2010年8月17日火曜日

第五話:感想

この脚本家は3話づつ区切って仕上げてるのだろうか?
第一話と第四話は力を入れて作っているのがわかる台本、第二話と第五話は練りきれてない台本、第三話は役者の力がものを言うエモーショナルな台本、と順に回っているようにみえる。
今回の第五話の脚本は第二話同様、3話ローテーションの中では最も構成が甘い回で、美人局のくだりも不要だった。
このタイプの回は視聴者離れを引き起こす可能性がある。
ジョーカーには既に固定視聴者が付いているようだが、第三話が第二話よりも下げたように、次の第六話の視聴率も第五話より若干下がるかもしれない。

第五話においては、伊達たち闇の制裁人が「どのような人間を制裁の対象にするか」という点で、これまでとは違う判断をしていることが気になった。
伊達たちはこれまでも「法の裁きを逃れた者」が制裁の対象だと話している。また今回は三上が「自分たちが裁くのは最後の最後。とことん警察が追ってそれでも駄目だったときに動く」とも述べている。
それらと同時に、伊達たちには「自分たちが与える制裁の重さが、本来受けるべき法の裁きの重さと比べても”妥当”と思われる者」というルールもあるはずだ。

伊達たちの制裁は「一生あるところに閉じ込めて社会には出さない」というもので「おまえに明日は来ない」と宣言していることからも制裁の重さが伺える。
法の裁きで与えられる量刑に例えても「仮釈放なしの無期刑」という非常に重いものだ。
伊達たちが与える制裁は現在のところ一種類しか示唆されていない。
例え相手が性悪で腹のたつ人間であっても、そもそもの法の裁きが有期刑のレベルの犯罪者を、自分たちの勝手な判断で過剰制裁に科してしまったら、伊達たちはただの義賊気取りの狂った犯罪者でしかなくなってしまう。

これまでの犯罪者が第四話を除き、立件されれば多少なりとも死刑や無期刑の可能性があったのに対し、今回の女弁護士はドラマで明らかになっている範囲では死刑や無期刑の可能性はまずない。

弁護士として、満足する報酬を払ってくれる依頼人の仕事を引き受け、依頼人の希望に沿うよう全力を尽くす。それ自体には全く問題はない。
裁判官や検察官と違って弁護士というのは依頼人の味方をするのが仕事である。依頼人の希望(無罪や減刑)を勝ちとるために働いて、それによって報酬を得る商売なのだ。それで高額の報酬を得ようと外野がとやかく批判するものではない。
多額の報酬を得る仕事をしている=悪徳ではないのだ。

では氷川が行っていたことが何にも抵触しないのか?と言われればそうでもない。
弁護士は弁護士法によって「基本的人権を擁護し、社会正義を実現することが使命である」と明確に規定されている。
本来弁護士は依頼の目的が社会正義に照らして不当であると判断される場合にはその依頼を受けてはならないのだ。
椎名が心神喪失でないことを承知の上で依頼を受けたと証明されれば、弁護士としての姿勢に反したとして、弁護士会より懲戒処分を受ける可能性はある。

また、美人局を使って幸田を嵌めたことについても、氷川の指示であることが立証出来れば、美人局の主犯格として有罪判決を受ける可能性が高い。
しかし執行猶予期間中の柿原沙世をあっさり切ったところを見ると、柿原が逆上して洗いざらい証言したとしても、共犯の立証は難しいレベルなのだろう。

フリーのルポライターに事実に反するネタを流した件についても、記事が与えた損害をネタの提供者に求めることは難しい。
自分でネットに書き込むなりしたのならともかく、この場合は何の事実確認もせず掲載した(もしくは確信犯で掲載した)編集人や発行人、ルポライターに責任がある。
幸田への自殺教唆も、この記事を出されたら奥さんが傷つきますよ、鑑定書の捏造なんて私は知りません、手は汚したくありません、だけでは自殺教唆としての立件は難しい。

ドラマ中であすかが「法を悪用して相手を陥れるってある意味完全犯罪ですよね。法じゃ裁けないってことですから」と言っているが、残念ながらあすかは根本的に間違っている。
「法を悪用する」ことと「法に触れない」ことは全く異なることなのだ。
氷川がやっていることは法律の知識を活かした「法に触れない」ことであって、法に触れないことであれば法で裁けないのは当然である。

氷川は社会正義の実現のためでなく私利私欲のために働く性質の悪い弁護士だったし、自分の利益のためなら手段を選ばない悪徳弁護士でもあった。
しかし凶悪犯罪の実行犯などではない。横浜連続殺人事件でも犯行に及んだのは椎名であって氷川は共犯ですらない。
幸田の精神鑑定捏造を暗に指示したにせよ、法廷での審理は正常に行われており、当然検察の証拠調べなどの課程も経ている。その上で氷川は無罪の判決を勝ち取っているのだ。鑑定書の捏造にも気づかず、心神喪失でないことも見破れず、控訴すらしなかった検察のほうがよほど問題である。
ちなみに実際に心神喪失で無罪判決が出るケースはまずない。精神鑑定を演技で切り抜け続けるのは不可能と言っていい。

氷川のような弁護士は弁護士の風上にも置けない人間だが、犯罪者としてはせいぜいが「有期刑+懲戒+社会からの冷たい目」くらいの犯罪者である。
盗聴テープを動画サイトにでもアップして悪事を世間に知らしめるだけで社会的信用は地に落ちる。権力からは見捨てられ、あらゆる人間から罵倒されて、屈辱に歯ぎしりをする氷川を見るだけでも充分カタルシスが得られただろう。

しかし伊達たちは氷川に従来の重い闇の制裁を与えた。そこに法の根拠はない。
椎名の判決は覆らないにせよ、幸田の遺書を公表することで氷川の悪事を陽のもとに晒すことだって出来たのに、伊達たちはそれもしていない。ただ自分の正義感をものさしにして、勝手に他人の罪の重さを決めて、私刑を行っただけだ。
もしそれを行ったのが正義に耽溺する久遠であれば納得がいく。
しかし伊達はそうではない。

たとえ自分が与える制裁の重さが法の裁きで与えられるべき刑の重さより軽くても、相手がどんなに最低な人間であっても、それでも伊達は、「闇の制裁という私刑は決して許されることではない」と言うだろう。
その上で、その許されないことをしなければならないことを、とても哀しいことだと伊達は感じている。そして、こんな哀しいことをするのは自分一人でよかったのだと思っている。

今回も伊達は最後の最後まで氷川の良心を信じようとしていた。捜査一課全員に徹夜で協力してもらって幸田を保護しようと努力していた。幸田の口から真実が語られること、それが氷川の悪事が裁かれるための本来の道筋であることを伊達は承知していた。
脚本上でそれだけの積み重ねをしていたにも関わらず、氷川を闇の制裁にかけてしまった時点で、伊達の苦悩が非常に安っぽいものになってしまった。

別に毎回制裁を行わなくても氷川を敵キャラとして生かしておく手もあった。もしくは闇の制裁ではない制裁方法をとっても良かった。
伊達が闇の制裁の何を哀しいと思っているのか。それがこのドラマの最大の肝のはずだ。
その説得力を不用意に揺るがすようなことは避けたほうがいいだろう。

ゲストに関しては鈴木砂羽、小須田康人、丸山智己がいい演技をしていた。

鈴木砂羽が演じた氷川成美弁護士は、頭がよくて、美人で、高慢ちきで、人を見下していて、金と権力が大好きだ。
法に触れるようなヘマはしないと言い放つ自信満々な熟女だが、視線をしっかり合わせて正面から斬り込んでくる伊達の前では、だんだん言わなくてもいいようなことまで話し始めてしまうのが興味深かった。

おそらく氷川は無意識のうちに伊達に惹かれ始めていたのだろう。それを予感させるのでなければ、敏腕弁護士が手の内を話し始めるのは不自然だ。
しかしその氷川の心を伊達が感じ取るくらいに判りやすく演じたら、いつもの制裁のように氷川を撃つ伊達に視聴者は違和感を感じただろう。
鋭い伊達がそれを感じ取らない程度に、もし感じ取っていたとしても制裁の邪魔にならない程度に、でも画面を通して視聴者にはそれがうっすらと滲むように演じた鈴木の演技力は大したものだ。
堺との相性もよさそうなので準レギュラーとしてもう少し残しておいてもよかったのに残念だ。

ゲストでは幸田弘道役の小須田康人も非常によかった。
自殺まで追い込まれる前に、誰かに助けを求めるチャンスも妻と一緒に頑張るチャンスもあったのに、氷川に押されるままに追い詰められてしまった幸田の性格を、小須田は少ないカットで繊細に表現していた。
真面目で、打たれ弱く、争いごとを続けるのが苦手で、優しくて、息子を亡くした後はまるで腫れ物にでも触るようにそっと大事に妻に接してきただろう背景が、小須田の演技により伝わってきた。
最も素晴らしかったのは最期の写真に写った幸田の悔いのない笑顔だ。百のセリフより一瞬の演技。写真一枚で泣かせてくれる役者も久しぶりだと感動した。

対して些か期待はずれだったのは幸田京香役の春木みさよだ。
最後の涙を流すシーンは良かったが、演技力そのものが鈴木や小須田に比べて足りない。役柄を掘り下げている様子もなく、チョイ役を演じるようにさらりと流してしまっていたのも残念だ。
良くも悪くもこのドラマは役者の演技力に左右される。脚本や演出でカバーしきれない役柄の細やかな感情や背景を、役者が役を掘り下げることで補完しているのだ。だからこそ視聴者は飽きることなく1時間を楽しむことが出来る。
たとえセリフがなくても、見切れていても、役名すらない俳優でも、映画のように丁寧に演じているところがこのドラマの最大の良さだ。
雰囲気はある女優なので次の機会に期待したい。

今回初登場の宮城夏樹役の丸山智己は、杏演じる宮城あすかと兄妹だということが無理なくわかる演技で大変面白く見れた。
あすかを夏樹が真似ているのではなく、あすかが兄夏樹に影響されて似ているのだと、ちゃんと思えるところが素晴らしい。
あすかよりも更に熱血で、身体も声もデカくて暑苦しく、裏表がなくて男気があって、優しい。あすかたち家族に心から愛されていた夏樹の姿がそこにあった。「こんな兄貴が殺されたんなら、そりゃあ悲しくてたまんないよな」と素直に思える夏樹像だった。

「ジョーカーのストーリーライン」については夏樹の登場で大きく展開した。
ナイフの刃先を上に向け、左上腹部から肋骨の下にえぐり込むような殺し方は明らかに素人の殺し方ではない。膝の後ろを蹴って体勢を崩すのも体術の基本技だ。夏樹を殺した犯人は明らかに訓練された人物である。
夏樹が犯人を「あなた」と呼んでいることからも伊達たち同僚ではなく目上の者だということがわかる。

しかし夏樹を殺したのは井筒ではないだろう。
井筒が使っていた情報屋のチンピラも夏樹と同じように左上腹部を一突きされていた。おそらく情報屋殺害も夏樹殺害も同一犯による犯行だ。
井筒がラストに言っていた「余計なことを嗅ぎ回ると消される」の言葉通り、情報屋も夏樹もそのせいで殺されたのだと思われる。井筒は夏樹に関わるなという合図を出していたが、結局は夏樹を守れなかったということだろう。そして今度は冴子が危険であることを伊達に伝えている。
椎名が神隠しに合う可能性があると冴子に聞いた後、冴子の前から消えたのも、伊達たちを守るために消えたのかもしれない。

伊達、久遠、あすかの間にも微妙な変化が現れてきている。
伊達の前ではチャラ男の仮面の下の本来の姿を見せるようになってきた久遠だが、あすかの前でも仮面の下の素顔を覗かせるようになってきている。
それは久遠に取っては良いことで、これからだんだんと他の人の前でも本当の自分が出せるようになってくるのかもしれない。

遺体安置室の前で伊達を待つ久遠とあすかは、疲れて傷付いた顔をしていた。
伊達がそこにやってきたとき、2人の表情に伊達を頼りに思う感情が現れていたが、久遠とあすかの表情は異なっていた。
あすかは信頼する上司を見つめる刑事としての顔、久遠は年の離れた兄にすがるような顔だ。
早く一人前になりたいと言っていたあすかは、一人前の刑事としての道を歩んでいる。信頼出来る人が欲しかった久遠は誰かに助けを求めるということを覚えた。
夏樹の事件やこれから起こる事件が、久遠やあすかにどんな影響を与えるのかわからないが、悩んで苦しみながらも成長していくだろう2人を楽しみにしたいと思う。


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