうことが出来たかもしれない。
しかし「自分は普通じゃない」と苦しんでしまう伊達にとっては、きちんと罰を受けることこそが救いであった筈だ。
そんな伊達が、心に深い葛藤を抱えたまま、少しでも前を向いて生きようと決めたのは、たとえ間違っていても自分への愛情を惜しまない三上のためだったのではないだろうか。

伊達が三上に心から感謝をしていることに疑う余地はない。
本心を隠した表情の下には、冷静に三上を見ている目も、三上を実の父親のように深く愛する気持ちもあるだろう。そして恐らく後者のほうが強い。
闇の制裁人になった経緯に三上がどのように関わっているかはわからない。
しかし三上がそれを正義と信じ真剣に伊達の助けを必要としていたら、それが必ずしも正義であると割り切れなくても、それが三上の中に巣食う悲しみに由来するものなら、伊達は三上のそばで三上が暴走しないように見守る道を選ぶだろう。

一方で伊達は久遠に対しては、過去の痛みを正しく乗り越えて欲しいと思っている。
理解して手を差し伸べてくれる大人が必要なら、伊達は久遠のそばで望むだけその役を負ってくれるだろう。家族の愛情を知らない久遠のためなら父にも兄にもなるだろう。
しかし伊達は自分の間違った愛情で久遠の成長を歪めたりはしない。
久遠の進む道を良かれという思いで勝手に決めることはない。辛くても苦しくても自分自身で正しい答えを掴んで欲しいと思っている。

第六話で久遠が文弥に自分を投影して冷静さを失っていたとき、伊達は久遠に冷静で客観的な目を取り戻すよう導いていた。その一方で文弥を助けたい久遠の気持ちを汲んで、文弥と久遠が救われるために単独で捜査にも当たった。
久遠の苦しみの深さを知る伊達にとって、文弥を殺された久遠の慟哭には心を揺さぶられただろう。久遠の無念をどうにかして果たしてやりたい気持ちだってあったに違いない。

しかし伊達は、かつて三上が自分の罪を揉み消してしまったような間違った愛情を、久遠に押し付けたりはしなかった。
久遠の心が怒りに雁字搦めにならないよう第三者の視点と正論を与えながら、久遠が自分の手で自分自身の答えを掴みとることを見守る道を選んだ。
そして出来れば憎しみや悲しみからでなく、暖かい思い出を支えに前を向いて欲しいと願っていた。
伊達は自分の感情に流されることなく大人として責任を持って久遠を導こうとしている。
それは三上が伊達にかけた愛情とはある意味対照的なものかもしれない。

伊達は三上の「おまえは悪くない。おまえが刺してなければ灘木は逃げ延びて誰かを殺してた。おまえは正義のために戦っただけだ」「俺達は楽しんでやってるワケじゃねえ、むしろ逆だ。それでもやっているのは…遺族の明日を祈ってるからだ」という言葉に何を感じただろう?
灘木は確かに人間のクズだったが、将来また人を殺すに決まってるから今殺したって正義という理屈は成り立たない。どんなに遺族の明日を願っていようが、辛い思いを感じているから許されて、快楽を感じているから許されない、というような話でもない。

伊達は三上よりもはるかにありのままを理解していた。だからこそ伊達は限界だったのかもしれない。闇の制裁を辛く感じていることを一目で久遠に見抜かれてしまうほど、伊達は疲れ切っていた。
「俺は伊達さんに救われた」という久遠の不器用な励ましが、今度は伊達を救うのだろうか。それとも自ら乗り越えていくのだろうか。第八話以降に期待だ。


さて、そろそろ佳境に入ってきた夏樹殺しの犯人探しとジョーカーの黒幕だが、ここで予想を立ててみようと思う。

まず、冴子が疑っているように、神隠しには警察内部が関わっている。
それが「当たり」であることは井筒が冴子を遠ざけようとする態度でも明らかだ。
そしてその警察内部の権力は、凶悪犯を無期禁錮刑に処せるだけの資金を持ち、首を突っ込んでくる人間を殺してしまうほどの凶暴性を持っている。

夏樹を殺したのも三上の言うように警察内部の犯行だろう。
伊達が違和感を感じるほど、警察中で井筒を犯人に仕立て上げようとする動きがあったなら、井筒は夏樹殺しの犯人ではなく、犯人に疎まれている人間と考えるのが自然だ。

おそらく井筒はその警察内部の秘密を知ってしまった人間だろう。
上手く牙を隠すことで自分は危険から逃れられたが、同じく何かを知ってしまった夏樹を守ることは出来なかった。
夏樹の携帯電話を持ち去ったのも、他の誰かが不用意に首を突っ込んで消されてしまうことがないように、それに関わる情報を削除したのだとも想像できる。

今回井筒は冴子に「夏樹を殺したのは俺だ」と告白したが、それも、そうでも言わなければ冴子が更に深入りしていくことは目に見えていたからだろう。それは冴子に命の危険が及ぶことに繋がる。
伊達への忠告も功を奏しなかった以上、冴子を守りたければ、井筒は「自分がやった」と言う以外にはなかっただろう。

一方、三上は伊達同様に「神隠しの実行犯の一人」として警察内部権力に繋がっている人間だ。

伊達が黒幕である警察内部権力についてどの程度把握しているのかはわからないが、もしこの警察内部組織が夏樹を殺した警察内部の人間と同一であるのなら、伊達は夏樹を殺した犯人の仲間ということになる。
井筒は、文弥の事件の際に久遠を泳がせたことで、現在、三上・伊達・久遠の3人が神隠しの実行犯であることを掴んだだろう。
自分のアリバイ資料を署で渡さずに、わざわざ「バーMikami」にまで持ってきたのは、三上に対する何らかの牽制と思われる。

今のところ黒幕である警察内部権力側のキャラクターは登場していない。
伏線として上っているのは、井筒が第一話で「殺してやりたい人間」として挙げた「刑事部長」くらいなのものだ。
おそらくはこの刑事部長が新キャラクターとしてこれから登場してくるのだろう。
10歳の伊達の罪をもみ消すために三上に協力したのも、もしかするとこの刑事部長かもしれない。

夏樹殺しと神隠し。この過去軸に関係するのは、井筒、あすか、冴子、三上、伊達。
ドラマのキーパーソンの一人である久遠の過去にはこれら2つとの接点がない。
4歳から虐待を受け続け、10歳で捨てられ、以降の生い立ちは不明な久遠が、夏樹殺害や神隠し発生の過去と何らか繋がっていくのか、それにも興味がある。

もし刑事部長が登場するとしたら、久遠と関係があるかもしれない。
久遠の父が息子の年齢の割には年齢を取っていることから、本当の父親ではないという可能性もある。背中の火傷はタバコの火によるものだけがあの父親が行ったもので、大きな火傷痕はもっと子供の頃に火事か何かで負ったものである可能性もある。
エンディングの久遠の背中に被る「一家惨殺」の新聞記事は、もしかすると刑事部長の家族の話で、赤ん坊だった久遠は幸い生き残り、証拠隠滅のための放火によって火傷は負ったものの、密かに助けられて久遠家で育てられていたという展開もあるかもしれない。

ドラマもいよいよ残すところ数回、息切れせず最後まで突っ走って、我々視聴者を楽しませて欲しい。


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一話315円、全話1575円

2010年8月27日金曜日

第七話:伏線?セリフ集

(Bar Mikamiにて)

井筒「5年前、宮城夏樹が殺害されたとき、俺は容疑者の一人だった。アリバイがなかったからな。でもそれをおまえは偽装してくれた。でもあれは俺をかばうためじゃなかったんだよな。…俺を泳がせるためだったんだよ。なあ?」

(三上、驚いた表情で伊達を見る)

井筒「当時俺が何を追っていたのか、それに夏樹がどう関わっていたのか、俺がパクられたら判らねえもんなあ?」

(三上、不満気。井筒、伊達に一枚の紙を渡す)

伊達「何ですか?」

井筒「俺のアリバイの詳細。5年前のコンビニ強盗殺人事件、俺とお前がいつどこを捜査したか詳しく記しといた。片桐に渡しといて」

三上「そんな捏造、許される訳ねえだろ」

井筒「バーのマスターに言われる筋合いのことじゃねえよ」

三上「おまえ、定年前に俺が警察辞めたこと、根に持ってんのか?」

井筒「そんなに心の狭い男じゃないよ、俺は。…ただ今更パクられたくないだけだよ」

三上「アリバイが崩れたら一巻の終わりじゃねえか」

井筒「ふふん、3年ぶりに話せてよかったよ。ごちそうさん」

***********************************************************

(久遠部屋。神隠し模倣犯によって殺害された詐欺師の記事を前に)

久遠「どういうことだよ!俺たちと同じことをやってる連中が他にもいるなんてよ!」

伊達「オレオレ詐欺の怨恨の線もありえる」

久遠「遺体には”悪人に制裁を”ってメッセージが貼ってあったんでしょ?普通に考えて模倣犯の可能性のほうが高いっしょ」

伊達「神隠しは警察の中だけで噂されてることだ。世間には広まっていない。つまり、もし模倣犯だとすれば、それは警察関係者の犯行ってことになる。とにかく様子を見るしかない」

久遠「そんなこと言ってる場合かよ。こんかいのオレオレ詐欺の容疑者だってもう少しでパクれたんでしょ?…法の裁きに関係なく人を殺すなんて許せねえ。とにかくこの模倣犯を早く捕まえないと俺達にまで害が及ぶ。もし正体がバレたら…」

(あすかがノックもしないで駆けこんでくる。何事もないふうを装う伊達と久遠)

あすか「伊達さん。事件です」

***********************************************************

(あすかが運転する車から降り、吐きそうになっている伊達)

久遠「ほら、行くよ」

あすか「またですかぁ?」

***********************************************************

(来栖・堀田・轟・溝口・武本、根津健太の遺体を前に現場検証中)

久遠「(堀田をどけて)死因は?」

溝口「死因はじゃねえよ、今頃来やがって!」

(久遠、肩を竦めて愛想笑い)

堀田「(久遠の腕を引っ張って)ふふ、じゃねえよ」

(久遠と堀田、睨み合う)

***********************************************************

(捜査一課前の廊下に冴子が立っている)

冴子「よっ!」

伊達「おぅ!…じゃないよ。こんなに自由に署内を行き来できるルポライターは君ぐらいのもんだよ」

冴子「そぉんな褒めないでよ」

(伊達、冴子の行く手を阻むようにロッカーに手を付く)

伊達「…褒めてないよ。元警官の特権を利用しすぎ。わるいけど…」

冴子「夏樹の事件!…嘘ついたでしょ。来栖だっけ?あなたの部下。彼の話じゃ井筒課長にアリバイはなかったって。…どういうこと?」

伊達「そうだ、そうだ、そういえば」

(伊達、カバンをひらいて井筒から渡された報告書を取り出す)

伊達「これ、井筒課長から」

冴子「当時の捜査資料か。…随分用意がいいねえ」

伊達「暑っつい、暑っつい(部屋に入っていく)」

***********************************************************

(伊達と日向、根津美代子の自宅で聞き込み)

日向「義弟さんの犯行だとしても許せませんか?」

美代子「……はい」

日向「殺してやりたいですか?」

伊達「(咎めるように)日向くん」

美代子「…殺したいですよ。あの人を失った悲しみは、それぐらい深いんです」

(美代子の自宅を出て)

伊達「どうしてあんなことを言ったのかな。警察官としてあまり誉められた言動じゃない」

日向「ならあなたは許せますか?大切な人が殺されたら。神隠しって御存知ですか?立件出来ない容疑者を始末する。間違いなく犯罪者です。でも被害者からしたら救世主だ」

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(マーベスト・コーポレーション。ガラスパーティションの会議室にあすかと吉住)

あすか「大丈夫かなあ、伊達さん」

吉住「伊達警部って日向と組んでる方ですよね」

あすか「え、はい」

吉住「日向は相当な切れ者ですよ。まあ協調性ゼロなんで周囲には嫌われてますけどね」

あすか「似てます!頭は切れるけど周りのこと全然考えてないっていうか」

吉住「そうそうそうそう!」

あすか「ホントに手がかかるんですよねー」

(あすか、視線を移すと、コピー機で自分の顔をとっている伊達の姿が。思わず飲んでいたアイスコーヒーを吹いてしまう)

あすか「伊達さん、何やってんですかっ。伊達さんは被害者周辺のカンドリでしょ、関取りっ!」

***********************************************************

伊達「なあんか引っかかるんだよなあ」

あすか「またですか」

伊達「毎晩電話で話してたんだよ?どうしてFAX送らなきゃいけないんだ」

あすか「そりゃ実際に怪文書を見せて精神的に追い込みたかったんじゃないですか?」

伊達「そうかもしれない、でも」

伊達・あすか「そうじゃないかもしれない」

あすか「まだ疑問があるなら、ドウゾ」

伊達「お金が目的だったのに抜き取られたのは現金のみでカード類は無事だった」

あすか「動揺してたんじゃないですか?…まあそうじゃないのかもしれませんけど」

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日向「どうして任意で引っ張んなかったんです?自首をするための猶予を与えたんですか?」

伊達「………」

日向「ぬるいですね」

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冴子「珍しいですね。課長から会おうなんて」

井筒「5年前のコンビニ強盗殺人事件の資料。伊達からもらった?」

冴子「ええ。でもここに書かれた聞き込み先の漫画喫茶、5年前にはまだオープンしてませんよ」

井筒「…あ、そお」

冴子「いい加減教えてくださいよ。本当のことを」

井筒「……。夏樹の事件から手を引け」

冴子「………」

井筒「おまえも俺の可愛い部下だった。まあ口は悪かったけどね。これ以上追えば身の安全の保証は出来なくなるぞ」

冴子「どういう事ですか!夏樹の事件には何が隠されているんですか…。課長!」

井筒「…あいつは、俺が殺した」

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(江原の遺体を前に)

日向「手間が省けましたね」

久遠「おい!」

(伊達が久遠を制し、日向のそばに歩いていく)

伊達「彼は捕まえられた」

日向「でも江原には前科がありません。捕まえたとしても極刑にはならなかったでしょう。そのことを考えるとこっちのほうが遺族も喜ぶ…」

伊達「そういう問題じゃない」

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(久遠部屋)

あすか「やっぱり神隠しなんでしょうか?」

久遠「違うんじゃん?」

あすか「でもやってることは一緒ですよね」

久遠「いや、だから…」

あすか「もし、私の兄を殺した犯人がこのまま捕まえられなかったら、って考えることが時々あります。私の大事な家族の命を奪っておいて今もどこかでのうのうと生きてる…考えただけで気がおかしくなりそうです。正直、同じ目に合わせたいとも思います。でも、もし本当に殺されたとしたら…私は手放しで喜べないと思います。きっと後ろめたさや罪悪感で一杯になる」

久遠「…殺してなかったとしたら?」

あすか「…え?」

(あすかの携帯が鳴る。掛けてきたのは冴子。退室するあすか)

久遠「…ごめん」

伊達「江原さんを殺した犯人だけれども」

久遠「日向でしょ?俺達以外に江原が真犯人だって知ってるのはあいつしかいない。模倣犯は日向だ」

伊達「だけど彼にはアリバイがある。昨日の午後8時と午後10時、根津さんのマンションのエントランスに日向の姿が写ってた。奥さんの証言も取れてる」

久遠「夜8時から10時まで根津さんちにいたってわけか」

伊達「犯行時刻は午後8時40分」

久遠「でも非常口から出入りすれば犯行は可能だよ?」

伊達「そうなると奥さんの証言が嘘ということになる」

久遠「彼女もグルって可能性は?」

伊達「何ともいえない。これからそれを聞きに行く」

久遠「…ねえ。もし日向のアリバイが崩れたらどうすんの?」

伊達「…もちろん法で裁く。それが俺達のやりかただ」

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冴子「井筒課長がもう事件を追うなって」

(あすか、冴子を見つめる)

冴子「でもここで引くわけにはいかない」

あすか「冴子さん…」

冴子「夏樹の事件の背後にはそれだけ大きな秘密が隠されてるってこと。神隠しに繋がるなにかが」

あすか「兄はその秘密を知ったから殺されたんですか?」

冴子「そうかもしれない。確か夏樹の捜査資料が一ページなかったって言ったよね?」

あすか「はい…そこになにか書いてあるかも…。井筒課長が持ってるってことは?」

冴子「可能性はある」

あすか「じゃ私探してみます」

冴子「ん」

あすか「あの…これって伊達さんには内緒の方がいいんですよね?」

冴子「そうだね。夏樹の事件に関わっている人間にはバラさないほうがいいと思う」

あすか「彩子さんは伊達さん疑ってるんですか?」

冴子「まさか。…と言いたいところだけど井筒課長のアリバイ作りに関与してたことを考えるとね」

(あすか、辛そうな冴子を見て)

あすか「彩子さん、まだ伊達さんのこと好きなんですか?」

冴子「ふっ、そんなわけないでしょ…」

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<4年前>

(コートを着て捜査一課から出てくる冴子。廊下で待っていた伊達)

伊達「よぅ…」

冴子「おぅ…」

伊達「辞表を提出したって本当?」

冴子「…うん。夏樹の事件を揉み消しちゃうような現実を知っちゃうとね。人を信じられなくなるの嫌だから」

(冴子、歩き出し、立ち止まる)

冴子「ね…引き止めてくんないんだね(カラ元気で振り返る)」

伊達「僕は君に振られたんだよ。そんな資格はないよ」

冴子「(少し寂しそうに)やっぱりカズは女心がわかってない。…私、そんなに強くないんだけどなぁ」

(冴子、無理に笑顔を浮かべて立ち去る)

***********************************************************

(江原が殺された夜、血まみれで美代子の家に押し入る日向)

日向「あなたが言ったんですよ。殺してやりたいって。だからあなたの代わりに殺してあげたんです」

(恐怖のあまりしゃがみ込む美代子)

日向「(笑いながら)あいつ泣きながら言ってましたよ。死ぬとは思わなかったって。調子いいよね」

(日向、だんだん興奮しはじめる)

日向「ムカついて弾丸なくなるまで撃ちこんでやりましたよ。死んでも何発も!何発も!」

(美代子、恐怖で声が出ない)

日向「奥さん、恨みは晴らしましたから僕のこと助けてくれますよね。心配しなくていいですよ。僕の言うことを聞いていれば絶対に捕まらない。…殺して欲しかったんでしょう?」

(美代子、怯えながら頷く)

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(美代子の家。日向は8時頃から10時頃まで日向はここにいたと言い張る美代子)

伊達「もしあなたが日向のアリバイ工作に加担しているならあなたも罪に問われるんです」

美代子「違うって言ってるじゃないですか!私と日向さんはここで2時間話をした、それでいいじゃないですか!どうして私を苦しめるんですか?私は何も知りません。お帰りください。お願いです、帰ってください!」

伊達「今朝、江原さんがご主人を殺害した証拠が手に入りました。江原さんは法で裁けたんです」

美代子「だから何だって言うんですか?あの人が帰ってこないことに変わりはありません。あの人は子供を欲しがってました。結婚する前からずっと。ずっと」

(美代子の脳裏に子供が出来たことを喜ぶ夫の姿が蘇る)

美代子「あの人はもうお腹の子の顔を見ることはありません。あんなに生まれてくることを楽しみにしてたのに、もう見れないんですよ?」

(美代子の目から涙が止めどなく流れ落ちる)

美代子「さっきのあなたの推測が真実なら、私は悪いことをしています。でも心のどこかで清々している自分がいるのも事実です。…私は何も知りません。お帰りください」

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(Bar Mikaki、日向の言葉や美代子の言葉を思い出している伊達)

三上「おまえさあ。まさか模倣犯と自分が同じだなんて考えてんじゃねえだろうな」

(視線をそらす伊達)

三上「俺達は楽しんでやってるワケじゃねえ、むしろ逆だ。それでもやっているのは…遺族の明日を祈ってるからだ」

伊達「…ごちそうさま」

(バーを出ると久遠が待っている。いつもの店でラーメンを食べる2人)

久遠「伊達さん」

伊達「ん?」

久遠「俺はあんたに救われた。…ごめん、こんな言葉しか思いつかない」

伊達「(ラーメンを差して)のびちゃうよ」

***********************************************************

(青葉の第九倉庫に江原の共犯を名乗る男を保護を求めて身を潜めているので保護するよう伊達に伝えてくれ、と久遠から言われた日向。一人倉庫に向う)

江原の共犯者を名乗る者「自首する!早く署に連れてってくれ!」

日向「おまえも根津健太の殺人に関与しているのか?」

江原の共犯者を名乗る者「殺したのは江原だ!俺はFAXを送ったり脅しただけだ!詳しい話は警察で話す!だからっ!」

日向「甘いんだよ」

(江原の共犯者を名乗る者のシルエットに向かって弾が切れるまで撃つ)

***********************************************************

伊達「おまえは人が撃てればそれでいいんだな!」

(伊達、日向に銃口を向けている)

日向「ハメられたって訳だ」

伊達「”悪人に制裁を”。容疑者を撃ってあのメッセージを残したのはおまえだな」

(ボイスチェンジャーを通した久遠の声が聞こえる)

久遠「模倣犯のくせに出しゃばった真似しやがって。おまえみたいなやつと一緒にされてると思うとヘドが出るよ」

日向「(伊達に向かって)あなたが…神隠しの正体?(少し嬉しそうに)なんだよ、仲間じゃないか」

(伊達、相変わらず無表情だがいつもの余裕は感じられない)

日向「僕とあなたは同じだ」

伊達「違う」

日向「違わないよ。遺族を助けるために法を無視して人を裁く…」

伊達「だまれ」

日向「そんな権利はないのに正義のように人を殺す」

伊達「おまえと一緒にするな!!」

(余裕なく声を荒げる伊達、不審に思う久遠)

日向「何をムキになってんだよ。別に悪いなんて言ってないじゃないか。クソみたいな悪人がいなくなって遺族が救われるんだよ」

(日向、銃口の先にまで歩み寄る)

日向「俺達は救世主だ」

伊達「違う。おまえはただ人を殺したいだけだ。おまえがやっているのはただのエゴだ」

日向「だったら!…あんたがやってることは正義なのかよ?」

(伊達の表情から余裕が消える)

日向「エゴじゃないって言い切れるか?(伊達の背後をちらりと見て)…答えが聞けなくて残念だよ」

(伊達の背後から黒装束の男が現れ、伊達を殴り倒す。倒れこむ伊達。拳銃に手を伸ばすが、男によって届かないところへ蹴り出される)

日向「遅かったね…兄さん」

(男、仮面を取る。現れたのは日向と同じ港北西署の吉住)

吉住「弟を傷つける奴は許さない」

(日向、吉住から拳銃を受け取り、銃口を伊達に向ける)

日向「救世主は一人でいい」

(久遠も頭を殴られて意識を失っている)

(銃声が響く。血しぶきが上がる)

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(誰もいない捜査一課。夏樹の捜査資料の失われた1ページを探して井筒の机を漁るあすか。ペン立てを倒した拍子に何かの鍵を見つける。手提げ金庫の鍵。開けてみるとハンコなどと一緒に一枚の紙が。開いてみると探していた捜査資料の1ページだった)

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フジテレビ・オン・デマンドジョーカー許されざる捜査官
一話315円、全話1575円

2010年8月25日水曜日

第七話:あらすじ

ある男が殺害され、遺体の上に「悪人に制裁を」と書かれたカードが残されていた。伊達一義(堺雅人)、久遠健志(錦戸亮)は、自分たちが行っている制裁行為を真似た模倣犯かもしれない、と思う。が、だとすると、制裁行為は一般に報道されていないため、警察の人間の犯行ということになる。

そんな折、根津健太(山中崇)という男性の遺体が発見された。根津は、後頭部を強打され死亡したが、現金が奪われていたため、宮城あすか(杏)は、通り魔の可能性を示唆する。一方の伊達は、根津のズボンのポケットの裏地が出ていることが気になる――と、同じタイミングで、ポケットから何かが抜き取られた形跡があると指摘する者がいた。伊達とコンビを組むことになった港北西署刑事課の日向光明(忍成修吾)だった。

翌日、伊達は日向と根津の妻・美代子(尾野真千子)から事情を聞く。美代子は、根津には仕事以外に悩みはなかったと証言。しかし、日向が食い下がると、根津の弟・忠士(遠藤要)が頻繁に金の無心をしてきていたことに頭を悩ませていたと明かす。そんな美代子に日向は、忠士が犯人なら殺してやりたいか、と尋ねる。警察官としてあるまじき質問に、伊達は日向をとがめるが、美代子は「殺してやりたい」と答える。

同じ頃、あすかは日向の同僚の刑事・吉住武徳(飯田基祐)と、健太の上司・江原(水野智則)を訪ねる。江原は、数日前、健太の留守に忠士が鉄パイプを持って会社に現れ、騒動になっていたことを明かす。

そんな折、根津の殺害現場付近で鉄パイプが見つかり、忠士が取り調べられることに。鉄パイプに忠士の指紋があったことが証拠となり、来栖淳之介(平山浩行)らは忠士を自白させようとするが、伊達は忠士の犯行ではないと言う。忠士には4日前に手のひらに負った大きな切り傷があったのだ。健太が殺害されたのは2日前だから、忠士が犯人ならば、鉄パイプの指紋にも傷跡があるはずだ。つまり、鉄パイプの指紋は、健太の殺害前、会社に乗り込んだときについたものだろう、と伊達は推測したのだ。

翌日、伊達は日向とともに江原を訪ね、健太を殺したのは江原だろうと切り出す。健太のパソコン内に、江原が行っていた不正を暴こうとしていたメールがあったのだ。健太は証拠のデータをUSBメモリに入れ携帯していたため、それを奪おうとした江原に殺されたのだろうと伊達は言う。さらに、健太の爪の間に、犯人のものと思われる皮膚が残っていたこと、現在、江原のDNAとの照合を行っていることを明かすと、また来ると言って席を立った。江原に自首する猶予を与えた伊達を、日向は「ぬるい」と揶揄する。

そんな頃、井筒将明(鹿賀丈史)は、片桐冴子(りょう)を呼びだすと、5年前に起こった宮城夏樹(丸山智己)殺害事件から手を引くように言う。これ以上追うと、冴子の身に危険が及ぶと警告する井筒に食い下がる冴子。すると井筒は、夏樹は自分が殺した、と衝撃の告白をした。

その日の夜、とある駐車場で、江原が銃殺され、遺体の上に「悪人に制裁を」と書かれたカードが残された。実は、犯行に及んでいたのは、日向だったのだ。現場に駆け付けた来栖らは、"神隠し"か、と気色ばむが、伊達と久遠は日向の仕業だと感づいていた。しかし、日向にはアリバイがあった。江原が殺害された時刻、日向は健太宅で美代子と話していたと言い、防犯カメラの映像と美代子の証言もそれを裏付けた。それでも久遠は、非常口から出入りすれば犯行に及べるし、美代子がグルである可能性も否定できない、と推測。伊達は、美代子に話を聞きに行く。

伊達の訪問を受けた美代子は、日向のアリバイを裏付ける証言を繰り返すだけだった。アリバイ工作に加担すれば、美代子自身も罪に問われるのだ、と言う伊達に、美代子は涙ながらに自分の証言を認めてくれればいいじゃないか、と訴える。美代子は、伊達の推測が真実なら自分はいけないことをしているが、それでも、心のどこかが清々しているのも事実だと心の内を吐露。伊達は、それ以上言葉を発することはできなかった。

その日の夜、三上国治(大杉漣)のバーに立ち寄った伊達は、自分たちが行っている制裁行為の是非について思いを巡らせていた。

翌日、久遠は日向を呼び止め、江原に共犯者がいたと明かす。そして、その男とコンタクトしたところ、保護を求めてきたため、伊達にその男がいる第九倉庫に行くように伝えてくれ、と頼む。

その後、倉庫にやってきたのは日向ひとりだった。暗い倉庫のなか、自首するから、警察署に連れて行ってくれ、と男の声がした。ところが、日向は保護するどころか男に向け、銃を撃ち続けた。と、人影が音を立てて倒れた――次の瞬間、電気が点いた。人影はマネキンで、後ろを振り向くと、日向に麻酔銃を向けて立つ伊達の姿が、その近くには久遠の姿もあった。

江原に共犯者がいたというのは、日向の正体を暴くため、伊達と久遠がうった芝居だったのだ。

伊達に対峙した日向は、伊達も自分も、遺族を助けるために法を無視して人を裁く同じ仲間だ、と言うが、伊達は「お前と一緒にするな」と声を荒げる。それでも、自分たちは救世主だ、と続ける日向に、お前は人を殺したいだけで、お前のやっていることはただのエゴだ、と伊達は反論。そんな伊達に日向は、それならば伊達のやっていることはエゴではなく正義なのか、と問う。伊達の心が一瞬揺れたのを、日向は見逃さなかった。と、次の瞬間、何者かが伊達を背後から殴打、伊達は倒れてしまう。すると、日向が「遅かったね。兄さん」とその男に声をかける。それは、吉住だった。吉住から銃を受け取った日向は、「救世主はひとりでいい」というと、伊達に銃口を向けた。

その頃、久遠は吉住に襲われ倒れていた――と、銃声が響き……。



(以上公式サイトhttp://www.fujitv.co.jp/JOKER/index.htmlより)


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第七話:概要

放送日: 2010年8月24日
タイトル: 「CRIME7 模倣犯現る…間違った正義」
演出: 石川淳一


<ゲスト>

日向: 忍成修吾


根津美代子: 尾野真千子

吉住(日向の兄): 飯田基祐


根津健太: 山中崇

エハラ(根津の上司): 水野智則

根津の弟: 遠藤要


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第六話:感想

いつか来るだろうと思っていたストーリーだった。話数は想像していたより早かったが、伊達たちの仕事が何であるかを再定義するためには重要な回だった思う。視聴率も前回の出来を見てどうかと思っていたが上げてきた。固定ファンがしっかり付いているようだ。
ただ脚本はプロットをそのままセリフにしたような出来であまり良くない。この脚本家であればもう少しプロットを整理して、役者の演技を活かす緩急をつけたいいシーンとセリフを生み出せる筈だ。練って推敲するだけの時間が取れないのか脚本に疲れが見えるのが残念だ。

構成に関しても今回は盛り込むべき内容が多くあった。しかし尺は変わらない。
であればプロット全てを無理矢理組み込むのではなく思い切ってバッサリ切って、伝えたいことだけを丁寧に描くほうが作品の質は保たれた。

演出もテンポが悪く、脚本の冗長さと相まって、散漫な印象を受けた。
それを補うようにBGMを多用していたが、俳優がきちんと良い演技をしているのにBGMで状況を説明しようとするのはどうにもクドい。
久遠の暴走を目の当たりにした捜査一課や鑑識の面々が、それこそ役名なしの俳優も含めて、それぞれの役の気持ちを伝えるいい演技をしていたのに、そこをガヤ扱いにしてしまったのも大変残念だった。
久遠と文弥のキャッチボールのシーンも、2人に会話させればいいところを、なぜアフレコにしたのか全く意味不明だ。

一方で久遠とあすかのシーンや、来栖と冴子のシーンなど、男女2人のシーンではいい雰囲気の絵が見れた。シーズン後半に向けて色っぽい展開かあるかどうかわからないが、あっても面白い。
文弥の転落現場に到着した伊達たちをすり抜けるように久遠が走っていったシーンも、赤いアロハの残像が鮮烈な印象を残す良いシーンだった。
久遠が文弥の頬を摘むシーンも、遺体になったときだけ摘み方を微妙に変えることで、それが死体であることを伝える絶妙な演出だった。

俳優陣については相変わらず上手い。
ゲストの高杉亘は「ダメな父親から戻れなくなってしまった弱い男」を実に巧みに演じていた。錦戸の少年時代を演じるのは「流星の絆」に次いで2回目の嘉数一星も、独特の存在感で久遠の過酷な過去を鮮烈に印象づけた。
文弥役の渡邊甚平、まお役の佐々木麻緒も、ポテンシャルの高さを強く感じる子役だったし、綾田俊樹は相変わらずのイイ味だ。螢雪次朗の演技の幅にも驚かされる。

文弥の遺体を前にした錦戸の演技も素晴らしかったし、堺の「ばかやろう」も堺にしか出来ない複雑で繊細な演技だった。鹿賀については全く申し分ない。
平山とりょうの相性も予想外にいいし、錦戸と杏のケミストリーも現れてきている。土屋も堀田と久遠の間の微妙な感情を堀田らしく丁寧に演じている。とてもいい俳優だ。
永岡、佐伯、井上、鈴木もそれぞれキャラクターを確立してきていて見ていて楽しいし、捜査一課の役名なしの俳優たちも存在感のある良い仕事をしている。

ただ気になったのは錦戸のアフレコだ。
表情ひとつで鳥肌が立つような見事な演技をしてみせるくせに、アフレコとなったら学芸会レベルにまで落ちてしまう。もう少し落ち着いてゆっくり喋るようにしたほうがいい。

ストーリーについては今回初めて闇の制裁を受けずに法で裁かれる犯人が登場した。それはそれで正解だったと思う。

視聴者のカタルシスは「闇の制裁」によってしか得られないという訳ではない。
受けるべき罰から逃げた者に「応報の罰」が与えられるシーンが見れれば、それで視聴者はカタルシスを得ることが出来る。
その「応報の罰」は当然「法による裁き」であっていいし、「犯罪を立証した上での告発」でも構わない。ドラマらしく「悪人が自ら墓穴を掘って大恥をかく」的なものでもいいだろう。それこそ闇の裁きは3回に1回でも構わない。
穴だらけのプロットで無理矢理に「闇の制裁」に持ち込むほうが、逆にフラストレーションが溜まるというものだ。

今回伊達は「自分たちのしていることは復讐ではない」と言い切った。
もっとも今までの話を見ていると「第三者による恣意的な復讐(私刑)」にしか見えないので、説明セリフで帳尻合わせをしている感は否めない。
では「復讐」でないなら何であるべきなのか?それについては次回書きたいと思う。


事件のストーリーラインについては、久遠の過去に大きく触れるものだった。

このドラマでは「遺族の心の傷を癒すのは被害者との暖かい思い出と、遺族の心を思いやる第三者の理解である」というメッセージを発している。
第一話で幼い息子を殺された両親も、第二話で母を失った息子夫婦も、第三話の孝行娘を失った母親も、第四話の一人娘を逆恨みで殺された父親も、第五話の夫を自殺に追い込まれた妻も、失った家族が自分たちを愛してくれていたという事実に気づいて、悲しみを乗り越えようとしていた。
第六話の今回、その遺族の立場になったのは久遠だった。

父親からの虐待と捨てられたという痛みから抜け出せずに、苦しみ続けている久遠にとって、第三話の被害者・晴香や今回の文弥の痛みは、まるで自分のことのように感じられただろう。
もし久遠が伊達のように「誰かからの救いの手」によって苦しみから救い上げてもらっていたなら「親にすら虐待されてしまう自分」を受け入れることが出来たかもしれない。
しかし久遠は誰からも救い上げられることなく、どれだけ我慢してもそばにいたかった父親にすら、結局は捨てられてしまった。

4歳で母を失ってから虐待を受け続けていた久遠には、母親の記憶も、普通の子供が持っている暖かくて他愛ない日々の記憶すらもないだろう。
あるのは一度だけ父親に連れて行って貰った海の記憶と、母親の形見であるカメオのブローチが連想させる母親のイメージくらいなもので、文弥が必死で取り戻そうとしていた「優しかった以前の父親」も持ってはいない。
幸せだった時代の記憶があれば「いつかあの頃に戻れるかもしれない」と希望も持てる。しかしそれすらもないとなれば、虐待される理由を「自分」か「相手」に求めるしかなくなる。

親から暴力を受けている子供の殆どは「親は悪くない」「暴力を振るわれてしまう自分が悪い」と思い込む。
虐待される理由を「自分」に求めて、「愛されていない」のではなく「悪いことをしているから叱られているだけ」だと考えるのだ。
「父親は悪くない」と言った文弥を理解していた久遠もまた「父親に虐待されるのは自分が何か悪いことをしているのだ」と思っていただろう。

しかし大人になれば「虐待された自分」が悪いのではなく「虐待した親」のほうが悪いのだと理解るようになる。
それは同時に「ただ単に自分が親に愛されなかっただけ」という現実を目の当たりにすることにも繋がる。
どんなに酷い虐待の痛みよりも、この「どれだけ耐えても愛されなかった」という現実のほうが、はるかに深く久遠を傷つけただろう。
その行き場のない怒りと悲しみが久遠健志という男を形作っている。

親に愛されなかった自分自身を受け入れて愛してくれる他の誰かを探すでもなく、誰かに自分を分かってもらおうとするでもなく、自分を閉ざして「はみ出し者のチャラ男」の仮面をしっかりと被ってしまった久遠に、救いの道など残っている筈がない。
鑑識員として物証を掴み犯罪を暴く仕事は、久遠に「正義」という寄る辺を与えただろうが、同時に限界も見せたことだろう。

第三話、第六話と、久遠は犯人に銃口を向けた。
その先に見ていたのは憎い父親の姿だったのだろうか?おそらくそうではない。
久遠が消してしまいたかったのは「どれだけ耐えても愛されずいとも簡単に捨てられてしまった自分自身」、壊してしまいたかったのは「そこから抜け出すことが出来ない自分自身」だろう。

もし久遠が伊達という理解者を得なかったら、久遠は自分自身を受け入れることも、行き場のない怒りと悲しみを消化することも出来ないままに、独りよがりな「正義」に身を任せてしまったかもしれない。
堕ちることで自分を壊してしまっていたかもしれない。

何がなんでも守ろうと思っていた文弥を殺されてしまった久遠は、今回、文弥の実質上の遺族だった。
「遺族の心の傷を癒すのは被害者との暖かい思い出と、遺族の心を思いやる第三者の理解である」というドラマのメッセージの通り、久遠は文弥からの最後のメールで、ただ耐えるだけでなく抜けだそうとする勇気を受け取った。
文弥は殺されてしまったが、文弥との暖かい思い出は久遠の心の中に確かに残った。
そしてそんな久遠の心を理解してくれる伊達や三上もいる。
悲しみはそう簡単に癒えなくても、いつか時間が「苦しさ」を「憎しみではない何か」に変えてくれるだろう。

今回面白かったのはこの後だ。

文弥の父・広之が犯行を認め謝罪したのを見届けた久遠は、文弥と伊達からもらった勇気を胸に実の父親に会いに行った。
15年ぶりにあった父は、一度だけ連れていった海のことも、久遠がその絵を描き続けていたことも覚えていた。幼い久遠が描いていたのと同じ絵を一心に描いている父親の姿を見た久遠は、再び父親からの愛情を期待しただろう。
見ているこちらも「愛されていなかったわけじゃない」というオチになるのかと思っていた。

ところがボケ気味の父親は久遠が誰だか判らず、虐待して捨てた息子に向かって「どなたですか?」と穏やかに微笑んでみせた。
このときの久遠の気持ちは察するに余りある。勇気を振り絞って父親に会いに行ってみれば父親は息子のことすら判らない。しかも自分には微笑みかけてくれなかった父が、見も知らぬ人間には柔らかく微笑んでみせるのだ。
結局また久遠の気持ちは置いてけぼりにされてしまった。

そんな久遠を慰めたのは伊達でも三上でもなくあすかだった。
あすかは久遠が虐待されていたことも父親に会いに行ったことも知らない。ただ久遠が落ち込んでいるのはわかるから、何も言わずにそばにいようとしている。
文弥のそばに久遠がいようとしたように、久遠のそばにもまた、あすかがいようとしてくれる。

父親に捨てられたあとの久遠がどのように成長したかはわからない。
しかし、こうして理解ろうとしてくれる人を得ていくことで、久遠は過去を乗り越えていくのだろう。
そして久遠にとって大切な人が増えていけば、久遠の暴走や狂気もまた少し違った形で現れてくるのかもしれない。
久遠はやっと得られた大切な人々に彼なりの精一杯の献身をするだろう。伊達や三上、あすかに心を開いていけばいくほど、久遠の彼らへの思い入れは深まる。

伊達やあすかに比べて不完全で不安定だが、頭が切れて実力があるぶん、久遠は敵に回すと厄介な男だ。
似たタイプの敵とガチでやりあうところも見てみたいものだ。


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フジテレビ・オン・デマンドジョーカー許されざる捜査官
一話315円、全話1575円

第六話:伏線?セリフ集

 
<5年前>

(夏樹殺害現場に駆けつける伊達と冴子。そこには変わり果てた夏樹の姿があった)

伊達「宮城…」

冴子「…どうして?」

(井筒が到着)

井筒「おつかれ」

(遺体の前にしゃがんで手を合わす)

井筒「宮城の携帯は?」

溝口「そこの遺留品の中にあります」

冴子「(苛立を滲ませて)それ、どうするつもりですか?」

井筒「何か手がかりが掴めるかもしれんだろ」

(井筒、夏樹の携帯の中身を見た後、その携帯を持って立ち去る)

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(前回続き。深夜に一人、夏樹の捜査資料を調べるあすか)

あすか「”捜査一課長の井筒将明”…どうして次のページがないんだろ」

(井筒、不意に背後からあすかの肩を掴む)

井筒「過去の捜査資料は持ち出し厳禁だよ?」

あすか「すみません」

(あすか、資料を返却するために立ち上がる)

井筒「あのさあ!(あすか振り返る)…片桐に何か言われた?」

あすか「(ひきつり笑いを浮かべて)片桐、って、誰ですか?」

井筒「ふ、ふふっ…判りやすいねえ君は。兄貴と一緒だ」

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冴子「木内亨、春日恒夫、山原哲司、椎名高弘、そして、氷川成美。今年に入ってから5名が神隠しにあってる」

三上「よく調べたな」

冴子「5名の共通点は、法の裁きから逃れたこと、消息が掴めないこと、そして、神奈川県警本部の捜査一課が動いていること」

三上「まさか警察内部の仕業だなんて言わないよな」

冴子「(伊達に向かって)あなたも捜査一課だよね。次は誰がターゲットになるのかなあ」

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(交番にいた少女まおから同級生の吉永文弥が虐待を受けているので助けて欲しいと言われた久遠は文弥の自宅を尋ねる。児相や刑事にも躾だと判ってもらったという文弥の父親・広之に対し)

久遠「あなたにとっては躾でも文弥くんにとってはそうじゃないかもしれない」

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まお「(文弥の家から戻ってきた久遠に)どうでした?」

久遠「あれ、虐待じゃないなあ」

まお「そんなあ」

久遠「そう思ってもらいたいはずだよ、君には。…大丈夫。文弥くんは俺が守ってやる」
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(捜査一課は連続強盗事件の報告会の最中。来栖は苦情電話に対応中)

来栖「大変申し訳ありませんでした(電話を切る)」

(久遠が部屋に入ってくる)

久遠「伊達さん、ちょっといい?」

来栖「おい、久遠!いま青葉台署から連絡があったぞ。おまえ吉永文弥に会いに青葉団地に行ったらしいな」

あすか「青葉団地って強盗傷害の現場付近だ…」

久遠「吉永文弥は虐待されてます。痣もありました」

来栖「吉永家はな、もう所轄が様子を見に行ってんだ。虐待の事実は本人が否定してるし、父親も躾の延長で…」

久遠「(来栖の言葉を遮るように)まともに見てねえのに何が躾だよ」

来栖「(怒った表情で久遠に一歩近づく)ああっ?!」

久遠「職務怠慢だって非難されたくないからとりあえず聴取しただけだろ?そんなのなんの解決にもなんねえよ」

(堀田が久遠を制するために来栖の前に進みでて、片手で久遠の襟元を掴み上げる)

堀田「おい、なめた口叩いてんじゃねえぞ」

久遠「(冷たく)はなせよ」

(ガチで喧嘩を売ってきている久遠に、堀田の目が一瞬で鋭くなる)

滝川「ちょっと!止めましょうよ!」

(井筒が部屋に入ってきて)

井筒「おっ、喧嘩か?いいねえ、やれやれ!」

滝川「課長!」

(堀田、久遠を睨みつけたまま手を離す)

井筒「なんだやらないのか。つまんねえなあ。…おい久遠、おまえバケツ持って廊下立ってろ」

久遠「なんで俺が!」

井筒「許可無く民家に入った罰だ。それと減俸三ヶ月。セットでね。セット料金」

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(廊下で両手に水の入ったバケツを持って立っている久遠)

滝川「落ちこぼれみたいですね。あ、落ちこぼれか。お先に~」

伊達「ああそういえば、話って何だったんだ?」

久遠「ああ、ケータイ借りようかと思って」

伊達「携帯?」

久遠「いや、俺のケータイ文弥が持ってんだよ。だからあいつと連絡取りたくて。俺が救ってやんねえと」

伊達「虐待か、躾か、その判断をするのは難しい。今のままじゃその文弥くんて子が虐待だと認めない限り、警察もこれ以上動けない」

久遠「伊達さんもあいつらと一緒かよ」

(伊達、久遠のシャツの胸ポケットに自分の携帯を入れて立ち去る)

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(バーmikami。伊達にファイルを差し出す三上)

三上「小僧の経歴だ。あいつ、4歳のときにおふくろを亡くしてから10歳までの間、ずっと親父から虐待を受けてたんだ」

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<15年前>

(夏の暑い部屋。クレヨンで無心に海の絵を描いている幼い久遠)

久遠の父「おい、酒買ってこい」

久遠「え…お金…ないけど…」

久遠の父「なけりゃ作ってくりゃいいだろ!」

(久遠を突き飛ばし、引き出しからカメオのブローチを取り出して放り投げる)

久遠の父「ほら!これ売って買ってこい!」

久遠「これ母さんの形見…」

久遠の父「いいから買ってこいよっ!」

(久遠の父、息子の顔めがけてカップ酒の空き瓶を投げつける)

久遠「あっ…」

(左目の上にもろに当たって血が流れる。背中には生々しい紫色の火傷痕が覗いている)
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(久遠部屋。引き出しの中からカメオのブローチと、ブローチが入っていた封筒を取り出す久遠。封筒には介護老人ホームの名前と住所が印刷されている。ブローチと封筒の住所を見つめたあと、伊達から借りた携帯を手に取る久遠)

(文弥の家。久遠から預かった携帯がメール着信を告げる。携帯を開く文弥)

久遠からのメール『俺、親に虐待されてたんだ くどう』

(驚く文弥)

久遠からのメール『学校の奴らにはバレたくなかった。だからいつもヘラヘラしてた くどう』

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(メール着信音。携帯を開く久遠。覗き込む伊達)

久遠「(嬉しそうに)文弥からの初メール」

文弥のメール『気持ち、わかる。 ふみや』

伊達「何の話?」

久遠「内緒~」

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あすか「これ、捜査資料まとめたものです」

冴子「ありがとう」

あすか「でも1ページなかったんです。…あの、井筒課長が容疑者だったって本当ですか?」

冴子「ん…5年前、井筒課長が使ってた情報屋が殺されてね」

あすか「はい」

冴子「その前日に井筒課長がその男と口論していたところを目撃されているの。その情報屋と井筒課長との関係を夏樹が単独で洗ってたら、一週間後に…」

あすか「それが容疑をかけられた理由ですか?」

冴子「2人とも同じナイフで殺されていた。しかも井筒課長がやったっていうタレコミまであって。でも物証は出てこなかった。課長も知らないの一点張り。…実はね、課長を取り調べたのは伊達なのよ。でも取調べは形式だけで、すぐに井筒課長の容疑は晴れた」

あすか「どうして」

冴子「アリバイがあったのよ。あの日、井筒課長は伊達と一緒に別の事件を追ってたの。川崎のコンビニ強盗殺人」

あすか「じゃあ井筒課長じゃないんですね」

冴子「そのアリバイが本当だったらね」

(表情が硬くなるあすか)

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(昼間は文弥の虐待について捜査しているため、青葉町連続強盗事件について捜査状況を追うために一人残業している伊達。井筒が帰りしなに伊達に声をかける)

井筒「妙なことと言えば、宮城が兄貴の事件を調べてる」

伊達「(どうとでも取れる表情で)そうですか」

井筒「…ま、心配するこたぁないか。お疲れチャン」

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(久遠と文弥、河原でキャッチボールをした後)

久遠「このまま誰にも言わないつもり?身体の傷のこと」

文弥「僕は何もされてない」

久遠「憎くないの?親父のこと。俺は許せなかった」

文弥「お父さんは悪くない。悪くないんだ」

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(久遠部屋)

あすか「久遠さんって過去引きずったりしますか?」

久遠「何、突然」

あすか「いや、私は全然切り離せなくって。今でも亡くなった兄のこと探してる気がします」

久遠「別にいいじゃん、それで。てか過去と向き合ってるだけ立派じゃね?俺なんか振り返りたくもないし」

(あすか、久遠の机の上のカメオと封筒に気づく)

久遠「あ、これ?(封筒を手にして)親父がここにいるんだよ、俺を捨てた。10歳のときだったから、もう15年会ってない。んで2年前にこれが届いて、ここにいること知った」

あすか「介護施設?」

久遠「うん(封筒を捻ってゴミ箱へ捨てる)ま、もう会うこともないだろうけどね」

***********************************************************

来栖「吉永文弥の虐待について調べてんのか。あのなあ、俺達が追わなきゃいけねえのは同じ青葉町でも窃盗団の方なんだよ」

伊達「は、はぃ」

来栖「勝手な真似すんじゃねえ」

伊達「はぃ、すみません…」

来栖「ああああ、ウザイ、ウザイ、ウザイ、…はーっ、ウザっっ!」

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(廊下で冴子と出くわす来栖)

来栖「おい、ここは部外者立ち入り禁止だぞ」

冴子「まあまあ、すぐ済むから」

来栖「ダメだ」

冴子「チッ。だったらこれ伊達に渡しといて」

(冴子、資料を来栖の鼻先に押し付けて帰っていく)

来栖「なんだ、あの女」

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<15年前>

(夏の暑い部屋。クレヨンで描いた海の絵。父親はいない。10歳の久遠がフラフラと立ち上がり、水道の蛇口に口を付ける。しかし水は出てこない。そのまま倒れこむ久遠)

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(文弥が死んだのは自殺で学校でのイジメが原因のように話す文弥の父親に久遠が殴りかかる)

久遠「何嘘ついてんだよ!全部てめえのせいだろ!」

(騒然とする現場。久遠を取り押さえる来栖・堀田・轟)

久遠「おまえが殺したんだろ、おまえが文弥を!」

(久遠の感情の爆発を静かに見つめる伊達)

***********************************************************

(堀田と轟に連れられて現場から出てくる久遠。そこにまおが現れる)

まお「嘘つき!」

(涙を溜めて久遠を睨みつけるまお)

まお「守ってくれるって言ったじゃない!嘘つき…!嘘つき!」

(泣きながら久遠の胸元を叩くまお。硬い表情で見下ろす久遠。痛まし気に見つめるあすかと伊達)

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(見張り付きで取調室に軟禁されている久遠。伊達が入ってきて見張りを代わると申し出る)

久遠「伊達さん…」

伊達「ばかやろう」

(伊達を見つめる久遠)

伊達「自殺の線で固まりそうだ」

久遠「ちょっと待ってよ。明日巨人戦観に行こうって約束してたんだよ?自殺なんかするわけねえだろ?」

伊達「そのあと心変わりしたのかもしれない。それはメールじゃ判断できない。それと父親の虐待を立証するのも難しいそうだ。転落の損傷が激しくて虐待の痕を確認出来ないらしい。君も知ってる通り、新しい傷が古い傷痕を消してしまうことはよくある」

久遠「俺見たんだって!文弥の身体には確かに痣があったんだよ!」

伊達「だとしてもそれが虐待の痕だと証明するのは難しい」

久遠「じゃあ…あの親父は法では裁けないってこと?」

(なぜか取調室の机に設置してあるカメラが作動していて、マジックミラーの向こうにある小部屋のモニターには久遠の顔が映っている)

久遠「頼む、伊達さん。裁いてくれ」

伊達「父親が文弥くんを虐待していたということも、彼を殺害したということも、何の確証も得られていないんだ。動くことは出来ない」

久遠「何でだよ!俺には判んだよ!あいつがやったんだって!あいつが文弥を殺したんだよ!文弥は間違いなく前を向こうとしてた。変わろうとしてたんだって!」

伊達「憶測で人を裁けばそれはただの犯罪者だ。君が憎んできた奴らと何も変わらない」

(久遠、泣きそうな表情を浮かべる)

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(右利きの文弥がベランダの手摺を乗り越えるのに左足を上げていたことに対して)

伊達「もちろんこれが証拠になるとは思っていません。ですが私に取っては十分過ぎる違和感です」

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(取調室に軟禁中の久遠。見張りはなぜか井筒)

久遠「なんで課長が俺の見張りなんすか?」

井筒「だってみんな忙しいんだもん。しょうがねえじゃん」

(井筒立ち上がる)

久遠「どこ行くんすか?」

井筒「ん?(タバコを吸う真似をしながら)トイレ。あ、おまえさあ、逃げんなよ?な、逃げんなよ」

(取調室から出て行く井筒)

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(文弥の転落現場にいる伊達。そこに窃盗事件を捜査中のあすかが現れる。あすか、少し躊躇ったあとに思い切って口を開く)

あすか「あの、5年前の兄の事件なんですけど。伊達さんが井筒課長を取り調べたって聞きました。井筒課長の犯行は本当に不可能だったんでしょうか」

***********************************************************

(窃盗団を逮捕し捜査一課に戻ってきた伊達。そこには久遠を見張っていたはずの井筒がいた)

井筒「あーご苦労さん」

伊達「課長…久遠を見ててくれたんじゃ…」

井筒「あ?ああ。ちょっと目を離した隙にさあ、どっか行っちゃった」

伊達「え…」

***********************************************************

(文弥の父・広之がパブから出てきたところをつける久遠。人気がなくなったところで広之を背後から蹴り飛ばす)

広之「おまえ…!」

(広之に銃口を突きつける久遠)

久遠「おまえが文弥を突き落としたんだろう?」

広之「何だよ…」

久遠「おまえが殺したんだろ?」

広之「…頼む…撃つなよ…な…撃たないでくれ、頼むよ…」

(広之の顔面を蹴り飛ばして気絶させる久遠)

***********************************************************

(埠頭に走りこむ久遠の車。待っていたのは三上)

三上「伊達はどうした?」

久遠「………」

三上「どうした?と聞いてる」

久遠「後から来るよ」

三上「おまえの独断か」

久遠「この男を始末して欲しい」

(車の後部には気を失っている広之が)  

三上「ハンパなことしやがって。誰なんだこいつは」

久遠「虐待で息子を殺した父親だよ」

三上「確証は?」

(伊達が現れる)

伊達「確証はありません」

久遠「伊達さん」

三上「だからこんな小僧は入れるなと言ったんだ」

久遠「こいつがやったんだよ!こいつが文弥を散々殴って蹴った挙げ句に、人形みたいに殺したんだよ!どんな仕打ちを受けてても文弥は虐待されてるとは言わなかった。何でだと思う?」

(久遠を見つめる三上と伊達)

久遠「親だからだよ。文弥は僅かな望みに掛けてたんだよ。こんな奴でも信じてたんだよ。いつか…いつか分かってくれるって。なのにこいつは改心するどころか文弥の命を奪った。許せるわけねえだろ!」

(伊達、静かに久遠を見る)

久遠「終身刑が出来ないなら、俺が殺してやる」

(広之に銃口を向ける久遠)

三上「久遠!…おまえガキの虐待を自分の復讐にしようとしてんじゃねえのか!」

(伊達の携帯が鳴る)

伊達「宮城くんからだ(電話に出る)はい」

あすか「文弥くんが殺されたって証言が取れました。例の窃盗団の一人が見ていたんです。窃盗の犯行がバレるのを恐れて黙っていたそうです」

(伊達、電話を切る)

伊達「吉永が文弥くんを殺害したところを目撃した人間がいたそうだ。…これで吉永を逮捕できる」

久遠「駄目だよ」

伊達「久遠」

久遠「パクってムショに入れたところでいつかは出てくる。人殺してんのに。あんな酷い仕打ちしてんのに。こんなクズいなくなったほうがいいんだよ」

伊達「それは君が決めることじゃない。法で裁ける人間は法で償わせるんだ。俺達がやってるのは復讐じゃない」

(伊達、携帯を操作して文弥の最後のメールを開く)

伊達「文弥くんが君に出した最後のメールだ。”巨人戦楽しみにしてる”その下にもう一文残してた。”勇気をくれて、ありがとう”。文弥くんは抜けだそうとしてたんだ。ただ耐えるだけの日々から。今度は君が抜け出すんだ。君が闇に葬るのはその男じゃない。過去の自分だ!」

(久遠、目に涙を溜めて銃口の先の広之を見る。久遠の中で様々な感情が葛藤する)

久遠「うあぁぁぁぁっ!」

三上「久遠っ!撃つな!」

(発砲音。弾丸は広之ではなく海に消えた。久遠の目から流れ落ちる涙。安堵する三上)

***********************************************************

(取調室)

広之「…私がやりました…すいませんでした…」

(マジックミラーの向こうで見ている伊達と久遠。自白を聞いて久遠は無言で小部屋を出て行く)

***********************************************************

(カメオのブローチが送られてきた封筒を頼りに、父親がいる介護老人施設を訪れる久遠)

介護士「久遠さん、絵、上手なんですね」

(その声の先には、寝間着を着て車椅子に乗った久遠の父が、クレヨンで何かを描いている姿があった)

介護士「久遠さん海が好きなんですか?」

久遠の父「一度だけ2人で見に行ったことがあるんです。”あいつ”はいっつもこの海描いてた」

(久遠の父が描いていたのは、幼い久遠が描いていたのと全く同じ構図の海の絵だった)

久遠「(ごくりと唾を飲む)”あいつ”って?」

(久遠の声にゆっくりと顔を上げる父親、見つめあう父子。父親が柔らかい表情を見せる)

久遠の父「あなたは…どなたですか?」

(久遠の目が悲しみに潤む。久遠を知らない人間だと理解した父親はまた絵を描き始める。その父の手にカメオのブローチをしっかりと握らせる久遠)

久遠「大事にしろよ。じゃあな」

(久遠、立ち去る。父親はカメオのブローチを見て何かに気づき久遠を視線で追うが、久遠は振り返らずに去っていく)

***********************************************************

(久遠部屋。元気のない久遠。そこにあすかがやってくる)

久遠「伊達さんならいないよ」

あすか「知ってます」

(あすか、久遠の隣に椅子を置いてそこに座る)

久遠「何?」

あすか「落ち込んでる時、誰かにいてもらうとホッとするんです。何も言わないでただそばにいてくれるだけで」

(久遠、あすかが何のために来たか理解する)

久遠「伊達さんに何か言われた?」

(あすか、無言の否定)

久遠「…サンキュ」

(あすか、頷く)

久遠「ちゅーしていい?」

あすか「(間髪置かず)だめ」

(いつものノリに戻って2人笑顔を浮かべる)

***********************************************************

(冴子、夜に捜査一課にいくと来栖だけが残っている)

冴子「チッ」

来栖「だからあ!」

冴子「部外者は入るな!でしょ?ちゃあんと伊達に資料渡してくれた?」

来栖「渡したよ!けど、何で今更5年前のコンビニ強盗殺人なんて。あんなにすぐ解決した事件…」

冴子「知ってんの?」

来栖「ああ。俺も所轄の署員として関わったんだ。本部の一課だった伊達と一緒に」

冴子「あなたが伊達と組んでたの?」

来栖「ああ」

冴子「あの事件の日、夏樹は殺された…。伊達と井筒課長とどこ捜査したか覚えてる?」

来栖「課長が俺達と一緒に捜査したことなんて一度もねえよ」

***********************************************************

<5年前>

(県警本部の応接室)

三上「どうして井筒をかばった?」

伊達「井筒課長はやっていません。なのにまるで警察全体が課長を犯人に仕立て上げているように思えたので」

三上「だから井筒のアリバイを偽ったのか?」

伊達「………」

三上「宮城夏樹の捜査が打ち切りになった。井筒が疑われたように警察内部にホシがいるのは確かだ。だったら不祥事になる前にもみ消そうってのが上の考えだ」

伊達「納得できません」

三上「未解決事件にさせたくない気持ちは俺も一緒だ。おまえと意見が違う点は一つだけ。俺は…井筒がホンボシだと思ってる」

***********************************************************

三上「あすかちゃんが夏樹の事件追ってるとはなあ。冴子ちゃんの入れ知恵か」

(靴音を立てて客が入ってくる)

三上「いらっしゃ…」

(客の姿を見て三上と伊達の表情が固まる)

井筒「…よお」

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久遠健志の父親

久遠健志の父親 … 螢雪次朗公式サイト

久遠健志の父親。久遠が4歳のときに妻を亡くし、酒浸りになって久遠に酷い虐待を繰り返した。久遠の背中にある酷い火傷痕やタバコを押し付けられた痕はこの父親によるもの。久遠が10歳のとき久遠を捨てて蒸発。今は静岡の介護施設に入所している。

・螢雪次朗 … 1951年8月27日生まれ、B型、埼玉県出身、身長170cm


<トリビア>
・アル中
・仕事はたぶん工事現場の交通整理員
・久遠は晩年に出来た子供のようだ
・息子に虐待で大火傷を負わせたり、タバコの火を押し付けたり、顔面めがけて近距離からワンカップの瓶を投げつける鬼畜な父親
・妻の形見のカメオのブローチを飲み代に使おうとしていたが結局使わず、久遠を捨てて家を出たときに唯一金目のそのブローチも持って出た。それから13年間久遠とは連絡を取っていなかったが、2年前に突然久遠の元にカメオのブローチを送りつけてきた。どこで久遠の所在を知ったのかは不明。ブローチは入所していた介護施設の封筒に入っていた
・施設の名前は「介護老人保健施設まほろばの家」417-0097静岡県富士市今泉4002-1
・一度だけ幼い久遠を連れて2人で海を見に行ったことがある
・現在は痴呆症状が現れているように見える
・捨てる前の久遠が繰り返し描いていた海の絵を覚えていて、介護施設で同じ絵を描いている。老いて息子との僅かな思い出と息子への愛情が蘇ったのかもしれない
・介護施設にいる自分を訪ねてくれた久遠を見ても息子だとわからなかった。カメオを渡されて相手が誰か気づいたかもしれない




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久遠健志(少年時代)

久遠健志(少年時代) … 嘉数一星公式サイト

4歳のときに母親を亡くし、以後10歳まで父親に虐待されて育つ。背中には酷い火傷痕やタバコを押し付けられた痕がある。学校には行っていた様子。10歳のとき父親に捨てられ、水道も止められた部屋で父を待つ。その後どうやって成長したかは不明。


・嘉数一星 … 1998年11月12日生まれ、沖縄県出身、身長138cm


<トリビア>
・1度だけ父親と2人で行った海を覚えていて、父親に捨てられるまで繰り返しその絵をクレヨンで描いていた。絵の中身はどれも全く同じで、未就学児から小学校低学年くらいの子供が描くような絵であったことから、海に連れてってもらったのはかなり前であることが推測できる
・親に虐待されていることを友達に知られたくなくて学校ではいつもヘラヘラしていた。もしかすると虐待されていることを絶対に知られたくない女の子もいたかもしれない
・母親の形見は青いカメオのブローチ。父親が飲み代に使おうとしていたが結局売らず、久遠を捨てたときに持って出た。2年前久遠の元に郵送されてきてからは久遠が所有していたが吉永文弥殺害事件の後、父親が入所している介護老人ホームを訪ねた久遠が父親に返した





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第六話:あらすじ

ある街で、宝石店などを狙った窃盗傷害事件が連続で起き、伊達一義(堺雅人)らはその捜査を担当する。

そんななか、事件を管轄する警察署から捜査一課にクレームが入った。久遠健志(錦戸亮)が、その付近で父親から虐待を受けていると噂される小学生・吉永文弥(渡邉甚平)を自宅に訪ねたからだ。すでに所轄の警察官が父親に会い、虐待はなかったと確認したのに、県警本部の久遠が訪問したことで所轄は体面を汚されたというのだ。結局、減俸に処されたが文弥が虐待されていると確信する久遠は、伊達から携帯電話を借りると、訪問時に文弥に渡した自分の携帯電話にメールを送る。そこで、自分も親から虐待を受けていたこと、それでも友だちにはそれを知られたくなくて誤魔化していたことを明かす。

同じ頃、久遠に父親から虐待されていた過去があったと知った伊達は、文弥の自宅周辺で聞き込みをはじめる。すると、文弥の父親・広之(高杉亘)が、酒グセの悪さで評判になっていることがわかる。久遠は、野球好きの文弥とキャッチボールをするなどして、距離を縮めていた。文弥は、虐待は認めないものの、自分を守ろうとする久遠の存在が心強かった。

その頃、宮城あすか(杏)は、"神隠し"を追う片桐冴子(りょう)の協力を得て、兄・夏樹(丸山智己)殺害事件の真相を突き止めようと動いていた。そのなかで、井筒将明(鹿賀丈史)が、夏樹殺しの容疑者だったという事実を知る。

そんな折、文弥が団地の4階にある自宅から飛び降りて死亡した、との知らせが入る。現場に駆け付けた久遠は、文弥の変わり果てた姿を見て立ち尽くす。そして、あすかが事情聴取していた広之に目をやる――と、広之は、文弥は学校でいじめに遭っていたらしい、としおらしい態度で話していた。そんな広之に久遠の怒りが爆発。いきなり殴り倒すと、さらに馬乗りになって殴ってしまう。

鑑識の捜査の結果、ベランダの手すりにあった両手の指紋と左足の足紋が文弥と一致したことから、自殺の可能性が濃厚となる。

伊達は、署内で謹慎させられている久遠にそのことを報告。久遠は、翌日に自分と野球の試合を見に行く約束をしていた文弥が自殺するわけがない、と反発するが、伊達は、それを示すメールだけでは判断できないし、そもそも広之が虐待していた事実さえ立証できないだろう、と答える。それでも久遠は、広之が文弥を殺害したのは間違いない、と必死に訴える。

その後、伊達は文弥宅を訪ね、再び現場を見ることに。そして、広之の前で、文弥がしたというように、ベランダの手すりをつかみ左足を乗せる動作をしてみせる。左足を乗せたのは左利きだったからか、と尋ねる伊達に、広之はそうだと答える。すると伊達は、文弥は右利きだが、あるプロ野球選手に憧れて、左投げ左打ちに変えていたことを明かす。文弥が久遠に送ったメールに、書かれていたのだ。広之は、右利きでも左足を上げることもある、と反論。伊達も、それ自体が証拠になるとは思わないが、それでも自分には違和感のある事実だ、と明言する。さらに、文弥がスポーツバッグのなかに隠していた複数の酒瓶を見せ、文弥は、広之に酒を止めてほしかったのだろう、と言う。

一方、窃盗団を追っていた来栖淳之介(平山浩行)らは、ついに、犯人と思われる若者3人組を確保する。あすかは、そのうち見張り役だった男を事情聴取。すると男は、文弥がベランダから突き落とされるのを目撃したと証言する。

そんなあすかからの電話を受けたとき、伊達は、埠頭にいた。久遠が独断で広之を制裁し、三上国治(大杉漣)を呼びだした現場に駆け付けたところだった。これで広之を逮捕できる、と言う伊達に、久遠は"神隠し"に遭わせると譲らない。文弥に、幼い頃の自分を重ねていた久遠は、どうしても広之が許せないのだ。伊達は、そんな心情を理解しつつも、自分たちがやっていることは復讐ではないのだ、と諭す。そして、久遠は気づいていなかったが、文弥からのメールの最後に「勇気をくれて、ありがとう」とメッセージがあったことを伝える。虐待に耐える日々から抜け出そうとしていた文弥のためにも、広之ではなく、自分自身の辛い過去を闇に葬るんだ、と説得する伊達。久遠はついに、それを受け入れた。

後日、警察で取り調べを受けた広之は、自分の罪を認め、泣いて謝罪する。

その頃、久遠は、父親・荘平(螢雪次朗)が暮らす介護施設にいた。車椅子に座り介護士に世話される父親の姿を見た久遠は、近寄って声をかけるが、荘平は久遠を認識しない。久遠は、そんな父親の掌に、母親の形見のブローチを握らせると、その場を立ち去る。

そんな日の夜、来栖は捜査一課にやってきた冴子に、どうして5年前のコンビニ強盗殺人事件を追っているのか、と尋ねる。資料によると、当時、伊達と井筒がその事件を追っており、それが、夏樹殺害事件の井筒のアリバイとなっているものだからだ。来栖が事件を知っていたことに冴子が驚くと、来栖は自分も伊達と一緒に事件を追っていたのだ、と話す。そして、井筒が捜査に加わっていたことは一度もない、と驚くべき証言をする。

同じ頃、三上のバーにいた伊達は、5年前のことを思い出していた――。当時、刑事だった三上に呼び出された伊達は、井筒のアリバイ工作をした理由を聞かれていた。井筒はやっていないのに、警察全体が井筒を犯人に仕立て上げているように思ったからだ、と答える伊達に、三上は、夏樹の捜査が打ち切りになったと伝える。そして、警察内部に夏樹殺しの犯人がいるのは確かだが、上層部がそれをもみ消そうとしていること、さらに、自分も井筒が犯人だと思っていることを、打ち明けた。

伊達がそんなことを思い出し、考えを巡らせているとき、バーのドアが開いた。入ってきたのは、井筒で…。


(以上公式サイトhttp://www.fujitv.co.jp/JOKER/index.htmlより)


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フジテレビ・オン・デマンドジョーカー許されざる捜査官
一話315円、全話1575円

第六話:概要

放送日: 2010年8月18日
タイトル: 「CRIME6 子供の虐待…救えない命…」
演出: 都築淳一


<ゲスト>

吉永広之: 高杉亘


いわせ酒店の店主: 綾田俊樹

吉永文弥: 渡邊甚平


まお: 佐々木麻緒

窃盗団の一人: 松永一哉


宮城夏樹: 丸山智己


久遠健志の父親: 螢雪次朗

久遠健志(少年時代): 嘉数一星


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フジテレビ・オン・デマンドジョーカー許されざる捜査官
一話315円、全話1575円

2010年8月17日火曜日

第五話:感想

この脚本家は3話づつ区切って仕上げてるのだろうか?
第一話と第四話は力を入れて作っているのがわかる台本、第二話と第五話は練りきれてない台本、第三話は役者の力がものを言うエモーショナルな台本、と順に回っているようにみえる。
今回の第五話の脚本は第二話同様、3話ローテーションの中では最も構成が甘い回で、美人局のくだりも不要だった。
このタイプの回は視聴者離れを引き起こす可能性がある。
ジョーカーには既に固定視聴者が付いているようだが、第三話が第二話よりも下げたように、次の第六話の視聴率も第五話より若干下がるかもしれない。

第五話においては、伊達たち闇の制裁人が「どのような人間を制裁の対象にするか」という点で、これまでとは違う判断をしていることが気になった。
伊達たちはこれまでも「法の裁きを逃れた者」が制裁の対象だと話している。また今回は三上が「自分たちが裁くのは最後の最後。とことん警察が追ってそれでも駄目だったときに動く」とも述べている。
それらと同時に、伊達たちには「自分たちが与える制裁の重さが、本来受けるべき法の裁きの重さと比べても”妥当”と思われる者」というルールもあるはずだ。

伊達たちの制裁は「一生あるところに閉じ込めて社会には出さない」というもので「おまえに明日は来ない」と宣言していることからも制裁の重さが伺える。
法の裁きで与えられる量刑に例えても「仮釈放なしの無期刑」という非常に重いものだ。
伊達たちが与える制裁は現在のところ一種類しか示唆されていない。
例え相手が性悪で腹のたつ人間であっても、そもそもの法の裁きが有期刑のレベルの犯罪者を、自分たちの勝手な判断で過剰制裁に科してしまったら、伊達たちはただの義賊気取りの狂った犯罪者でしかなくなってしまう。

これまでの犯罪者が第四話を除き、立件されれば多少なりとも死刑や無期刑の可能性があったのに対し、今回の女弁護士はドラマで明らかになっている範囲では死刑や無期刑の可能性はまずない。

弁護士として、満足する報酬を払ってくれる依頼人の仕事を引き受け、依頼人の希望に沿うよう全力を尽くす。それ自体には全く問題はない。
裁判官や検察官と違って弁護士というのは依頼人の味方をするのが仕事である。依頼人の希望(無罪や減刑)を勝ちとるために働いて、それによって報酬を得る商売なのだ。それで高額の報酬を得ようと外野がとやかく批判するものではない。
多額の報酬を得る仕事をしている=悪徳ではないのだ。

では氷川が行っていたことが何にも抵触しないのか?と言われればそうでもない。
弁護士は弁護士法によって「基本的人権を擁護し、社会正義を実現することが使命である」と明確に規定されている。
本来弁護士は依頼の目的が社会正義に照らして不当であると判断される場合にはその依頼を受けてはならないのだ。
椎名が心神喪失でないことを承知の上で依頼を受けたと証明されれば、弁護士としての姿勢に反したとして、弁護士会より懲戒処分を受ける可能性はある。

また、美人局を使って幸田を嵌めたことについても、氷川の指示であることが立証出来れば、美人局の主犯格として有罪判決を受ける可能性が高い。
しかし執行猶予期間中の柿原沙世をあっさり切ったところを見ると、柿原が逆上して洗いざらい証言したとしても、共犯の立証は難しいレベルなのだろう。

フリーのルポライターに事実に反するネタを流した件についても、記事が与えた損害をネタの提供者に求めることは難しい。
自分でネットに書き込むなりしたのならともかく、この場合は何の事実確認もせず掲載した(もしくは確信犯で掲載した)編集人や発行人、ルポライターに責任がある。
幸田への自殺教唆も、この記事を出されたら奥さんが傷つきますよ、鑑定書の捏造なんて私は知りません、手は汚したくありません、だけでは自殺教唆としての立件は難しい。

ドラマ中であすかが「法を悪用して相手を陥れるってある意味完全犯罪ですよね。法じゃ裁けないってことですから」と言っているが、残念ながらあすかは根本的に間違っている。
「法を悪用する」ことと「法に触れない」ことは全く異なることなのだ。
氷川がやっていることは法律の知識を活かした「法に触れない」ことであって、法に触れないことであれば法で裁けないのは当然である。

氷川は社会正義の実現のためでなく私利私欲のために働く性質の悪い弁護士だったし、自分の利益のためなら手段を選ばない悪徳弁護士でもあった。
しかし凶悪犯罪の実行犯などではない。横浜連続殺人事件でも犯行に及んだのは椎名であって氷川は共犯ですらない。
幸田の精神鑑定捏造を暗に指示したにせよ、法廷での審理は正常に行われており、当然検察の証拠調べなどの課程も経ている。その上で氷川は無罪の判決を勝ち取っているのだ。鑑定書の捏造にも気づかず、心神喪失でないことも見破れず、控訴すらしなかった検察のほうがよほど問題である。
ちなみに実際に心神喪失で無罪判決が出るケースはまずない。精神鑑定を演技で切り抜け続けるのは不可能と言っていい。

氷川のような弁護士は弁護士の風上にも置けない人間だが、犯罪者としてはせいぜいが「有期刑+懲戒+社会からの冷たい目」くらいの犯罪者である。
盗聴テープを動画サイトにでもアップして悪事を世間に知らしめるだけで社会的信用は地に落ちる。権力からは見捨てられ、あらゆる人間から罵倒されて、屈辱に歯ぎしりをする氷川を見るだけでも充分カタルシスが得られただろう。

しかし伊達たちは氷川に従来の重い闇の制裁を与えた。そこに法の根拠はない。
椎名の判決は覆らないにせよ、幸田の遺書を公表することで氷川の悪事を陽のもとに晒すことだって出来たのに、伊達たちはそれもしていない。ただ自分の正義感をものさしにして、勝手に他人の罪の重さを決めて、私刑を行っただけだ。
もしそれを行ったのが正義に耽溺する久遠であれば納得がいく。
しかし伊達はそうではない。

たとえ自分が与える制裁の重さが法の裁きで与えられるべき刑の重さより軽くても、相手がどんなに最低な人間であっても、それでも伊達は、「闇の制裁という私刑は決して許されることではない」と言うだろう。
その上で、その許されないことをしなければならないことを、とても哀しいことだと伊達は感じている。そして、こんな哀しいことをするのは自分一人でよかったのだと思っている。

今回も伊達は最後の最後まで氷川の良心を信じようとしていた。捜査一課全員に徹夜で協力してもらって幸田を保護しようと努力していた。幸田の口から真実が語られること、それが氷川の悪事が裁かれるための本来の道筋であることを伊達は承知していた。
脚本上でそれだけの積み重ねをしていたにも関わらず、氷川を闇の制裁にかけてしまった時点で、伊達の苦悩が非常に安っぽいものになってしまった。

別に毎回制裁を行わなくても氷川を敵キャラとして生かしておく手もあった。もしくは闇の制裁ではない制裁方法をとっても良かった。
伊達が闇の制裁の何を哀しいと思っているのか。それがこのドラマの最大の肝のはずだ。
その説得力を不用意に揺るがすようなことは避けたほうがいいだろう。

ゲストに関しては鈴木砂羽、小須田康人、丸山智己がいい演技をしていた。

鈴木砂羽が演じた氷川成美弁護士は、頭がよくて、美人で、高慢ちきで、人を見下していて、金と権力が大好きだ。
法に触れるようなヘマはしないと言い放つ自信満々な熟女だが、視線をしっかり合わせて正面から斬り込んでくる伊達の前では、だんだん言わなくてもいいようなことまで話し始めてしまうのが興味深かった。

おそらく氷川は無意識のうちに伊達に惹かれ始めていたのだろう。それを予感させるのでなければ、敏腕弁護士が手の内を話し始めるのは不自然だ。
しかしその氷川の心を伊達が感じ取るくらいに判りやすく演じたら、いつもの制裁のように氷川を撃つ伊達に視聴者は違和感を感じただろう。
鋭い伊達がそれを感じ取らない程度に、もし感じ取っていたとしても制裁の邪魔にならない程度に、でも画面を通して視聴者にはそれがうっすらと滲むように演じた鈴木の演技力は大したものだ。
堺との相性もよさそうなので準レギュラーとしてもう少し残しておいてもよかったのに残念だ。

ゲストでは幸田弘道役の小須田康人も非常によかった。
自殺まで追い込まれる前に、誰かに助けを求めるチャンスも妻と一緒に頑張るチャンスもあったのに、氷川に押されるままに追い詰められてしまった幸田の性格を、小須田は少ないカットで繊細に表現していた。
真面目で、打たれ弱く、争いごとを続けるのが苦手で、優しくて、息子を亡くした後はまるで腫れ物にでも触るようにそっと大事に妻に接してきただろう背景が、小須田の演技により伝わってきた。
最も素晴らしかったのは最期の写真に写った幸田の悔いのない笑顔だ。百のセリフより一瞬の演技。写真一枚で泣かせてくれる役者も久しぶりだと感動した。

対して些か期待はずれだったのは幸田京香役の春木みさよだ。
最後の涙を流すシーンは良かったが、演技力そのものが鈴木や小須田に比べて足りない。役柄を掘り下げている様子もなく、チョイ役を演じるようにさらりと流してしまっていたのも残念だ。
良くも悪くもこのドラマは役者の演技力に左右される。脚本や演出でカバーしきれない役柄の細やかな感情や背景を、役者が役を掘り下げることで補完しているのだ。だからこそ視聴者は飽きることなく1時間を楽しむことが出来る。
たとえセリフがなくても、見切れていても、役名すらない俳優でも、映画のように丁寧に演じているところがこのドラマの最大の良さだ。
雰囲気はある女優なので次の機会に期待したい。

今回初登場の宮城夏樹役の丸山智己は、杏演じる宮城あすかと兄妹だということが無理なくわかる演技で大変面白く見れた。
あすかを夏樹が真似ているのではなく、あすかが兄夏樹に影響されて似ているのだと、ちゃんと思えるところが素晴らしい。
あすかよりも更に熱血で、身体も声もデカくて暑苦しく、裏表がなくて男気があって、優しい。あすかたち家族に心から愛されていた夏樹の姿がそこにあった。「こんな兄貴が殺されたんなら、そりゃあ悲しくてたまんないよな」と素直に思える夏樹像だった。

「ジョーカーのストーリーライン」については夏樹の登場で大きく展開した。
ナイフの刃先を上に向け、左上腹部から肋骨の下にえぐり込むような殺し方は明らかに素人の殺し方ではない。膝の後ろを蹴って体勢を崩すのも体術の基本技だ。夏樹を殺した犯人は明らかに訓練された人物である。
夏樹が犯人を「あなた」と呼んでいることからも伊達たち同僚ではなく目上の者だということがわかる。

しかし夏樹を殺したのは井筒ではないだろう。
井筒が使っていた情報屋のチンピラも夏樹と同じように左上腹部を一突きされていた。おそらく情報屋殺害も夏樹殺害も同一犯による犯行だ。
井筒がラストに言っていた「余計なことを嗅ぎ回ると消される」の言葉通り、情報屋も夏樹もそのせいで殺されたのだと思われる。井筒は夏樹に関わるなという合図を出していたが、結局は夏樹を守れなかったということだろう。そして今度は冴子が危険であることを伊達に伝えている。
椎名が神隠しに合う可能性があると冴子に聞いた後、冴子の前から消えたのも、伊達たちを守るために消えたのかもしれない。

伊達、久遠、あすかの間にも微妙な変化が現れてきている。
伊達の前ではチャラ男の仮面の下の本来の姿を見せるようになってきた久遠だが、あすかの前でも仮面の下の素顔を覗かせるようになってきている。
それは久遠に取っては良いことで、これからだんだんと他の人の前でも本当の自分が出せるようになってくるのかもしれない。

遺体安置室の前で伊達を待つ久遠とあすかは、疲れて傷付いた顔をしていた。
伊達がそこにやってきたとき、2人の表情に伊達を頼りに思う感情が現れていたが、久遠とあすかの表情は異なっていた。
あすかは信頼する上司を見つめる刑事としての顔、久遠は年の離れた兄にすがるような顔だ。
早く一人前になりたいと言っていたあすかは、一人前の刑事としての道を歩んでいる。信頼出来る人が欲しかった久遠は誰かに助けを求めるということを覚えた。
夏樹の事件やこれから起こる事件が、久遠やあすかにどんな影響を与えるのかわからないが、悩んで苦しみながらも成長していくだろう2人を楽しみにしたいと思う。


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