2010年9月14日火曜日

第九話:感想

いよいよ次回が最終回。
今回は夏樹と冴子を殺した犯人やJOKERの姿が明らかになっていく展開を、リズム良く楽しませてくれたと思う。
警察費内訳に記載されてしまう80億近い裏金といった「とんでも展開」はあったが、むしろここまで突き抜けているとリアリティの欠片もないぶんマンガ的でいい。

謎解きに尺を割いたぶん事件のストーリーラインは穴だらけだったが、直前で無理にストーリーの穴を埋めようとせず、敢えて役者のパワーに頼った点は正解だったと思う。
どの役者にも出来るものではないが、佐野史郎と梅沢昌代は見事にその穴を演技力で埋めてみせた。特に佐野史郎の安定感は素晴らしい。

視聴者にしてみれば「その点は描かれてなかったけど、きっとこの犯人だったらこういうことをしたんだよ」「きっとこのお母さんはこうだったんだよ」と想像を膨らませることでストーリーが胸にストンと落ちれば、消化不良感なく物語を楽しめるというもの。
冴子の弔い合戦としての意味しかなかった殺人事件に、あれだけの存在感を持たせることが出来たのは、佐野と梅沢のおかげだろう。

演出も役の心情をじっくり見せるところは見せていたし、アクションシーンの撮り方もよかった。
第三話や第六話のように複雑で繊細な心情をじっくり演出する回は今ひとつだったが、今回のようにガンガン話が進んでいく回では悪くない。


さて、今回ラストに久遠が刺されてしまったが、久遠を刺したのは一体誰なのかを含めて、最終回に向けて予想をしてみようと思う。

現段階では怪しいのは三上の井筒の2人に絞られたと言っていい。
夏樹・冴子・久遠を刺したのが同一犯なら犯人は三上だろう。
しかし、もしかすると三上と井筒は実は繋がっているのかもしれない。

現在、夏樹と冴子を殺した犯人を知っているのは久遠だけである。
冴子殺害現場に残されたDNAを警官DNAデータベースと照合させた結果、現場にいた捜査員以外のDNAは検出されなかった。しかし久遠はその警官DNAデータベースにからくりがあることに気づき、あすかに「お兄さんと冴子さんを殺した犯人がわかるかもしれない」と伝えている。

井筒は現場に現れているのでデータベースを細工する必要はない。井筒の言うとおり「現場検証の時に警官が毛髪や唾液を残してもおかしくない」。つまり、現場検証にはいなかった誰かのDNAが、現場検証にいた捜査官の誰かのものとして認識されてしまったのだ。
ではデータベースに細工を施して誤魔化したのはいったい誰のDNAだったのか?
おそらくは三上のものだろう。

今回、急に「警視庁」の伏線が登場したが、「警視庁」というのは「東京都」を管轄する警察本部のことで、「神奈川県警察本部」が「神奈川県」を管轄するのと同列の組織である。
細かく言えば、管区下か直下かという違いはあるが、都道府県に属する警察組織であることに変わりはない。

このドラマでは今まで明確に警視庁の人間として登場したキャラクターはいなかった。
しかしながら三上は刑事時代に「井筒とは現場でよく顔を合わせた」と話しているだけで、神奈川県警とも何とも言っていない。
ドラマで刑事時代の三上が登場したシーン追って見ると、神奈川県警察本部で伊達と会ったときに応接室を使っているのがわかる。神奈川県警本部同士や所轄の人間であれば応接室は使わない。
つまり三上刑事は神奈川県警から見たら外部の人間ということだ。

東京都に属する「警視庁」と神奈川県に属する「神奈川県警」の警察官は、国家公務員であるキャリア組を除き、採用試験からして全く別である。
井筒は最初の設定でノンキャリアの叩き上げであることが判っている。つまり地方公務員だ。
三上がキャリアであれノンキャリアであれ「警視庁」もしくは「警察庁」所属の刑事なら、ノンキャリアの地方公務員である井筒とは、たとえ同じ年齢であっても研修所などで一緒になることはほぼない。
管轄の違う組織に属している井筒と三上が、現場で顔を合わせるとしたら、広域捜査しかない。

隣り合う東京都と神奈川県では都県をまたいだ犯罪がよく発生する。
伊達の両親が横須賀で殺された事件も、それまでに犯人の灘木が繰り返していた事件が既に広域捜査の対象となっていたのだろう。
広域捜査に参加していたのであれば、三上のDNA情報も、神奈川県警の警官DNAデータベースに登録されているはずだ。

久遠は「618932」という試料と、冴子殺害現場で採取された試料「2010/08/26 618933-20 毛髪」の、DNA型鑑定と一致判定を科捜研に依頼した。
DNAデータベースのからくりによって合致すべきでないDNAが合致してしまったのだとしたら、からくりを証明するためには「合致しない」ことを期待する試料を鑑定に出したはずだ。
それを証明するように同封されていた「DNA鑑定報告書」のDNA型は一致していない。
そして鑑定書の鑑定結果には「鑑定試料のDNA型の鑑定結果は、元警視庁」(以下不明)と記載されてある。久遠はその記載を見て言葉を失った。
DNAが登録されていて、元警視庁の可能性がある、久遠がよく知る人物。おそらくそこに書いてあったのは三上の名前だったのだろう。

闇の制裁人の仲間になってから、久遠は三上のことを慕っていた。
伊達に助けてもらうまで他人と距離を置いていた久遠にとって、慕っていた三上が旧知の冴子を殺したと知れば相当なショックだろう。
久遠はすぐに伊達に連絡を取ろうとしたが、直前でそれを思いとどまっている。
伊達が恩人と慕う三上が親友と元恋人を殺したと知ったら、伊達は久遠以上のショックを受けるに違いない。久遠は誰にも言わず三上を尾行して、三上の真意を聞くつもりだったのだろう。

久遠が尾行をするために車を停めていた場所は神奈川県警の近くである。
実際には万国橋だが、県警付近をイメージしているシーンと考えていいだろう。
しかし三上のバーが県警の近くにあるという可能性も十分にある。

久遠が尾行した男がもし井筒だったら、久遠はサバイバルナイフを拾うために背を向けたりはしなかっただろう。
捜査一課長としての井筒は知っていても、それ以外の井筒の顔を久遠が知っているとは思えない。そんな相手に久遠があれほど隙を見せるとは考えられない。
おそらく久遠は、サバイバルナイフを落として気を削がれたはずの相手が、更に本気で自分を殺しにかかるとは思っていなかったのだろう。
久遠がそんな風に思う相手は、伊達か三上かあすかくらいなものだ。
その時間伊達は「闇の制裁」に出掛けているから犯人ではない。現場にいたあすかも当然違う。

演じている役者が違う可能性はあるが、久遠を刺した男は久遠より背が高い。
男が久遠に覆いかぶさるようにして刺している姿を見て、第四話や第五話で久遠に覆いかぶさるようにして脅しを掛けていた三上にダブった。体格差はちょうどあの程度だ。


夏樹・冴子・久遠を刺したのが三上だとして、なぜ井筒と三上が繋がっていると思うのか?
最も気になったのは警視庁での井筒の態度だ。

井筒はあすかと自分の会話が他の誰かに見られていることを知っていた。屋上ではその者と視線を合わせさえしている。
夏樹のCD-ROMの情報を考えれば、警視庁が敵の本丸である可能性は高い。そんなところで「警察に裏切られた」だの何だの話すこと自体が不自然だ。
加えて井筒は、今CD-ROMを持っているのがあすかであることを、その場で確認している。誰が聞いているかわからない場所で、そんなことを聞くのはおかしい。

巨額の不明金が動き始めたのは2003年4月。UNDERGROUND Vの13人のうち最も退官が早かった者の退官年月は、その1ヶ月前の2003年3月。怪しい動きはこの頃から始まっている。(余談だが警視庁に地下5階があるという話は都市伝説となっている)
神隠しが始まったのは2005年の12月頃。当時の実行犯の三上は、日向光明と吉住武徳の父親も裁いている。

そして2007年頃から三上と井筒は会話をしなくなった。
その理由は「おまえ、定年前に俺が警察辞めたこと、根に持ってんのか?」「そんなに心の狭い男じゃないよ、俺は。…ただ今更パクられたくないだけだよ」という会話に隠されているような気がする。

2007年といえば伊達が灘木を裁いて「闇の制裁人」になった年だ。
そのとき三上はまだ刑事だったから、井筒と口をきかなくなったのはその後だろう。
口をきかなくなった訳は三上が定年前に警察を辞めたことに腹を立てたからだろうか?
もしかしたら何かを探られないようにあえて距離を置いたのではないだろうか?

夏樹のCD-ROMのSheet3には「闇の制裁」の島流しの場所らしきデータが打ち込まれていた。緯度34.633208、経度139.759827。大島沖東南東約40kmの地点である。
おそらくJOKERとは法に裁かれなかった者を秘密裏に裁く組織で、その資金として巨額の裏金が動いていたのだろう。

ここからは全くの想像だ。
妻子を殺された三上は組織の「実行犯」役として2005年には既にJOKERの仲間になっており、JOKERに辿りついてしまった井筒と夏樹に警告をした。命の危険を感じた井筒はJOKERに寝返り、夏樹にも追うのを止めさせると約束するが失敗し、夏樹は三上によって殺害され、井筒も罪を着せられそうになる。
三上は「法で裁けなかった者を裁く」というJOKERの活動に賛同はしているものの、裁くことに痛みを感じないJOKERの在り方は違うと感じていた。
井筒も三上もJOKERの駒として働くが、2007年に伊達を仲間に入れたことをきっかけに三上は警察を退職して「闇の制裁」に専念。警察内に残った井筒はいい加減な中間管理職を装いながら「情報屋」として活動、三上にも裏で情報を流していた。
というストーリーはどうだろうか?いかにもありそうではないか?

井筒が「情報屋」であれば、第四話で冴子が「椎名高弘も神隠しにあう可能性があります」と言った途端にどこかに消え、そのせいで冴子は椎名の神隠しに間に合わなかったことも、井筒が「CD-ROMを持っているのは冴子」と知った直後に冴子が殺されたことも、「CD-ROMを持っているのはあすか」と知った直後にあすかが狙われたことも、警視庁で誰かが見ているのを承知の上であんな話をしたのも、すべて納得がいく。

一方三上にとっては、人を裁く痛みを知っている伊達は、理想的な「闇の制裁人」だったろう。「法から逃れた者を裁く」という活動を絶やさないためには、阻害要因である冴子やあすかを始末することも止むを得ない。仲間として評価しつつあった久遠が真実に辿りついてしまったのは、三上にとっては計算外だった。というところではないだろうか?

最終回でJOKERの全貌が明らかになり結末を迎えるには、15分延長程度では足りないだろう。おそらく続篇かSPが予定されていると思われる。
海外のドラマのように衝撃的なシーンでクリフハンガーだけは勘弁だ。

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