2010年8月31日火曜日

第七話:感想

いつもとは違った展開だったが、テンポもよく悪くない出来だったと思う。

ゲストの忍成修吾の快楽殺人者としての狂気、尾野真千子の愚かにすら映る遺族の怒り、飯田基祐の二重人格ぶり、どれをとっても迫力・空気感とも素晴らしかった。
山中崇、水野智則も、忍成・尾野・飯田らに比べると「演技をしてる感」があったが、全体のバランスとしては悪くなかった。遠藤要もああいう役をやらせると本当に上手い。

りょうも「私そんなに強くないんだけどな」というセリフのあと、伊達に背中を向けて歩き出すときの表情が実に素晴らしく、冴子という女性と伊達との関係を見事に表現していた。りょうの本領発揮だ。
演出も役者の演技をしっかり見せてくれる上に、それをクドくなく活かすリズムとグルーヴ感があって、このドラマによく合っていた。

脚本は前回同様にやや帳尻合わせな説明セリフが目についた。
これまでの久遠を考えると「法の裁きに関係なく人を殺すなんて許せねえ」と憤るのはあまりにも唐突で無理があるし、久遠部屋で語ったあすかの思いも長セリフで一挙に片付けてしまうのは見せ方として稚拙だ。久遠の「俺はあんたに救われた」も座りの悪いセリフだった。

これは脚本のト書きではなく演出のせいかもしれないが、闇の制裁のシーンでの伊達が余裕がなさすぎるのにも違和感があった。
日向の言葉も美代子の言葉も伊達にとっては迫るものがある言葉だろうが、闇の制裁人という仕事をしてきた中で、考えて来なかった言葉という訳ではないだろう。むしろ幾度となく自分に問いかけ続けてきた言葉なのではないだろうか。
今回、それでいきなり伊達から余裕が奪われてしまうには、きっかけが弱すぎる。
であれば、これまで堺がポーカーフェイスの下の伊達の感情を丁寧に演じてきたように、今回もあくまでポーカーフェイスの下で大きく揺れる感情を演じさせたほうが伊達らしくて良かっただろう。

そうでなければ、前回の久遠の件が伊達の心に変化をもたらせたとして、久遠と伊達のシーンを追加し、伊達の感情を描くという手もあった。
伊達は、文弥を殺された怒りで我を失っている久遠に、「憶測で人を裁けばそれはただの犯罪者だ。君が憎んできた奴らと何も変わらない」「法で裁ける人間は法で償わせるんだ。俺達がやってるのは復讐じゃない」と窘めた。
しかし伊達自身は自分がしていることに迷いはなかったのだろうか?

偉そうに久遠に言ったものの自分はどうだ?犯罪者と同じじゃないのか?復讐じゃないと言ったが、じゃあ復讐とどこが違うんだ?と、伊達は内心自問自答していたとする。
一方その隣では、久遠が伊達の言葉をまっすぐ受け止めて、俺達がしてることは犯罪者とは違うんだ、文弥の父親を殺したいと思った俺は間違ってたんだ、と少しづつ自分の中で消化し始めている。
伊達は闇の仕事で久遠が何かを見失ってしまわないよう見守ろうとしている。なのにその自分が迷っている…。そのことがきっかけとなって、日向や美代子の言葉に大きく揺れてしまった、というのであれば話はわかりやすかった。


伊達のしていることと、日向のしていることだが、基本的には変わらない。

伊達は第三話で久遠に「法で裁けない者を裁く。もちろん決して許されることじゃない」と言っている。また日向は今回「立件出来ない容疑者を始末する。間違いなく犯罪者です」と言っている。
もちろんその通りである。

真面目に解説すると、日本は多くの欧米諸国同様に「自由民主主義国家」な訳で、ざっくり言ってしまうと、日本国民は「公共の福祉に反していない限り、どう生きるかという個人の自由は最大限尊重される」ということと、「国民全てが等しく主権者であり、国の政治は国民が行う」ということが憲法によって保障されている。

で、日本ではこの「自由民主主義国家」であることを根拠に、「罪刑法定主義」という形をとっている。
「罪刑法定主義」というのは、「”刑法上”何が犯罪」で「どんなときにどんな刑罰が科せられるのか」については、あらかじめ法律で定めておかなければならない、という考え方だ。

何が犯罪でどんなときにどんな刑罰を受けるのかを、誰かが好き勝手に決めてたら、とてもじゃないけど自由になんて生きられない。
日本の主権者は国民なんだから、国民の代表機関である国会を通じてちゃんと法律にしときましょうや、ということである。

現代日本では、その法律に則って「無罪」か「有罪」か「有罪ならどのような罪でどれくらいの刑罰か」を判断出来る(裁判権を持つ)のは、「国家」のみだ。話題の裁判員制度も「国家の裁判権の行使」に参加する制度とされている。

裁判で決まった刑罰を科すことが出来る(刑罰権を持つ)のも「国家」のみ。
国家によって刑罰権の行使を委ねられた刑務官など以外は、例え遺族であっても刑罰の執行は認められていない。

武士階級の仇討ち法があった江戸時代と違って、現代の刑罰は「復讐」ではない。
他人の「法益」(生命、身体、自由、名誉、財産、平穏、など)を奪った罪に対して、その罪の重さに応じた「法益」を、「償い」として「国家」が奪うことが刑罰であり、刑罰には「再犯予防」や「犯罪の抑止」という目的もある。

当然のことながら、伊達や日向のように裁判権も刑罰権もない人間が、何人もの人間を自分勝手に制裁するなんてのは、とんでもない重罪にあたる。
殺していようが殺さずに死ぬまで監禁だろうが、法を無視して残酷な私刑を繰り返していることに何ら変わりはない。もはやそれは「刑罰」でも「復讐」ですらない。
そのことを理解しているからこそ、伊達は日向の煽りに理路整然と言い返すことが出来なかった。

闇の制裁人という許されざる行為をしている伊達だが、しかし彼は真っ当な感覚を失ってはいない。

「たとえ法で裁けなくても真実を明らかにすることが俺達の仕事」と教えてくれた井筒に憧れ、刑事としての己の感覚を信じて粘り強く捜査を続け、凶悪犯人に対してもその中に残っているかもしれない良心に期待して自首を望む。
必死で助けを求める久遠を救ってやりたい一心で仲間にしたものの、こんな許されざる行為に久遠を巻き込んでしまったことに後悔もしている。

むしろ感覚が狂っているのは三上だ。

妻と10歳の息子を殺された三上は、両親を殺され犯人を刺してしまった10歳の伊達に、亡き息子への愛情のはけ口を見つけた。
状況から考えても幼い伊達に重い罰が科せられる可能性は殆どなかった。きちんと罪を明らかにして判決を受ければ、伊達も人を刺してしまったという罪の意識を自分なりに消化することも出来ただろう。
しかし三上は、どのような手を使ったのか、伊達の罪自体をないものにしてしまった。

伊達は両親を殺した灘木を「憎しみ」から「殺すつもりで」刺した。
結果的に灘木は一命を取り留めたが、確かに伊達は灘木に強い殺意を抱いていたのである。両親を助けたい一心で正当防衛として灘木を刺したのではない。
灘木の言った「正義なんて通用しない。悪を倒したかったら悪になるしかない」という呪詛の言葉通りに、伊達は灘木を殺そうとしたのだ。

伊達がもう少し愚かで、自分が灘木を刺した意味に気づかなければ、伊達は三上が望んだように自分の罪を忘れてしまうことが出来たかもしれない。
しかし「自分は普通じゃない」と苦しんでしまう伊達にとっては、きちんと罰を受けることこそが救いであった筈だ。
そんな伊達が、心に深い葛藤を抱えたまま、少しでも前を向いて生きようと決めたのは、たとえ間違っていても自分への愛情を惜しまない三上のためだったのではないだろうか。

伊達が三上に心から感謝をしていることに疑う余地はない。
本心を隠した表情の下には、冷静に三上を見ている目も、三上を実の父親のように深く愛する気持ちもあるだろう。そして恐らく後者のほうが強い。
闇の制裁人になった経緯に三上がどのように関わっているかはわからない。
しかし三上がそれを正義と信じ真剣に伊達の助けを必要としていたら、それが必ずしも正義であると割り切れなくても、それが三上の中に巣食う悲しみに由来するものなら、伊達は三上のそばで三上が暴走しないように見守る道を選ぶだろう。

一方で伊達は久遠に対しては、過去の痛みを正しく乗り越えて欲しいと思っている。
理解して手を差し伸べてくれる大人が必要なら、伊達は久遠のそばで望むだけその役を負ってくれるだろう。家族の愛情を知らない久遠のためなら父にも兄にもなるだろう。
しかし伊達は自分の間違った愛情で久遠の成長を歪めたりはしない。
久遠の進む道を良かれという思いで勝手に決めることはない。辛くても苦しくても自分自身で正しい答えを掴んで欲しいと思っている。

第六話で久遠が文弥に自分を投影して冷静さを失っていたとき、伊達は久遠に冷静で客観的な目を取り戻すよう導いていた。その一方で文弥を助けたい久遠の気持ちを汲んで、文弥と久遠が救われるために単独で捜査にも当たった。
久遠の苦しみの深さを知る伊達にとって、文弥を殺された久遠の慟哭には心を揺さぶられただろう。久遠の無念をどうにかして果たしてやりたい気持ちだってあったに違いない。

しかし伊達は、かつて三上が自分の罪を揉み消してしまったような間違った愛情を、久遠に押し付けたりはしなかった。
久遠の心が怒りに雁字搦めにならないよう第三者の視点と正論を与えながら、久遠が自分の手で自分自身の答えを掴みとることを見守る道を選んだ。
そして出来れば憎しみや悲しみからでなく、暖かい思い出を支えに前を向いて欲しいと願っていた。
伊達は自分の感情に流されることなく大人として責任を持って久遠を導こうとしている。
それは三上が伊達にかけた愛情とはある意味対照的なものかもしれない。

伊達は三上の「おまえは悪くない。おまえが刺してなければ灘木は逃げ延びて誰かを殺してた。おまえは正義のために戦っただけだ」「俺達は楽しんでやってるワケじゃねえ、むしろ逆だ。それでもやっているのは…遺族の明日を祈ってるからだ」という言葉に何を感じただろう?
灘木は確かに人間のクズだったが、将来また人を殺すに決まってるから今殺したって正義という理屈は成り立たない。どんなに遺族の明日を願っていようが、辛い思いを感じているから許されて、快楽を感じているから許されない、というような話でもない。

伊達は三上よりもはるかにありのままを理解していた。だからこそ伊達は限界だったのかもしれない。闇の制裁を辛く感じていることを一目で久遠に見抜かれてしまうほど、伊達は疲れ切っていた。
「俺は伊達さんに救われた」という久遠の不器用な励ましが、今度は伊達を救うのだろうか。それとも自ら乗り越えていくのだろうか。第八話以降に期待だ。


さて、そろそろ佳境に入ってきた夏樹殺しの犯人探しとジョーカーの黒幕だが、ここで予想を立ててみようと思う。

まず、冴子が疑っているように、神隠しには警察内部が関わっている。
それが「当たり」であることは井筒が冴子を遠ざけようとする態度でも明らかだ。
そしてその警察内部の権力は、凶悪犯を無期禁錮刑に処せるだけの資金を持ち、首を突っ込んでくる人間を殺してしまうほどの凶暴性を持っている。

夏樹を殺したのも三上の言うように警察内部の犯行だろう。
伊達が違和感を感じるほど、警察中で井筒を犯人に仕立て上げようとする動きがあったなら、井筒は夏樹殺しの犯人ではなく、犯人に疎まれている人間と考えるのが自然だ。

おそらく井筒はその警察内部の秘密を知ってしまった人間だろう。
上手く牙を隠すことで自分は危険から逃れられたが、同じく何かを知ってしまった夏樹を守ることは出来なかった。
夏樹の携帯電話を持ち去ったのも、他の誰かが不用意に首を突っ込んで消されてしまうことがないように、それに関わる情報を削除したのだとも想像できる。

今回井筒は冴子に「夏樹を殺したのは俺だ」と告白したが、それも、そうでも言わなければ冴子が更に深入りしていくことは目に見えていたからだろう。それは冴子に命の危険が及ぶことに繋がる。
伊達への忠告も功を奏しなかった以上、冴子を守りたければ、井筒は「自分がやった」と言う以外にはなかっただろう。

一方、三上は伊達同様に「神隠しの実行犯の一人」として警察内部権力に繋がっている人間だ。

伊達が黒幕である警察内部権力についてどの程度把握しているのかはわからないが、もしこの警察内部組織が夏樹を殺した警察内部の人間と同一であるのなら、伊達は夏樹を殺した犯人の仲間ということになる。
井筒は、文弥の事件の際に久遠を泳がせたことで、現在、三上・伊達・久遠の3人が神隠しの実行犯であることを掴んだだろう。
自分のアリバイ資料を署で渡さずに、わざわざ「バーMikami」にまで持ってきたのは、三上に対する何らかの牽制と思われる。

今のところ黒幕である警察内部権力側のキャラクターは登場していない。
伏線として上っているのは、井筒が第一話で「殺してやりたい人間」として挙げた「刑事部長」くらいなのものだ。
おそらくはこの刑事部長が新キャラクターとしてこれから登場してくるのだろう。
10歳の伊達の罪をもみ消すために三上に協力したのも、もしかするとこの刑事部長かもしれない。

夏樹殺しと神隠し。この過去軸に関係するのは、井筒、あすか、冴子、三上、伊達。
ドラマのキーパーソンの一人である久遠の過去にはこれら2つとの接点がない。
4歳から虐待を受け続け、10歳で捨てられ、以降の生い立ちは不明な久遠が、夏樹殺害や神隠し発生の過去と何らか繋がっていくのか、それにも興味がある。

もし刑事部長が登場するとしたら、久遠と関係があるかもしれない。
久遠の父が息子の年齢の割には年齢を取っていることから、本当の父親ではないという可能性もある。背中の火傷はタバコの火によるものだけがあの父親が行ったもので、大きな火傷痕はもっと子供の頃に火事か何かで負ったものである可能性もある。
エンディングの久遠の背中に被る「一家惨殺」の新聞記事は、もしかすると刑事部長の家族の話で、赤ん坊だった久遠は幸い生き残り、証拠隠滅のための放火によって火傷は負ったものの、密かに助けられて久遠家で育てられていたという展開もあるかもしれない。

ドラマもいよいよ残すところ数回、息切れせず最後まで突っ走って、我々視聴者を楽しませて欲しい。


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フジテレビ・オン・デマンドジョーカー許されざる捜査官
一話315円、全話1575円

2010年8月27日金曜日

第七話:伏線?セリフ集

(Bar Mikamiにて)

井筒「5年前、宮城夏樹が殺害されたとき、俺は容疑者の一人だった。アリバイがなかったからな。でもそれをおまえは偽装してくれた。でもあれは俺をかばうためじゃなかったんだよな。…俺を泳がせるためだったんだよ。なあ?」

(三上、驚いた表情で伊達を見る)

井筒「当時俺が何を追っていたのか、それに夏樹がどう関わっていたのか、俺がパクられたら判らねえもんなあ?」

(三上、不満気。井筒、伊達に一枚の紙を渡す)

伊達「何ですか?」

井筒「俺のアリバイの詳細。5年前のコンビニ強盗殺人事件、俺とお前がいつどこを捜査したか詳しく記しといた。片桐に渡しといて」

三上「そんな捏造、許される訳ねえだろ」

井筒「バーのマスターに言われる筋合いのことじゃねえよ」

三上「おまえ、定年前に俺が警察辞めたこと、根に持ってんのか?」

井筒「そんなに心の狭い男じゃないよ、俺は。…ただ今更パクられたくないだけだよ」

三上「アリバイが崩れたら一巻の終わりじゃねえか」

井筒「ふふん、3年ぶりに話せてよかったよ。ごちそうさん」

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(久遠部屋。神隠し模倣犯によって殺害された詐欺師の記事を前に)

久遠「どういうことだよ!俺たちと同じことをやってる連中が他にもいるなんてよ!」

伊達「オレオレ詐欺の怨恨の線もありえる」

久遠「遺体には”悪人に制裁を”ってメッセージが貼ってあったんでしょ?普通に考えて模倣犯の可能性のほうが高いっしょ」

伊達「神隠しは警察の中だけで噂されてることだ。世間には広まっていない。つまり、もし模倣犯だとすれば、それは警察関係者の犯行ってことになる。とにかく様子を見るしかない」

久遠「そんなこと言ってる場合かよ。こんかいのオレオレ詐欺の容疑者だってもう少しでパクれたんでしょ?…法の裁きに関係なく人を殺すなんて許せねえ。とにかくこの模倣犯を早く捕まえないと俺達にまで害が及ぶ。もし正体がバレたら…」

(あすかがノックもしないで駆けこんでくる。何事もないふうを装う伊達と久遠)

あすか「伊達さん。事件です」

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(あすかが運転する車から降り、吐きそうになっている伊達)

久遠「ほら、行くよ」

あすか「またですかぁ?」

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(来栖・堀田・轟・溝口・武本、根津健太の遺体を前に現場検証中)

久遠「(堀田をどけて)死因は?」

溝口「死因はじゃねえよ、今頃来やがって!」

(久遠、肩を竦めて愛想笑い)

堀田「(久遠の腕を引っ張って)ふふ、じゃねえよ」

(久遠と堀田、睨み合う)

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(捜査一課前の廊下に冴子が立っている)

冴子「よっ!」

伊達「おぅ!…じゃないよ。こんなに自由に署内を行き来できるルポライターは君ぐらいのもんだよ」

冴子「そぉんな褒めないでよ」

(伊達、冴子の行く手を阻むようにロッカーに手を付く)

伊達「…褒めてないよ。元警官の特権を利用しすぎ。わるいけど…」

冴子「夏樹の事件!…嘘ついたでしょ。来栖だっけ?あなたの部下。彼の話じゃ井筒課長にアリバイはなかったって。…どういうこと?」

伊達「そうだ、そうだ、そういえば」

(伊達、カバンをひらいて井筒から渡された報告書を取り出す)

伊達「これ、井筒課長から」

冴子「当時の捜査資料か。…随分用意がいいねえ」

伊達「暑っつい、暑っつい(部屋に入っていく)」

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(伊達と日向、根津美代子の自宅で聞き込み)

日向「義弟さんの犯行だとしても許せませんか?」

美代子「……はい」

日向「殺してやりたいですか?」

伊達「(咎めるように)日向くん」

美代子「…殺したいですよ。あの人を失った悲しみは、それぐらい深いんです」

(美代子の自宅を出て)

伊達「どうしてあんなことを言ったのかな。警察官としてあまり誉められた言動じゃない」

日向「ならあなたは許せますか?大切な人が殺されたら。神隠しって御存知ですか?立件出来ない容疑者を始末する。間違いなく犯罪者です。でも被害者からしたら救世主だ」

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(マーベスト・コーポレーション。ガラスパーティションの会議室にあすかと吉住)

あすか「大丈夫かなあ、伊達さん」

吉住「伊達警部って日向と組んでる方ですよね」

あすか「え、はい」

吉住「日向は相当な切れ者ですよ。まあ協調性ゼロなんで周囲には嫌われてますけどね」

あすか「似てます!頭は切れるけど周りのこと全然考えてないっていうか」

吉住「そうそうそうそう!」

あすか「ホントに手がかかるんですよねー」

(あすか、視線を移すと、コピー機で自分の顔をとっている伊達の姿が。思わず飲んでいたアイスコーヒーを吹いてしまう)

あすか「伊達さん、何やってんですかっ。伊達さんは被害者周辺のカンドリでしょ、関取りっ!」

***********************************************************

伊達「なあんか引っかかるんだよなあ」

あすか「またですか」

伊達「毎晩電話で話してたんだよ?どうしてFAX送らなきゃいけないんだ」

あすか「そりゃ実際に怪文書を見せて精神的に追い込みたかったんじゃないですか?」

伊達「そうかもしれない、でも」

伊達・あすか「そうじゃないかもしれない」

あすか「まだ疑問があるなら、ドウゾ」

伊達「お金が目的だったのに抜き取られたのは現金のみでカード類は無事だった」

あすか「動揺してたんじゃないですか?…まあそうじゃないのかもしれませんけど」

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日向「どうして任意で引っ張んなかったんです?自首をするための猶予を与えたんですか?」

伊達「………」

日向「ぬるいですね」

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冴子「珍しいですね。課長から会おうなんて」

井筒「5年前のコンビニ強盗殺人事件の資料。伊達からもらった?」

冴子「ええ。でもここに書かれた聞き込み先の漫画喫茶、5年前にはまだオープンしてませんよ」

井筒「…あ、そお」

冴子「いい加減教えてくださいよ。本当のことを」

井筒「……。夏樹の事件から手を引け」

冴子「………」

井筒「おまえも俺の可愛い部下だった。まあ口は悪かったけどね。これ以上追えば身の安全の保証は出来なくなるぞ」

冴子「どういう事ですか!夏樹の事件には何が隠されているんですか…。課長!」

井筒「…あいつは、俺が殺した」

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(江原の遺体を前に)

日向「手間が省けましたね」

久遠「おい!」

(伊達が久遠を制し、日向のそばに歩いていく)

伊達「彼は捕まえられた」

日向「でも江原には前科がありません。捕まえたとしても極刑にはならなかったでしょう。そのことを考えるとこっちのほうが遺族も喜ぶ…」

伊達「そういう問題じゃない」

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(久遠部屋)

あすか「やっぱり神隠しなんでしょうか?」

久遠「違うんじゃん?」

あすか「でもやってることは一緒ですよね」

久遠「いや、だから…」

あすか「もし、私の兄を殺した犯人がこのまま捕まえられなかったら、って考えることが時々あります。私の大事な家族の命を奪っておいて今もどこかでのうのうと生きてる…考えただけで気がおかしくなりそうです。正直、同じ目に合わせたいとも思います。でも、もし本当に殺されたとしたら…私は手放しで喜べないと思います。きっと後ろめたさや罪悪感で一杯になる」

久遠「…殺してなかったとしたら?」

あすか「…え?」

(あすかの携帯が鳴る。掛けてきたのは冴子。退室するあすか)

久遠「…ごめん」

伊達「江原さんを殺した犯人だけれども」

久遠「日向でしょ?俺達以外に江原が真犯人だって知ってるのはあいつしかいない。模倣犯は日向だ」

伊達「だけど彼にはアリバイがある。昨日の午後8時と午後10時、根津さんのマンションのエントランスに日向の姿が写ってた。奥さんの証言も取れてる」

久遠「夜8時から10時まで根津さんちにいたってわけか」

伊達「犯行時刻は午後8時40分」

久遠「でも非常口から出入りすれば犯行は可能だよ?」

伊達「そうなると奥さんの証言が嘘ということになる」

久遠「彼女もグルって可能性は?」

伊達「何ともいえない。これからそれを聞きに行く」

久遠「…ねえ。もし日向のアリバイが崩れたらどうすんの?」

伊達「…もちろん法で裁く。それが俺達のやりかただ」

***********************************************************

冴子「井筒課長がもう事件を追うなって」

(あすか、冴子を見つめる)

冴子「でもここで引くわけにはいかない」

あすか「冴子さん…」

冴子「夏樹の事件の背後にはそれだけ大きな秘密が隠されてるってこと。神隠しに繋がるなにかが」

あすか「兄はその秘密を知ったから殺されたんですか?」

冴子「そうかもしれない。確か夏樹の捜査資料が一ページなかったって言ったよね?」

あすか「はい…そこになにか書いてあるかも…。井筒課長が持ってるってことは?」

冴子「可能性はある」

あすか「じゃ私探してみます」

冴子「ん」

あすか「あの…これって伊達さんには内緒の方がいいんですよね?」

冴子「そうだね。夏樹の事件に関わっている人間にはバラさないほうがいいと思う」

あすか「彩子さんは伊達さん疑ってるんですか?」

冴子「まさか。…と言いたいところだけど井筒課長のアリバイ作りに関与してたことを考えるとね」

(あすか、辛そうな冴子を見て)

あすか「彩子さん、まだ伊達さんのこと好きなんですか?」

冴子「ふっ、そんなわけないでしょ…」

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<4年前>

(コートを着て捜査一課から出てくる冴子。廊下で待っていた伊達)

伊達「よぅ…」

冴子「おぅ…」

伊達「辞表を提出したって本当?」

冴子「…うん。夏樹の事件を揉み消しちゃうような現実を知っちゃうとね。人を信じられなくなるの嫌だから」

(冴子、歩き出し、立ち止まる)

冴子「ね…引き止めてくんないんだね(カラ元気で振り返る)」

伊達「僕は君に振られたんだよ。そんな資格はないよ」

冴子「(少し寂しそうに)やっぱりカズは女心がわかってない。…私、そんなに強くないんだけどなぁ」

(冴子、無理に笑顔を浮かべて立ち去る)

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(江原が殺された夜、血まみれで美代子の家に押し入る日向)

日向「あなたが言ったんですよ。殺してやりたいって。だからあなたの代わりに殺してあげたんです」

(恐怖のあまりしゃがみ込む美代子)

日向「(笑いながら)あいつ泣きながら言ってましたよ。死ぬとは思わなかったって。調子いいよね」

(日向、だんだん興奮しはじめる)

日向「ムカついて弾丸なくなるまで撃ちこんでやりましたよ。死んでも何発も!何発も!」

(美代子、恐怖で声が出ない)

日向「奥さん、恨みは晴らしましたから僕のこと助けてくれますよね。心配しなくていいですよ。僕の言うことを聞いていれば絶対に捕まらない。…殺して欲しかったんでしょう?」

(美代子、怯えながら頷く)

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(美代子の家。日向は8時頃から10時頃まで日向はここにいたと言い張る美代子)

伊達「もしあなたが日向のアリバイ工作に加担しているならあなたも罪に問われるんです」

美代子「違うって言ってるじゃないですか!私と日向さんはここで2時間話をした、それでいいじゃないですか!どうして私を苦しめるんですか?私は何も知りません。お帰りください。お願いです、帰ってください!」

伊達「今朝、江原さんがご主人を殺害した証拠が手に入りました。江原さんは法で裁けたんです」

美代子「だから何だって言うんですか?あの人が帰ってこないことに変わりはありません。あの人は子供を欲しがってました。結婚する前からずっと。ずっと」

(美代子の脳裏に子供が出来たことを喜ぶ夫の姿が蘇る)

美代子「あの人はもうお腹の子の顔を見ることはありません。あんなに生まれてくることを楽しみにしてたのに、もう見れないんですよ?」

(美代子の目から涙が止めどなく流れ落ちる)

美代子「さっきのあなたの推測が真実なら、私は悪いことをしています。でも心のどこかで清々している自分がいるのも事実です。…私は何も知りません。お帰りください」

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(Bar Mikaki、日向の言葉や美代子の言葉を思い出している伊達)

三上「おまえさあ。まさか模倣犯と自分が同じだなんて考えてんじゃねえだろうな」

(視線をそらす伊達)

三上「俺達は楽しんでやってるワケじゃねえ、むしろ逆だ。それでもやっているのは…遺族の明日を祈ってるからだ」

伊達「…ごちそうさま」

(バーを出ると久遠が待っている。いつもの店でラーメンを食べる2人)

久遠「伊達さん」

伊達「ん?」

久遠「俺はあんたに救われた。…ごめん、こんな言葉しか思いつかない」

伊達「(ラーメンを差して)のびちゃうよ」

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(青葉の第九倉庫に江原の共犯を名乗る男を保護を求めて身を潜めているので保護するよう伊達に伝えてくれ、と久遠から言われた日向。一人倉庫に向う)

江原の共犯者を名乗る者「自首する!早く署に連れてってくれ!」

日向「おまえも根津健太の殺人に関与しているのか?」

江原の共犯者を名乗る者「殺したのは江原だ!俺はFAXを送ったり脅しただけだ!詳しい話は警察で話す!だからっ!」

日向「甘いんだよ」

(江原の共犯者を名乗る者のシルエットに向かって弾が切れるまで撃つ)

***********************************************************

伊達「おまえは人が撃てればそれでいいんだな!」

(伊達、日向に銃口を向けている)

日向「ハメられたって訳だ」

伊達「”悪人に制裁を”。容疑者を撃ってあのメッセージを残したのはおまえだな」

(ボイスチェンジャーを通した久遠の声が聞こえる)

久遠「模倣犯のくせに出しゃばった真似しやがって。おまえみたいなやつと一緒にされてると思うとヘドが出るよ」

日向「(伊達に向かって)あなたが…神隠しの正体?(少し嬉しそうに)なんだよ、仲間じゃないか」

(伊達、相変わらず無表情だがいつもの余裕は感じられない)

日向「僕とあなたは同じだ」

伊達「違う」

日向「違わないよ。遺族を助けるために法を無視して人を裁く…」

伊達「だまれ」

日向「そんな権利はないのに正義のように人を殺す」

伊達「おまえと一緒にするな!!」

(余裕なく声を荒げる伊達、不審に思う久遠)

日向「何をムキになってんだよ。別に悪いなんて言ってないじゃないか。クソみたいな悪人がいなくなって遺族が救われるんだよ」

(日向、銃口の先にまで歩み寄る)

日向「俺達は救世主だ」

伊達「違う。おまえはただ人を殺したいだけだ。おまえがやっているのはただのエゴだ」

日向「だったら!…あんたがやってることは正義なのかよ?」

(伊達の表情から余裕が消える)

日向「エゴじゃないって言い切れるか?(伊達の背後をちらりと見て)…答えが聞けなくて残念だよ」

(伊達の背後から黒装束の男が現れ、伊達を殴り倒す。倒れこむ伊達。拳銃に手を伸ばすが、男によって届かないところへ蹴り出される)

日向「遅かったね…兄さん」

(男、仮面を取る。現れたのは日向と同じ港北西署の吉住)

吉住「弟を傷つける奴は許さない」

(日向、吉住から拳銃を受け取り、銃口を伊達に向ける)

日向「救世主は一人でいい」

(久遠も頭を殴られて意識を失っている)

(銃声が響く。血しぶきが上がる)

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(誰もいない捜査一課。夏樹の捜査資料の失われた1ページを探して井筒の机を漁るあすか。ペン立てを倒した拍子に何かの鍵を見つける。手提げ金庫の鍵。開けてみるとハンコなどと一緒に一枚の紙が。開いてみると探していた捜査資料の1ページだった)

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フジテレビ・オン・デマンドジョーカー許されざる捜査官
一話315円、全話1575円

2010年8月25日水曜日

第七話:あらすじ

ある男が殺害され、遺体の上に「悪人に制裁を」と書かれたカードが残されていた。伊達一義(堺雅人)、久遠健志(錦戸亮)は、自分たちが行っている制裁行為を真似た模倣犯かもしれない、と思う。が、だとすると、制裁行為は一般に報道されていないため、警察の人間の犯行ということになる。

そんな折、根津健太(山中崇)という男性の遺体が発見された。根津は、後頭部を強打され死亡したが、現金が奪われていたため、宮城あすか(杏)は、通り魔の可能性を示唆する。一方の伊達は、根津のズボンのポケットの裏地が出ていることが気になる――と、同じタイミングで、ポケットから何かが抜き取られた形跡があると指摘する者がいた。伊達とコンビを組むことになった港北西署刑事課の日向光明(忍成修吾)だった。

翌日、伊達は日向と根津の妻・美代子(尾野真千子)から事情を聞く。美代子は、根津には仕事以外に悩みはなかったと証言。しかし、日向が食い下がると、根津の弟・忠士(遠藤要)が頻繁に金の無心をしてきていたことに頭を悩ませていたと明かす。そんな美代子に日向は、忠士が犯人なら殺してやりたいか、と尋ねる。警察官としてあるまじき質問に、伊達は日向をとがめるが、美代子は「殺してやりたい」と答える。

同じ頃、あすかは日向の同僚の刑事・吉住武徳(飯田基祐)と、健太の上司・江原(水野智則)を訪ねる。江原は、数日前、健太の留守に忠士が鉄パイプを持って会社に現れ、騒動になっていたことを明かす。

そんな折、根津の殺害現場付近で鉄パイプが見つかり、忠士が取り調べられることに。鉄パイプに忠士の指紋があったことが証拠となり、来栖淳之介(平山浩行)らは忠士を自白させようとするが、伊達は忠士の犯行ではないと言う。忠士には4日前に手のひらに負った大きな切り傷があったのだ。健太が殺害されたのは2日前だから、忠士が犯人ならば、鉄パイプの指紋にも傷跡があるはずだ。つまり、鉄パイプの指紋は、健太の殺害前、会社に乗り込んだときについたものだろう、と伊達は推測したのだ。

翌日、伊達は日向とともに江原を訪ね、健太を殺したのは江原だろうと切り出す。健太のパソコン内に、江原が行っていた不正を暴こうとしていたメールがあったのだ。健太は証拠のデータをUSBメモリに入れ携帯していたため、それを奪おうとした江原に殺されたのだろうと伊達は言う。さらに、健太の爪の間に、犯人のものと思われる皮膚が残っていたこと、現在、江原のDNAとの照合を行っていることを明かすと、また来ると言って席を立った。江原に自首する猶予を与えた伊達を、日向は「ぬるい」と揶揄する。

そんな頃、井筒将明(鹿賀丈史)は、片桐冴子(りょう)を呼びだすと、5年前に起こった宮城夏樹(丸山智己)殺害事件から手を引くように言う。これ以上追うと、冴子の身に危険が及ぶと警告する井筒に食い下がる冴子。すると井筒は、夏樹は自分が殺した、と衝撃の告白をした。

その日の夜、とある駐車場で、江原が銃殺され、遺体の上に「悪人に制裁を」と書かれたカードが残された。実は、犯行に及んでいたのは、日向だったのだ。現場に駆け付けた来栖らは、"神隠し"か、と気色ばむが、伊達と久遠は日向の仕業だと感づいていた。しかし、日向にはアリバイがあった。江原が殺害された時刻、日向は健太宅で美代子と話していたと言い、防犯カメラの映像と美代子の証言もそれを裏付けた。それでも久遠は、非常口から出入りすれば犯行に及べるし、美代子がグルである可能性も否定できない、と推測。伊達は、美代子に話を聞きに行く。

伊達の訪問を受けた美代子は、日向のアリバイを裏付ける証言を繰り返すだけだった。アリバイ工作に加担すれば、美代子自身も罪に問われるのだ、と言う伊達に、美代子は涙ながらに自分の証言を認めてくれればいいじゃないか、と訴える。美代子は、伊達の推測が真実なら自分はいけないことをしているが、それでも、心のどこかが清々しているのも事実だと心の内を吐露。伊達は、それ以上言葉を発することはできなかった。

その日の夜、三上国治(大杉漣)のバーに立ち寄った伊達は、自分たちが行っている制裁行為の是非について思いを巡らせていた。

翌日、久遠は日向を呼び止め、江原に共犯者がいたと明かす。そして、その男とコンタクトしたところ、保護を求めてきたため、伊達にその男がいる第九倉庫に行くように伝えてくれ、と頼む。

その後、倉庫にやってきたのは日向ひとりだった。暗い倉庫のなか、自首するから、警察署に連れて行ってくれ、と男の声がした。ところが、日向は保護するどころか男に向け、銃を撃ち続けた。と、人影が音を立てて倒れた――次の瞬間、電気が点いた。人影はマネキンで、後ろを振り向くと、日向に麻酔銃を向けて立つ伊達の姿が、その近くには久遠の姿もあった。

江原に共犯者がいたというのは、日向の正体を暴くため、伊達と久遠がうった芝居だったのだ。

伊達に対峙した日向は、伊達も自分も、遺族を助けるために法を無視して人を裁く同じ仲間だ、と言うが、伊達は「お前と一緒にするな」と声を荒げる。それでも、自分たちは救世主だ、と続ける日向に、お前は人を殺したいだけで、お前のやっていることはただのエゴだ、と伊達は反論。そんな伊達に日向は、それならば伊達のやっていることはエゴではなく正義なのか、と問う。伊達の心が一瞬揺れたのを、日向は見逃さなかった。と、次の瞬間、何者かが伊達を背後から殴打、伊達は倒れてしまう。すると、日向が「遅かったね。兄さん」とその男に声をかける。それは、吉住だった。吉住から銃を受け取った日向は、「救世主はひとりでいい」というと、伊達に銃口を向けた。

その頃、久遠は吉住に襲われ倒れていた――と、銃声が響き……。



(以上公式サイトhttp://www.fujitv.co.jp/JOKER/index.htmlより)


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フジテレビ・オン・デマンドジョーカー許されざる捜査官
一話315円、全話1575円

第七話:概要

放送日: 2010年8月24日
タイトル: 「CRIME7 模倣犯現る…間違った正義」
演出: 石川淳一


<ゲスト>

日向: 忍成修吾


根津美代子: 尾野真千子

吉住(日向の兄): 飯田基祐


根津健太: 山中崇

エハラ(根津の上司): 水野智則

根津の弟: 遠藤要


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第六話:感想

いつか来るだろうと思っていたストーリーだった。話数は想像していたより早かったが、伊達たちの仕事が何であるかを再定義するためには重要な回だった思う。視聴率も前回の出来を見てどうかと思っていたが上げてきた。固定ファンがしっかり付いているようだ。
ただ脚本はプロットをそのままセリフにしたような出来であまり良くない。この脚本家であればもう少しプロットを整理して、役者の演技を活かす緩急をつけたいいシーンとセリフを生み出せる筈だ。練って推敲するだけの時間が取れないのか脚本に疲れが見えるのが残念だ。

構成に関しても今回は盛り込むべき内容が多くあった。しかし尺は変わらない。
であればプロット全てを無理矢理組み込むのではなく思い切ってバッサリ切って、伝えたいことだけを丁寧に描くほうが作品の質は保たれた。

演出もテンポが悪く、脚本の冗長さと相まって、散漫な印象を受けた。
それを補うようにBGMを多用していたが、俳優がきちんと良い演技をしているのにBGMで状況を説明しようとするのはどうにもクドい。
久遠の暴走を目の当たりにした捜査一課や鑑識の面々が、それこそ役名なしの俳優も含めて、それぞれの役の気持ちを伝えるいい演技をしていたのに、そこをガヤ扱いにしてしまったのも大変残念だった。
久遠と文弥のキャッチボールのシーンも、2人に会話させればいいところを、なぜアフレコにしたのか全く意味不明だ。

一方で久遠とあすかのシーンや、来栖と冴子のシーンなど、男女2人のシーンではいい雰囲気の絵が見れた。シーズン後半に向けて色っぽい展開かあるかどうかわからないが、あっても面白い。
文弥の転落現場に到着した伊達たちをすり抜けるように久遠が走っていったシーンも、赤いアロハの残像が鮮烈な印象を残す良いシーンだった。
久遠が文弥の頬を摘むシーンも、遺体になったときだけ摘み方を微妙に変えることで、それが死体であることを伝える絶妙な演出だった。

俳優陣については相変わらず上手い。
ゲストの高杉亘は「ダメな父親から戻れなくなってしまった弱い男」を実に巧みに演じていた。錦戸の少年時代を演じるのは「流星の絆」に次いで2回目の嘉数一星も、独特の存在感で久遠の過酷な過去を鮮烈に印象づけた。
文弥役の渡邊甚平、まお役の佐々木麻緒も、ポテンシャルの高さを強く感じる子役だったし、綾田俊樹は相変わらずのイイ味だ。螢雪次朗の演技の幅にも驚かされる。

文弥の遺体を前にした錦戸の演技も素晴らしかったし、堺の「ばかやろう」も堺にしか出来ない複雑で繊細な演技だった。鹿賀については全く申し分ない。
平山とりょうの相性も予想外にいいし、錦戸と杏のケミストリーも現れてきている。土屋も堀田と久遠の間の微妙な感情を堀田らしく丁寧に演じている。とてもいい俳優だ。
永岡、佐伯、井上、鈴木もそれぞれキャラクターを確立してきていて見ていて楽しいし、捜査一課の役名なしの俳優たちも存在感のある良い仕事をしている。

ただ気になったのは錦戸のアフレコだ。
表情ひとつで鳥肌が立つような見事な演技をしてみせるくせに、アフレコとなったら学芸会レベルにまで落ちてしまう。もう少し落ち着いてゆっくり喋るようにしたほうがいい。

ストーリーについては今回初めて闇の制裁を受けずに法で裁かれる犯人が登場した。それはそれで正解だったと思う。

視聴者のカタルシスは「闇の制裁」によってしか得られないという訳ではない。
受けるべき罰から逃げた者に「応報の罰」が与えられるシーンが見れれば、それで視聴者はカタルシスを得ることが出来る。
その「応報の罰」は当然「法による裁き」であっていいし、「犯罪を立証した上での告発」でも構わない。ドラマらしく「悪人が自ら墓穴を掘って大恥をかく」的なものでもいいだろう。それこそ闇の裁きは3回に1回でも構わない。
穴だらけのプロットで無理矢理に「闇の制裁」に持ち込むほうが、逆にフラストレーションが溜まるというものだ。

今回伊達は「自分たちのしていることは復讐ではない」と言い切った。
もっとも今までの話を見ていると「第三者による恣意的な復讐(私刑)」にしか見えないので、説明セリフで帳尻合わせをしている感は否めない。
では「復讐」でないなら何であるべきなのか?それについては次回書きたいと思う。


事件のストーリーラインについては、久遠の過去に大きく触れるものだった。

このドラマでは「遺族の心の傷を癒すのは被害者との暖かい思い出と、遺族の心を思いやる第三者の理解である」というメッセージを発している。
第一話で幼い息子を殺された両親も、第二話で母を失った息子夫婦も、第三話の孝行娘を失った母親も、第四話の一人娘を逆恨みで殺された父親も、第五話の夫を自殺に追い込まれた妻も、失った家族が自分たちを愛してくれていたという事実に気づいて、悲しみを乗り越えようとしていた。
第六話の今回、その遺族の立場になったのは久遠だった。

父親からの虐待と捨てられたという痛みから抜け出せずに、苦しみ続けている久遠にとって、第三話の被害者・晴香や今回の文弥の痛みは、まるで自分のことのように感じられただろう。
もし久遠が伊達のように「誰かからの救いの手」によって苦しみから救い上げてもらっていたなら「親にすら虐待されてしまう自分」を受け入れることが出来たかもしれない。
しかし久遠は誰からも救い上げられることなく、どれだけ我慢してもそばにいたかった父親にすら、結局は捨てられてしまった。

4歳で母を失ってから虐待を受け続けていた久遠には、母親の記憶も、普通の子供が持っている暖かくて他愛ない日々の記憶すらもないだろう。
あるのは一度だけ父親に連れて行って貰った海の記憶と、母親の形見であるカメオのブローチが連想させる母親のイメージくらいなもので、文弥が必死で取り戻そうとしていた「優しかった以前の父親」も持ってはいない。
幸せだった時代の記憶があれば「いつかあの頃に戻れるかもしれない」と希望も持てる。しかしそれすらもないとなれば、虐待される理由を「自分」か「相手」に求めるしかなくなる。

親から暴力を受けている子供の殆どは「親は悪くない」「暴力を振るわれてしまう自分が悪い」と思い込む。
虐待される理由を「自分」に求めて、「愛されていない」のではなく「悪いことをしているから叱られているだけ」だと考えるのだ。
「父親は悪くない」と言った文弥を理解していた久遠もまた「父親に虐待されるのは自分が何か悪いことをしているのだ」と思っていただろう。

しかし大人になれば「虐待された自分」が悪いのではなく「虐待した親」のほうが悪いのだと理解るようになる。
それは同時に「ただ単に自分が親に愛されなかっただけ」という現実を目の当たりにすることにも繋がる。
どんなに酷い虐待の痛みよりも、この「どれだけ耐えても愛されなかった」という現実のほうが、はるかに深く久遠を傷つけただろう。
その行き場のない怒りと悲しみが久遠健志という男を形作っている。

親に愛されなかった自分自身を受け入れて愛してくれる他の誰かを探すでもなく、誰かに自分を分かってもらおうとするでもなく、自分を閉ざして「はみ出し者のチャラ男」の仮面をしっかりと被ってしまった久遠に、救いの道など残っている筈がない。
鑑識員として物証を掴み犯罪を暴く仕事は、久遠に「正義」という寄る辺を与えただろうが、同時に限界も見せたことだろう。

第三話、第六話と、久遠は犯人に銃口を向けた。
その先に見ていたのは憎い父親の姿だったのだろうか?おそらくそうではない。
久遠が消してしまいたかったのは「どれだけ耐えても愛されずいとも簡単に捨てられてしまった自分自身」、壊してしまいたかったのは「そこから抜け出すことが出来ない自分自身」だろう。

もし久遠が伊達という理解者を得なかったら、久遠は自分自身を受け入れることも、行き場のない怒りと悲しみを消化することも出来ないままに、独りよがりな「正義」に身を任せてしまったかもしれない。
堕ちることで自分を壊してしまっていたかもしれない。

何がなんでも守ろうと思っていた文弥を殺されてしまった久遠は、今回、文弥の実質上の遺族だった。
「遺族の心の傷を癒すのは被害者との暖かい思い出と、遺族の心を思いやる第三者の理解である」というドラマのメッセージの通り、久遠は文弥からの最後のメールで、ただ耐えるだけでなく抜けだそうとする勇気を受け取った。
文弥は殺されてしまったが、文弥との暖かい思い出は久遠の心の中に確かに残った。
そしてそんな久遠の心を理解してくれる伊達や三上もいる。
悲しみはそう簡単に癒えなくても、いつか時間が「苦しさ」を「憎しみではない何か」に変えてくれるだろう。

今回面白かったのはこの後だ。

文弥の父・広之が犯行を認め謝罪したのを見届けた久遠は、文弥と伊達からもらった勇気を胸に実の父親に会いに行った。
15年ぶりにあった父は、一度だけ連れていった海のことも、久遠がその絵を描き続けていたことも覚えていた。幼い久遠が描いていたのと同じ絵を一心に描いている父親の姿を見た久遠は、再び父親からの愛情を期待しただろう。
見ているこちらも「愛されていなかったわけじゃない」というオチになるのかと思っていた。

ところがボケ気味の父親は久遠が誰だか判らず、虐待して捨てた息子に向かって「どなたですか?」と穏やかに微笑んでみせた。
このときの久遠の気持ちは察するに余りある。勇気を振り絞って父親に会いに行ってみれば父親は息子のことすら判らない。しかも自分には微笑みかけてくれなかった父が、見も知らぬ人間には柔らかく微笑んでみせるのだ。
結局また久遠の気持ちは置いてけぼりにされてしまった。

そんな久遠を慰めたのは伊達でも三上でもなくあすかだった。
あすかは久遠が虐待されていたことも父親に会いに行ったことも知らない。ただ久遠が落ち込んでいるのはわかるから、何も言わずにそばにいようとしている。
文弥のそばに久遠がいようとしたように、久遠のそばにもまた、あすかがいようとしてくれる。

父親に捨てられたあとの久遠がどのように成長したかはわからない。
しかし、こうして理解ろうとしてくれる人を得ていくことで、久遠は過去を乗り越えていくのだろう。
そして久遠にとって大切な人が増えていけば、久遠の暴走や狂気もまた少し違った形で現れてくるのかもしれない。
久遠はやっと得られた大切な人々に彼なりの精一杯の献身をするだろう。伊達や三上、あすかに心を開いていけばいくほど、久遠の彼らへの思い入れは深まる。

伊達やあすかに比べて不完全で不安定だが、頭が切れて実力があるぶん、久遠は敵に回すと厄介な男だ。
似たタイプの敵とガチでやりあうところも見てみたいものだ。


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第六話:伏線?セリフ集

 
<5年前>

(夏樹殺害現場に駆けつける伊達と冴子。そこには変わり果てた夏樹の姿があった)

伊達「宮城…」

冴子「…どうして?」

(井筒が到着)

井筒「おつかれ」

(遺体の前にしゃがんで手を合わす)

井筒「宮城の携帯は?」

溝口「そこの遺留品の中にあります」

冴子「(苛立を滲ませて)それ、どうするつもりですか?」

井筒「何か手がかりが掴めるかもしれんだろ」

(井筒、夏樹の携帯の中身を見た後、その携帯を持って立ち去る)

***********************************************************

(前回続き。深夜に一人、夏樹の捜査資料を調べるあすか)

あすか「”捜査一課長の井筒将明”…どうして次のページがないんだろ」

(井筒、不意に背後からあすかの肩を掴む)

井筒「過去の捜査資料は持ち出し厳禁だよ?」

あすか「すみません」

(あすか、資料を返却するために立ち上がる)

井筒「あのさあ!(あすか振り返る)…片桐に何か言われた?」

あすか「(ひきつり笑いを浮かべて)片桐、って、誰ですか?」

井筒「ふ、ふふっ…判りやすいねえ君は。兄貴と一緒だ」

***********************************************************

冴子「木内亨、春日恒夫、山原哲司、椎名高弘、そして、氷川成美。今年に入ってから5名が神隠しにあってる」

三上「よく調べたな」

冴子「5名の共通点は、法の裁きから逃れたこと、消息が掴めないこと、そして、神奈川県警本部の捜査一課が動いていること」

三上「まさか警察内部の仕業だなんて言わないよな」

冴子「(伊達に向かって)あなたも捜査一課だよね。次は誰がターゲットになるのかなあ」

***********************************************************

(交番にいた少女まおから同級生の吉永文弥が虐待を受けているので助けて欲しいと言われた久遠は文弥の自宅を尋ねる。児相や刑事にも躾だと判ってもらったという文弥の父親・広之に対し)

久遠「あなたにとっては躾でも文弥くんにとってはそうじゃないかもしれない」

***********************************************************

まお「(文弥の家から戻ってきた久遠に)どうでした?」

久遠「あれ、虐待じゃないなあ」

まお「そんなあ」

久遠「そう思ってもらいたいはずだよ、君には。…大丈夫。文弥くんは俺が守ってやる」
***********************************************************

(捜査一課は連続強盗事件の報告会の最中。来栖は苦情電話に対応中)

来栖「大変申し訳ありませんでした(電話を切る)」

(久遠が部屋に入ってくる)

久遠「伊達さん、ちょっといい?」

来栖「おい、久遠!いま青葉台署から連絡があったぞ。おまえ吉永文弥に会いに青葉団地に行ったらしいな」

あすか「青葉団地って強盗傷害の現場付近だ…」

久遠「吉永文弥は虐待されてます。痣もありました」

来栖「吉永家はな、もう所轄が様子を見に行ってんだ。虐待の事実は本人が否定してるし、父親も躾の延長で…」

久遠「(来栖の言葉を遮るように)まともに見てねえのに何が躾だよ」

来栖「(怒った表情で久遠に一歩近づく)ああっ?!」

久遠「職務怠慢だって非難されたくないからとりあえず聴取しただけだろ?そんなのなんの解決にもなんねえよ」

(堀田が久遠を制するために来栖の前に進みでて、片手で久遠の襟元を掴み上げる)

堀田「おい、なめた口叩いてんじゃねえぞ」

久遠「(冷たく)はなせよ」

(ガチで喧嘩を売ってきている久遠に、堀田の目が一瞬で鋭くなる)

滝川「ちょっと!止めましょうよ!」

(井筒が部屋に入ってきて)

井筒「おっ、喧嘩か?いいねえ、やれやれ!」

滝川「課長!」

(堀田、久遠を睨みつけたまま手を離す)

井筒「なんだやらないのか。つまんねえなあ。…おい久遠、おまえバケツ持って廊下立ってろ」

久遠「なんで俺が!」

井筒「許可無く民家に入った罰だ。それと減俸三ヶ月。セットでね。セット料金」

***********************************************************

(廊下で両手に水の入ったバケツを持って立っている久遠)

滝川「落ちこぼれみたいですね。あ、落ちこぼれか。お先に~」

伊達「ああそういえば、話って何だったんだ?」

久遠「ああ、ケータイ借りようかと思って」

伊達「携帯?」

久遠「いや、俺のケータイ文弥が持ってんだよ。だからあいつと連絡取りたくて。俺が救ってやんねえと」

伊達「虐待か、躾か、その判断をするのは難しい。今のままじゃその文弥くんて子が虐待だと認めない限り、警察もこれ以上動けない」

久遠「伊達さんもあいつらと一緒かよ」

(伊達、久遠のシャツの胸ポケットに自分の携帯を入れて立ち去る)

***********************************************************

(バーmikami。伊達にファイルを差し出す三上)

三上「小僧の経歴だ。あいつ、4歳のときにおふくろを亡くしてから10歳までの間、ずっと親父から虐待を受けてたんだ」

***********************************************************

<15年前>

(夏の暑い部屋。クレヨンで無心に海の絵を描いている幼い久遠)

久遠の父「おい、酒買ってこい」

久遠「え…お金…ないけど…」

久遠の父「なけりゃ作ってくりゃいいだろ!」

(久遠を突き飛ばし、引き出しからカメオのブローチを取り出して放り投げる)

久遠の父「ほら!これ売って買ってこい!」

久遠「これ母さんの形見…」

久遠の父「いいから買ってこいよっ!」

(久遠の父、息子の顔めがけてカップ酒の空き瓶を投げつける)

久遠「あっ…」

(左目の上にもろに当たって血が流れる。背中には生々しい紫色の火傷痕が覗いている)
***********************************************************

(久遠部屋。引き出しの中からカメオのブローチと、ブローチが入っていた封筒を取り出す久遠。封筒には介護老人ホームの名前と住所が印刷されている。ブローチと封筒の住所を見つめたあと、伊達から借りた携帯を手に取る久遠)

(文弥の家。久遠から預かった携帯がメール着信を告げる。携帯を開く文弥)

久遠からのメール『俺、親に虐待されてたんだ くどう』

(驚く文弥)

久遠からのメール『学校の奴らにはバレたくなかった。だからいつもヘラヘラしてた くどう』

***********************************************************

(メール着信音。携帯を開く久遠。覗き込む伊達)

久遠「(嬉しそうに)文弥からの初メール」

文弥のメール『気持ち、わかる。 ふみや』

伊達「何の話?」

久遠「内緒~」

***********************************************************

あすか「これ、捜査資料まとめたものです」

冴子「ありがとう」

あすか「でも1ページなかったんです。…あの、井筒課長が容疑者だったって本当ですか?」

冴子「ん…5年前、井筒課長が使ってた情報屋が殺されてね」

あすか「はい」

冴子「その前日に井筒課長がその男と口論していたところを目撃されているの。その情報屋と井筒課長との関係を夏樹が単独で洗ってたら、一週間後に…」

あすか「それが容疑をかけられた理由ですか?」

冴子「2人とも同じナイフで殺されていた。しかも井筒課長がやったっていうタレコミまであって。でも物証は出てこなかった。課長も知らないの一点張り。…実はね、課長を取り調べたのは伊達なのよ。でも取調べは形式だけで、すぐに井筒課長の容疑は晴れた」

あすか「どうして」

冴子「アリバイがあったのよ。あの日、井筒課長は伊達と一緒に別の事件を追ってたの。川崎のコンビニ強盗殺人」

あすか「じゃあ井筒課長じゃないんですね」

冴子「そのアリバイが本当だったらね」

(表情が硬くなるあすか)

***********************************************************

(昼間は文弥の虐待について捜査しているため、青葉町連続強盗事件について捜査状況を追うために一人残業している伊達。井筒が帰りしなに伊達に声をかける)

井筒「妙なことと言えば、宮城が兄貴の事件を調べてる」

伊達「(どうとでも取れる表情で)そうですか」

井筒「…ま、心配するこたぁないか。お疲れチャン」

***********************************************************

(久遠と文弥、河原でキャッチボールをした後)

久遠「このまま誰にも言わないつもり?身体の傷のこと」

文弥「僕は何もされてない」

久遠「憎くないの?親父のこと。俺は許せなかった」

文弥「お父さんは悪くない。悪くないんだ」

***********************************************************

(久遠部屋)

あすか「久遠さんって過去引きずったりしますか?」

久遠「何、突然」

あすか「いや、私は全然切り離せなくって。今でも亡くなった兄のこと探してる気がします」

久遠「別にいいじゃん、それで。てか過去と向き合ってるだけ立派じゃね?俺なんか振り返りたくもないし」

(あすか、久遠の机の上のカメオと封筒に気づく)

久遠「あ、これ?(封筒を手にして)親父がここにいるんだよ、俺を捨てた。10歳のときだったから、もう15年会ってない。んで2年前にこれが届いて、ここにいること知った」

あすか「介護施設?」

久遠「うん(封筒を捻ってゴミ箱へ捨てる)ま、もう会うこともないだろうけどね」

***********************************************************

来栖「吉永文弥の虐待について調べてんのか。あのなあ、俺達が追わなきゃいけねえのは同じ青葉町でも窃盗団の方なんだよ」

伊達「は、はぃ」

来栖「勝手な真似すんじゃねえ」

伊達「はぃ、すみません…」

来栖「ああああ、ウザイ、ウザイ、ウザイ、…はーっ、ウザっっ!」

***********************************************************

(廊下で冴子と出くわす来栖)

来栖「おい、ここは部外者立ち入り禁止だぞ」

冴子「まあまあ、すぐ済むから」

来栖「ダメだ」

冴子「チッ。だったらこれ伊達に渡しといて」

(冴子、資料を来栖の鼻先に押し付けて帰っていく)

来栖「なんだ、あの女」

***********************************************************

<15年前>

(夏の暑い部屋。クレヨンで描いた海の絵。父親はいない。10歳の久遠がフラフラと立ち上がり、水道の蛇口に口を付ける。しかし水は出てこない。そのまま倒れこむ久遠)

***********************************************************

(文弥が死んだのは自殺で学校でのイジメが原因のように話す文弥の父親に久遠が殴りかかる)

久遠「何嘘ついてんだよ!全部てめえのせいだろ!」

(騒然とする現場。久遠を取り押さえる来栖・堀田・轟)

久遠「おまえが殺したんだろ、おまえが文弥を!」

(久遠の感情の爆発を静かに見つめる伊達)

***********************************************************

(堀田と轟に連れられて現場から出てくる久遠。そこにまおが現れる)

まお「嘘つき!」

(涙を溜めて久遠を睨みつけるまお)

まお「守ってくれるって言ったじゃない!嘘つき…!嘘つき!」

(泣きながら久遠の胸元を叩くまお。硬い表情で見下ろす久遠。痛まし気に見つめるあすかと伊達)

***********************************************************

(見張り付きで取調室に軟禁されている久遠。伊達が入ってきて見張りを代わると申し出る)

久遠「伊達さん…」

伊達「ばかやろう」

(伊達を見つめる久遠)

伊達「自殺の線で固まりそうだ」

久遠「ちょっと待ってよ。明日巨人戦観に行こうって約束してたんだよ?自殺なんかするわけねえだろ?」

伊達「そのあと心変わりしたのかもしれない。それはメールじゃ判断できない。それと父親の虐待を立証するのも難しいそうだ。転落の損傷が激しくて虐待の痕を確認出来ないらしい。君も知ってる通り、新しい傷が古い傷痕を消してしまうことはよくある」

久遠「俺見たんだって!文弥の身体には確かに痣があったんだよ!」

伊達「だとしてもそれが虐待の痕だと証明するのは難しい」

久遠「じゃあ…あの親父は法では裁けないってこと?」

(なぜか取調室の机に設置してあるカメラが作動していて、マジックミラーの向こうにある小部屋のモニターには久遠の顔が映っている)

久遠「頼む、伊達さん。裁いてくれ」

伊達「父親が文弥くんを虐待していたということも、彼を殺害したということも、何の確証も得られていないんだ。動くことは出来ない」

久遠「何でだよ!俺には判んだよ!あいつがやったんだって!あいつが文弥を殺したんだよ!文弥は間違いなく前を向こうとしてた。変わろうとしてたんだって!」

伊達「憶測で人を裁けばそれはただの犯罪者だ。君が憎んできた奴らと何も変わらない」

(久遠、泣きそうな表情を浮かべる)

***********************************************************

(右利きの文弥がベランダの手摺を乗り越えるのに左足を上げていたことに対して)

伊達「もちろんこれが証拠になるとは思っていません。ですが私に取っては十分過ぎる違和感です」

***********************************************************

(取調室に軟禁中の久遠。見張りはなぜか井筒)

久遠「なんで課長が俺の見張りなんすか?」

井筒「だってみんな忙しいんだもん。しょうがねえじゃん」

(井筒立ち上がる)

久遠「どこ行くんすか?」

井筒「ん?(タバコを吸う真似をしながら)トイレ。あ、おまえさあ、逃げんなよ?な、逃げんなよ」

(取調室から出て行く井筒)

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(文弥の転落現場にいる伊達。そこに窃盗事件を捜査中のあすかが現れる。あすか、少し躊躇ったあとに思い切って口を開く)

あすか「あの、5年前の兄の事件なんですけど。伊達さんが井筒課長を取り調べたって聞きました。井筒課長の犯行は本当に不可能だったんでしょうか」

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(窃盗団を逮捕し捜査一課に戻ってきた伊達。そこには久遠を見張っていたはずの井筒がいた)

井筒「あーご苦労さん」

伊達「課長…久遠を見ててくれたんじゃ…」

井筒「あ?ああ。ちょっと目を離した隙にさあ、どっか行っちゃった」

伊達「え…」

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(文弥の父・広之がパブから出てきたところをつける久遠。人気がなくなったところで広之を背後から蹴り飛ばす)

広之「おまえ…!」

(広之に銃口を突きつける久遠)

久遠「おまえが文弥を突き落としたんだろう?」

広之「何だよ…」

久遠「おまえが殺したんだろ?」

広之「…頼む…撃つなよ…な…撃たないでくれ、頼むよ…」

(広之の顔面を蹴り飛ばして気絶させる久遠)

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(埠頭に走りこむ久遠の車。待っていたのは三上)

三上「伊達はどうした?」

久遠「………」

三上「どうした?と聞いてる」

久遠「後から来るよ」

三上「おまえの独断か」

久遠「この男を始末して欲しい」

(車の後部には気を失っている広之が)  

三上「ハンパなことしやがって。誰なんだこいつは」

久遠「虐待で息子を殺した父親だよ」

三上「確証は?」

(伊達が現れる)

伊達「確証はありません」

久遠「伊達さん」

三上「だからこんな小僧は入れるなと言ったんだ」

久遠「こいつがやったんだよ!こいつが文弥を散々殴って蹴った挙げ句に、人形みたいに殺したんだよ!どんな仕打ちを受けてても文弥は虐待されてるとは言わなかった。何でだと思う?」

(久遠を見つめる三上と伊達)

久遠「親だからだよ。文弥は僅かな望みに掛けてたんだよ。こんな奴でも信じてたんだよ。いつか…いつか分かってくれるって。なのにこいつは改心するどころか文弥の命を奪った。許せるわけねえだろ!」

(伊達、静かに久遠を見る)

久遠「終身刑が出来ないなら、俺が殺してやる」

(広之に銃口を向ける久遠)

三上「久遠!…おまえガキの虐待を自分の復讐にしようとしてんじゃねえのか!」

(伊達の携帯が鳴る)

伊達「宮城くんからだ(電話に出る)はい」

あすか「文弥くんが殺されたって証言が取れました。例の窃盗団の一人が見ていたんです。窃盗の犯行がバレるのを恐れて黙っていたそうです」

(伊達、電話を切る)

伊達「吉永が文弥くんを殺害したところを目撃した人間がいたそうだ。…これで吉永を逮捕できる」

久遠「駄目だよ」

伊達「久遠」

久遠「パクってムショに入れたところでいつかは出てくる。人殺してんのに。あんな酷い仕打ちしてんのに。こんなクズいなくなったほうがいいんだよ」

伊達「それは君が決めることじゃない。法で裁ける人間は法で償わせるんだ。俺達がやってるのは復讐じゃない」

(伊達、携帯を操作して文弥の最後のメールを開く)

伊達「文弥くんが君に出した最後のメールだ。”巨人戦楽しみにしてる”その下にもう一文残してた。”勇気をくれて、ありがとう”。文弥くんは抜けだそうとしてたんだ。ただ耐えるだけの日々から。今度は君が抜け出すんだ。君が闇に葬るのはその男じゃない。過去の自分だ!」

(久遠、目に涙を溜めて銃口の先の広之を見る。久遠の中で様々な感情が葛藤する)

久遠「うあぁぁぁぁっ!」

三上「久遠っ!撃つな!」

(発砲音。弾丸は広之ではなく海に消えた。久遠の目から流れ落ちる涙。安堵する三上)

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(取調室)

広之「…私がやりました…すいませんでした…」

(マジックミラーの向こうで見ている伊達と久遠。自白を聞いて久遠は無言で小部屋を出て行く)

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(カメオのブローチが送られてきた封筒を頼りに、父親がいる介護老人施設を訪れる久遠)

介護士「久遠さん、絵、上手なんですね」

(その声の先には、寝間着を着て車椅子に乗った久遠の父が、クレヨンで何かを描いている姿があった)

介護士「久遠さん海が好きなんですか?」

久遠の父「一度だけ2人で見に行ったことがあるんです。”あいつ”はいっつもこの海描いてた」

(久遠の父が描いていたのは、幼い久遠が描いていたのと全く同じ構図の海の絵だった)

久遠「(ごくりと唾を飲む)”あいつ”って?」

(久遠の声にゆっくりと顔を上げる父親、見つめあう父子。父親が柔らかい表情を見せる)

久遠の父「あなたは…どなたですか?」

(久遠の目が悲しみに潤む。久遠を知らない人間だと理解した父親はまた絵を描き始める。その父の手にカメオのブローチをしっかりと握らせる久遠)

久遠「大事にしろよ。じゃあな」

(久遠、立ち去る。父親はカメオのブローチを見て何かに気づき久遠を視線で追うが、久遠は振り返らずに去っていく)

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(久遠部屋。元気のない久遠。そこにあすかがやってくる)

久遠「伊達さんならいないよ」

あすか「知ってます」

(あすか、久遠の隣に椅子を置いてそこに座る)

久遠「何?」

あすか「落ち込んでる時、誰かにいてもらうとホッとするんです。何も言わないでただそばにいてくれるだけで」

(久遠、あすかが何のために来たか理解する)

久遠「伊達さんに何か言われた?」

(あすか、無言の否定)

久遠「…サンキュ」

(あすか、頷く)

久遠「ちゅーしていい?」

あすか「(間髪置かず)だめ」

(いつものノリに戻って2人笑顔を浮かべる)

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(冴子、夜に捜査一課にいくと来栖だけが残っている)

冴子「チッ」

来栖「だからあ!」

冴子「部外者は入るな!でしょ?ちゃあんと伊達に資料渡してくれた?」

来栖「渡したよ!けど、何で今更5年前のコンビニ強盗殺人なんて。あんなにすぐ解決した事件…」

冴子「知ってんの?」

来栖「ああ。俺も所轄の署員として関わったんだ。本部の一課だった伊達と一緒に」

冴子「あなたが伊達と組んでたの?」

来栖「ああ」

冴子「あの事件の日、夏樹は殺された…。伊達と井筒課長とどこ捜査したか覚えてる?」

来栖「課長が俺達と一緒に捜査したことなんて一度もねえよ」

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<5年前>

(県警本部の応接室)

三上「どうして井筒をかばった?」

伊達「井筒課長はやっていません。なのにまるで警察全体が課長を犯人に仕立て上げているように思えたので」

三上「だから井筒のアリバイを偽ったのか?」

伊達「………」

三上「宮城夏樹の捜査が打ち切りになった。井筒が疑われたように警察内部にホシがいるのは確かだ。だったら不祥事になる前にもみ消そうってのが上の考えだ」

伊達「納得できません」

三上「未解決事件にさせたくない気持ちは俺も一緒だ。おまえと意見が違う点は一つだけ。俺は…井筒がホンボシだと思ってる」

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三上「あすかちゃんが夏樹の事件追ってるとはなあ。冴子ちゃんの入れ知恵か」

(靴音を立てて客が入ってくる)

三上「いらっしゃ…」

(客の姿を見て三上と伊達の表情が固まる)

井筒「…よお」

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久遠健志の父親

久遠健志の父親 … 螢雪次朗公式サイト

久遠健志の父親。久遠が4歳のときに妻を亡くし、酒浸りになって久遠に酷い虐待を繰り返した。久遠の背中にある酷い火傷痕やタバコを押し付けられた痕はこの父親によるもの。久遠が10歳のとき久遠を捨てて蒸発。今は静岡の介護施設に入所している。

・螢雪次朗 … 1951年8月27日生まれ、B型、埼玉県出身、身長170cm


<トリビア>
・アル中
・仕事はたぶん工事現場の交通整理員
・久遠は晩年に出来た子供のようだ
・息子に虐待で大火傷を負わせたり、タバコの火を押し付けたり、顔面めがけて近距離からワンカップの瓶を投げつける鬼畜な父親
・妻の形見のカメオのブローチを飲み代に使おうとしていたが結局使わず、久遠を捨てて家を出たときに唯一金目のそのブローチも持って出た。それから13年間久遠とは連絡を取っていなかったが、2年前に突然久遠の元にカメオのブローチを送りつけてきた。どこで久遠の所在を知ったのかは不明。ブローチは入所していた介護施設の封筒に入っていた
・施設の名前は「介護老人保健施設まほろばの家」417-0097静岡県富士市今泉4002-1
・一度だけ幼い久遠を連れて2人で海を見に行ったことがある
・現在は痴呆症状が現れているように見える
・捨てる前の久遠が繰り返し描いていた海の絵を覚えていて、介護施設で同じ絵を描いている。老いて息子との僅かな思い出と息子への愛情が蘇ったのかもしれない
・介護施設にいる自分を訪ねてくれた久遠を見ても息子だとわからなかった。カメオを渡されて相手が誰か気づいたかもしれない




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